気迫溢れたベームのブラームス
曲目ブラームス
1.交響曲第1番ハ短調 op.68*
2.悲劇的序曲Op.81**
3.交響曲第4番ホ短調Op.98***
4.ハイドンの主題による変奏曲Op.56a****
指揮/カール・ベーム*,***
ロリン・マセール**
オイゲン・ヨッフム****
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団*,**
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団***
ロンドン交響楽団****
録音:1959/10/18-22 イエス・キリスト教会、ベルリン*
1960 イエス・キリスト教会、ベルリン**
1975/05 ムジーク・フェラインザール、ウィーン***
1975/03/18,19、ロンドン ****
P:オットー・ゲルデス*,ヴェルナー・マイヤー****
E:ギュンター・ヘルマンス*,***
D:ハンス・ヴェーバー*,ヴェルナー・マイヤー***
E:ギュンター・ヘルマンス*,***
D:ハンス・ヴェーバー*,ヴェルナー・マイヤー***
独DG 413242-2

ここでブラームスの交響曲第1番を演奏しているのはベルリン・フィルですが、録音された1959年と言えば歴史的大指揮者フルトヴェングラーが亡くなり、カラヤンが引き継いだ直後で、まだまだ昔ながらの重戦車的なドイツカラーが思い切り残る頃のオケです。そんな名オケをベームが(恐らく)例によって練習でみっちりとオケを締め上げて、一点一角もおろそかにさせない実に厳しい演奏に仕上げています。60歳代のベームの気力充実の入魂の一曲でしょう。
演奏は、第1楽章から並々ならぬ頑固でスケール感のある響きで開始されます。ティンパニの連打が右手後方より重量感のある圧倒的な響きで迫ります。これぞベルリンフィルの音という響きです。続く主部のテンポは決して慌てず、かつ重くもならない自信満々のテンポでグイグイ進められます。第2楽章もムードに流れる事無くしっかりとしたテンポでメロディーを歌い、ミシェル・シュワルベのソロ・ヴァイオリンの上手さが光ります。第3楽章も落ち着いた牧歌的雰囲気の漂う佳演です。終楽章は充実度満点の懐の深い表現で全体を締めくくります。楷書による演奏の極地ですが、最高のアンサンブルを誇るベルリンフィルが相手だと前日のスワロフスキーの演奏とは格の違いを見せつけられる気がします。
そんな意味ではまだカラヤンの色に染まらない、ベルリンフィルの凄さを堪能出来る演奏の一枚と言ってもいいでしょう。そしてまた、ベームという指揮者の最高の遺産の一枚といってもいいでしょう。録音も優秀で、これが1950年代のステレオ録音?と耳を疑うような豊穣なサウンドが目の前に広がります。まさに。名演、名録音の一枚です。
交響曲第4番の方は、ウィーンフィルとの75年の日本公演を終えた直後の5月の録音ですが、どうしたことか、枯淡の境地に入り込んでいるのか気力充実とまでは至っていないのが残念です。ウィーンフィルとの録音ということで、美しい響きと音色の柔らかさは比類が無く、演奏の内容は申し分無いのですが、弱音の美しさが無くなっています。スタジオ録音ということで老害がちらちらと伺えます。
さて、ヨッフムの演奏による「ハイドンの主題による変奏曲Op.56a」について一言。この1975年にヨッフムはEMIにブラームスの交響曲全集をロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と録音しています。ただし、その中にこの「ハイドンの主題による変奏曲Op.56a」は含まれていません。業界の慣例でカットされたんでしょうね。この録音はフィリップスのスタッフによってなされています。そして、当初エルガーの「エニグマ変奏曲」とのカップリングで発売されました。ちよっと違和感のある組み合わせです。そこで、このアルバムのカップリングに使用されました。いまはユニバーサル・グループですから何の問題もありません。この「ハイドンの主題による変奏曲Op.56a」は秀演です。なにしろEMIの全集は1978年のレコードアカデミーを受賞しているほどですから悪かろうはずがありません。でもこちらはロンドン交響楽団の演奏です。うーん、なんとなればすべてロンドン交響楽団と録音してくれればもっと名演の全集が出来ただろに・・・・。先にも書いたように、フィリップスの録音ですから音はいぶし銀のようなサウンドです。返す返すも残念です。