【症例】50代男性。膵頭部Caに対して7hrsのPD予定。
【合併症】アルコール性急性膵炎の既往複数回、心不全(EF=45%)とAfでβblocker2剤+ジゴキシン内服中、Xpで心拡大なし、UCGで左室肥大なし、弁膜症なし。コントロール不良のDMでHbA1c=8%台。呼吸機能障害なし、腎機能障害なし。
【麻酔計画】
全身麻酔、Epi、AラインFrotraq、CVプリセップカテーテル、末梢1本追加。
導入時の血圧低下にはネオシネジンone shot & civかDOB、
CV挿入後血圧低下にはNAd、頻脈にはlandiololでHR=100bpm位までを目標に調節、
アルコール性心筋症の合併(収縮能低下、拡張能低下)もあるかもしれないのでボリュームの安全域が狭くあまり入れられないはず。心不全もありHb=10g/dlを目標に早めに輸血。
ScvO2>73と尿量>1ml/kg/hrを保つように適宜Alb、FFP等濃いめのものを入れて。
FrotraqのSVVはAfではあてにならないけどCOの目安にはなることを期待して。
【麻酔の実際】
HRは90台、血圧は120前後。
T8/9からのEpi、test doseは3%Xyを2cc、cold lossはOK。
awakeでAラインをとり、BGAで導入前の時点でK=4.9、BE=-6mEq/Lと低値、手先も冷たい。
導入前にはABP=90台まで低下、epiのone shotは使わずロピバカイン10ml/hrのepi注を開始、TCI=2μg/mlとレミフェンタニル0.1γ、フェンタニル1μg/kgで入眠を得たのち、Sevo1%、ロクロニウムで挿管。
入眠直後からsABP=60台まで低下、ネオシネジン50-100μgで対処しようと考えていたが一時的に上がるもののすぐに低下。そこで応援の先生が来てくれてDOB3γでciv開始。それでも安定はせず適宜ネオシネジン使いながら。振りかえるとここでボリュームをあまり入れなかったのがまずかった。
CV挿入後はCVメインに維持液をつなぎカテコラミンルートとしNAd 0.05γで開始、サブルートからはPGE1 0.005γ、HR>100landiolol 3γで開始。
手術開始前にフェンタニル50μg+生食5mlをepi注、ミラクリッド20万単位をiv。
手術開始してもバイタルは全然安定せず、血圧は低下。
麻酔を浅くし(Sev 0.8+TCI 1.0μg/ml)、痛がっているのがhypoかよくわからないHR↑も認め、NAdが届くまでネオシネジンで頑張る・・・。
このころようやく「末梢開いた分は入れてもいいのかな」と気づき、サリンヘスと外液でvolumeをどしどし入れ始め、
少しレートも血圧も落ち着いてきた。尿バッグを見るとほとんど出ていない。ガスをとるとK=6mEq/Lとなぜか急上昇。血糖も入室時のガスから200台後半でありインスリン3U/hrでciv開始。Kはインスリンで下がるだろうけどラシックスもいこうかと思ったがHr流出あり様子見とした。volumeはひとまずいいかと思いきや、今度はHRが徐々に上昇。オノアクトを10γまで上げるがHR上昇は一向にやまない。浅麻酔を否定したいがSevoやPropを上げると血圧も下がりそうで躊躇していたところに指導医の先生登場。そこでしてくれたことは・・・
・K上昇にびっくりして外液は生食に、維持液は1号液に変更。
・浅麻酔によるHR↑を否定するために麻酔はしっかり深く、とのことでフェンタニル50μgを2回iv、Sevoも1%、TCIも1.2μg/mlに増やした。
・CIが4-5もあったので、DOB 5→1γへ徐々に減量
・ミルリーラ0.125γで開始
・BE=-6に対してメイロン50mldiv ⇒時間をかけてBE=-2台まで改善
・「手先を触って温かいから末梢開いているよ」とのことでhypoによるHR↑を考えアルブミンdiv、RCCとFFPを多めにオーダー。
それでもHRは上昇傾向止まらず、130台へ。オノアクトを10γ以上上げる気になれずHRが120を越えたあたりからなぜか洞調律化し、SVVも信頼できる値を表示、HR↑してもカテコラミンで支えていたため血圧は保たれていたが、HR↑には困っていた。そこでまた指導医の先生登場。
・サンリズム1A50mg+生食100mlを30分でdiv
これを落とし始めるとみるみるHRが100前後まで低下!
こりゃすごい、と思っていたが、落とし終わるとまた徐々にHR上昇。
結局術中110-120台のAfリズムで経過。オノアクトは効いているのか正直よくわからなかったが、術前にも2剤飲んでいたし減らさない方がいいとのことで10γのまま。
Hbが10前後となるようにRCCを、FFPはボリューム源としてどんどん入れた。
腫瘍摘出前には膵炎による癒着剥離のため短時間で1000近く出血し、
RCCとFFPを混ぜて温まり次第どんどん入れていった。
尿量は利尿剤使用なしで比較的よく保たれていた。totalで2ml/kg/hr以上。
血圧とレートは術中を通して終始安定せず、気が抜けることがない12時間の麻酔時間だった。
手術終了間際に麻酔を浅くしていったら血圧は出てきたのでNAdとDOBはoff。
退室後ICUでも高めのHRは持続、尿量も少なく濃縮気味、オノアクトは継続するもhypoによるHR↑には無効か。
指導医の先生いわく、「拡張型心筋症みたいな低心機能の人はカテコラミンあんまり効かないから、ボリューム管理がメインになる。この人もアルコール歴長そうだし、そういうのがあるのかもしれない」ということだった。
【調べもの】
不整脈治療薬ファイル
○サンリズム®(ピルジカイニド)
・Ⅰc群(=APD:action potentioal durationを延長しない)抗不整脈薬。
・日本で最も売れている抗不整脈薬。
・経口投与でも静注に匹敵する速やかな効果
・適応・・・①器質的心疾患や心機能低下がなく、②pAfの出現から間もない
・経口・・・150mg(50mg錠なら3錠)を多めの水で服用、あるいは3T/3x
・静注・・・1A50mg+PS10mlを側管から5分かけてiv max100mg
・75人でのトライアルで有意差あり、副作用なし、使いやすい
・抗不整脈薬には珍しく、腎排泄
○アスペノン®(アプリンジン)
・Ⅰb群(APDを短縮する)
・リドカインとメキシチレンよりもチャネルとの結合・解離が遅い⇒Afの治療にも使える
・適応・・・高齢者、器質的心疾患 ∵陰性変力作用や催不整脈作用少ない
麻酔と心血管作動薬
○ドブタミン
・慢性的にβ遮断薬による治療を受けている患者に投与しても、期待したポンプ機能の改善が得られず、むしろ遮断されたβ2受容体よりも遮断されていないα受容体が活性化されるので、好ましくない血管収縮反応を出現させる可能性がある
ハリソン内科学p1547
http://rockymuku.sakura.ne.jp/zyunnkannkinaika/aruko-rusinnkinnsyou.pdf
アルコール(性)心筋症・アルコールの心毒性
・DCMに類似した臨床像
・禁酒により軽快することもあり
・明らかな心不全のない患者にみられる再発性のAf、PVC(holiday heart症候群:暴飲後の不整脈)
・EF等心機能正常でも収縮能低下、左室拡大、拡張障害(拡張期中隔厚↑)がみられることがある
【もしも同じ症例を最初からかけられるとしたら】
・冷たい指先と低いBEを見た瞬間に「末梢締まってる!」と察知して麻酔導入前からがんがんボリューム入れる。普段導入後に取っている末梢もう一本も導入前からとっておけばよかった。DOBやネオシネを末梢から流して届いたのを確認してから導入したら血圧も下がらなかったか。landiololも導入前から開始しちゃってもよかったかも。いったん痛がらせるとアルチバ上げてもなかなか血圧が下がらないのと同じように、いったん頻脈のクセがつくと戻すのはなかなか難しそうな気もする。
・入室時のBS200台後半を見てCV入れたらすぐインスリンciv開始するべきだった。Kのこともあるし。
・NAdとともにミルリーラも始める。
・輸血はどうせすることになるのだから躊躇せず早めに入れる。
【考えごと】
結局HR↑の原因は最後までよくわからなかった。浅麻酔でもなく、FFP2単位一気に入れたら一時的にHR↓するところを見るとhypoは絡んでいると思う。ただ、またすぐにHRは元に戻ってしまうことを考えるとhypoだけではないのか?こういう場合オノアクトでどうにもならない場合はどうすればいいんだろう?サンリズムは比較的安全だと思うがあくまでも対症的だしいつでも使っていいとは限らないか。でも水が飲めるようになったら3T/3xとかで飲んでもらうのもいいかも。
術後管理は外科の先生の手に。オノアクトとDOB継続中で血圧はまあまあだが尿量少なくHRは130、外液やアルブミン製剤で補正しているがFFPとか行かないとhypoは治らないのでは?このままHR高値が持続するとうっ血性心不全⇒BP↓とならないか心配。2-3日して水が引けてきてマイナスバランスにならないと無理なのかもしれない。
この人は数年間β遮断薬2剤飲んでいる人だった。DOBはあまりよくなかったのかもしれない?がCIはしっかり上がっていた印象。landiolol+DOBっていう組み合わせは良くないのだろうか?
【明日のために】
・心不全患者には周到な計画と素早い判断を。
・K高値をみたら少なくともKを全く含まない点滴に変える。
・輸血のオーダーは早めに。
・抗不整脈薬は必要に応じて術中から使っていってもいいかもしれない。
【その後】
・術後数日はHR=110-120の頻脈が持続、3日後くらいからHR徐々に低下しバイタルも安定。