その3では、世良のジークンドーテクニックのジー・テックに焦点を合わせ、考察しましたが、今回は手技。世良のラプ・ダと言う技術を追及すると、ジークンドーと武術の極意が見えてきます。
世良が蘭と複数の男たちを一瞬で叩きのめすシーンで、世良は男の右手を内側からつかみ、顔面に裏拳をいれ、一瞬でノックアウト。
男の右手を左手で内側から掴み、顔面攻撃。
ヒットしている手は裏拳。
これはジークンドーのトラッピング技術(相手の腕を制しつつ攻撃を入れる)を表現しているようです。
トラッピング技術はブルース・リーが学んだ葉問派詠春拳の技術をベースに、さらにジークンドーのコンセプトにそって使いやすくしたものです。
ブルース・リー自身がその素早い動きを「燃えよドラゴン」でボブ・ウォールを相手に見せています。
あまりに動きが早いので、ロバート・クローズ監督が高速度撮影して、実際のスピードよりも遅く上映した伝説のシーンです。
右手、右足前で互いに右手を交差させる中国拳法の練習や試合時の構え。一般に搭手と言われ、太極拳の推手もこの姿勢から行います。
ブルース・リーは左手で相手の右手を叩き崩します。これをパクサオと言います。
右手は構えの位置から引くことなく、最短距離を通り、相手の顔面を狙います。従って、この攻撃はストレートパンチ。チュンチョイ(直拳)と呼ばれます。
また、パクサオから打撃を行っている為、ここまでの動きをパク・ダと呼びます。
ブルース・リーは右拳を打った後、左側に引いているので、よく裏拳を打っていると誤解されますが、実際はストレートパンチだったのです。
ブルース・リー自身が見せたトラッピング技術はジークンドーの基本。中村頼永先生は、IUMA日本振藩國術館のホームページでその動きを詳しく解説してくれています。
1では、ビルジーで目を狙うが(1)相手がそれを受ける(2)
2では、左手でパクサオ(3)右拳で直拳(4)
相手が左手で受けたら(5)左手を相手の左手にかける(6)
3で左手で相手の左手を掴んで左下方へ引き崩し(ラプサオ・ダ=ラプ・ダ)(7)裏拳(グワチョイ)を顔面に打つ
http://www.bruceleejkd.com/aboutjkd/basic/hia
さて、問題はここからです。
世良のパク・ダと中村先生のパク・ダ、ラプ・ダは似ているようで少し違います。
実はこの少しの違いが武術としては大違い。
武術の本質を理解しているかどうかが一目で分かってしまいます。
世良の動きのモデルの竹内先生と美琴先生に聞いてみましょう。
世良の動きはどこが違うのでしょうか?
まず、アニメの世良のように、左手で相手の右手を内側からとるのはパクサオではなくラプサオ。これは中村先生の(7)の写真のように、相手の左手に行うもの。
これだと相手の外側に位置するので反撃はもらいません。
しかし、内側から相手の右手をラプサオのように掴んでも、しっかり引かなければ自分の身体は相手の正面に位置することになります。もし相手が左のパンチを出してきたら、自分は避けることができません。とても危険なポジションに位置することになります。
相手の右手を左手で内側からただ受けただけだと、
相手の左のパンチを喰らってしまう。
では、世良のように相手の右手を制しつつ、裏拳を打つにはどうしたら良いのでしょう。
竹内先生に示してもらいました。
自分から攻めるとしたら、まず右のビルジー。相手は右手で受ける。
相手が右パンチを出して来た時も、右のビルジーを出しながら受けることもできます。
こうして中村先生や竹内先生の動きを見るとその共通点が見えてきませんか。
実はジークンドーのトラッピングはただ単に相手の腕を掴んだり崩したりしているのではないのです。
例えば相手の右手をパク・ダしたら、自分の身体は相手の右手の外側にあるし、左手をラプサオしたら、相手の左手を引くことで自分の身体は相手の左手の外側に位置しています。
じつはこのポジションを維持するかどうかが武術と格闘技の技術の分岐点。
通常、格闘技はボクシングでも空手でもキックボクシングでも、打撃格闘技は左右の手足をフルに使った方が有利な為、図のように、相手の右肩と自分の左肩、右肩と左肩が正面を向くポジションを取ります(図1)
しかし、これは目つきや金的攻撃など正中線の急所攻撃が禁止の上、相手の右手には刃物などの武器が握られていないスポーツルールが前提です。
図1は格闘技の基本的ポジショニング
図2は武術のポジショニング。右手と右手の意識が生じる為、これを攻脈線と名付けました。
護身がメイン目的の武術では、相手の右手に武器があることを想定することが必要。
格闘技のように構えると相手の右手の武器を避けられないため、武術では相手の右手と自分の右手を合わすように、構えます。(図2)
武術のこうしたポジショニングの意識を私は攻脈線と名付けました。
このことを理解し、最初のブルース・リーとボブ・ウォールの戦いのシーンを思い出して下さい。
ブルース・リーは搭手と言う互いに攻脈線を取り合うポジションからジークンドーの技を見せていたのです。
そして中村先生や竹内先生のラプサオ、パクサオの技術の全局面で、相手の攻脈線を取り続けていたことがお分かりでしょう。
これがジークンドーが格闘技ではなく、武術のコンセプトで体系付けられている証です。
ただし、ジークンドーには内側からラプサオを行うロイ・ラプサオという応用技もあります。
ただ、もし、ロイ・ラプサオなら、「相手の左手が遠くに行くように強く引っ張る必要がある。」と中村先生自身も語っています。
いずれにしろ、世良がなぜ中村先生の教えを守らなかったのか、と言う疑問は残ります。
世良自身は10年近く中村先生にジークンドーを学んでいたはずなのに。
私は、その原因は世良自身ではなく、アニメ制作の原画の人にあったのではないか、と推察します。
世良と相手の顔が良く見える構図にする為、世良のラプサオを左手ではなく、右手に行わせたのではないでしょうか。
アニメならばこれでOKですが、アニメを通じてジークンドーを勉強したいと思う子供たちも大ぜいいるでしょう。
その子たちの為にも、正しいジークンドーと武術の理論を伝えておかねばなりません。世良の名誉もかかっていますしね。












