名探偵コナンの女子高生のジークンドーの使い手、略してJKのJKD使いが世良真純。
その1では世良の先生が中村頼永先生で、動きのモデルがその弟子の竹内一馬先生であることを明らかにしてきました。
今回は世良が蘭との戦いで用いたジークンドーの極意、ジー・テックの実戦性について、格闘技マニアの視点から考察してみましょう。
そこから示されるのは、紛れもないブルース・リー最強説でした。
まずは、世良が初登場で蘭との戦いで用いたジーの局面をおさらいしてみましょう。
詳しく見ると、
オーソドックス構えから右正拳のフェイント。
右手を引きつつ、右足を出す。空手の基本的コンビネーションですが、膝がインに入った瞬間に世良の足裏でストッピングされてしまいました。これがジー・テック。
空手では、こんな高度なストッピング技はめったにやられることはないので蘭はびっくりしています。
世良のジー・テックでなぜ蘭があれほど驚いたのか?これを解明するには、日本の空手の技術とジークンドーの技術の違いに触れなくてはなりません。
そこで、世良の動きのモデルになった竹内一馬先生と美琴先生に、ジークンドーの技術を聞いてみましょう。
蹴り足で相手の前進をストッピングする技をジー・テックと呼びますが、実際にジークンドーではどう使うのでしょう。
まず、ジークンドーの基本の構えは右手右足前。利き手を最も速く、強く、目標に届けることができるからです。映画の中のブルース・リーも右手右足を基本にしていることが多いですね。
もし、相手が蘭の様に右の回し蹴りを出してきたら、右足先を左に向け、横蹴りでストッピング。これをジー・ジャクテックと呼び、とくに低い蹴りはハ・ジャクテックと呼びます。
もし、左足でストッピングしたかったら、左足先を少し左に向けて、足裏でストッピング。足先を外に向けたストッピングをジー・ジクダムテック、低い場所を狙うとハ・ジクダムテックと呼びます。
蹴り足を止めるのでなく、カウンターで軸足ローを狙うジーもあります。回し蹴りカウンターはジー・ナオテック。低い蹴りはハ・ナオテックと呼びます。
ここまでの解説で、ブルース・リーが体系立てたジークンドーの実戦性が理解できた人は相当の格闘技マニアですね。
でも、一般の人には竹内一馬先生が指導したジー・テックの持つ意味がイマイチわからないかもしれません。
それを分かりやすく解説していきましょう。
まず、ブルース・リーが截拳道を命名し、体系立てたのが1966年頃、と言われていますが、この時代にストッピングの蹴りばかりでなく、今で言う内股ローや後ろ回し蹴りなどを体系立てていたと言うことは打撃格闘技を知る者にとっては驚異的です。
今の時代でも最新の実戦技術と言っていいのに、当時としてはジークンドーは間違いなく、世界で最新で最強の打撃格闘技でした。
よく、ブルース・リーは俳優であり、武術家としての実力を疑問視するようなことを言う人がいますが、全く見当外れですね。
専門家ほどブルース・リーの武術家としての天才性を認めざるを得ないでしょう。
日本の打撃格闘技界の歴史を調べれば良くわかります。
あの、極真会の第一回全日本大会が開かれたのは69年。
ブルース・リーがジークンドーを創始した頃、日本にはまだローキックも後ろ回し蹴りもフルコンタクトの概念も無かったわけです。
極真の第一回世界大会が開かれたのが75年でしたが、この時の日本選手がローキックを秘密兵器としていた、という逸話が残っているほど当時はローキックも一般的ではありませんでした。
ちなみに後ろ回し蹴りに関しては極真第一回大会から出場している大阪の金次憲という選手が後ろ回し蹴りを多用し、皆驚いたものです。
多分テコンドーの技でしょうが、後ろ回し蹴りが多くの観客の前でお披露目した最初だったのではないでしょうか。
さて、ではジーはどうでしょうか?実は蹴り足ストッピングは、日本人が一番苦手な蹴りかもしれません。
それには日本の空手が普及する際の特殊な事情も関係していると思われます。
大正時代に、本土に空手を伝えた伝説の実戦名人、本部朝基氏は、著作の中で、ジークンドーのハ・ジャクテックやハ・ジクダムテックと同じような蹴りを紹介しています。
膝を狙う低い横蹴りを示す本部朝基氏。ちなみに組み手の相手は後に日本拳法空手道を創始する山田辰雄氏。空手バカ一代では由利辰郎として登場してます。
膝関節の内を狙う時は、中国北派拳法の斧刃脚。ジークンドーのハ・ジクダムテックを使います。
沖縄の空手には、ジー・テックと同じような蹴りが元々あったのに、なぜ本土の空手では広まらなかったのか?
様々な理由が考えられますが、最大の理由は、本土の空手が、競技として広まったからでしょう。
ご存知のように、体協に加盟し、オリンピックに採用された空手ルールは、全空連の、いわゆる寸止めルール。
蹴りは相手の身体に強く接触してはいけないので、ジー・テックは反則です。
空手の前蹴りは、本土では中足で行うのが常識になっていますが、実は膝のスナップを用いる中足前蹴りが一番止めやすいわけです。これが本土の空手の前蹴りが中足主体になった最大の原因と考えられます。
その代わり、相手の身体に接触せざるを得ないジー・テックの技術はいつの間にか忘れさられてしまったようです。
その技術が本土で体系化されるには、当てる極真ルールが浸透し、天才空手家・芦原英幸氏の出現まで待たねばなりませんでした。
芦原空手はサバキという、フルコンタクトルールや護身で使える受けと崩しを徹底追及した為、ジーのような技術もまた、体系化されていったのでしょう。
芦原空手の軸足へのストッピング。ジー・ジャクテックと同じですね。
回し蹴りにはつま先を少し外に向け、ジー・ジクダムテックのようにストッピング。世良の動きにも似ています。
さて、当てる技術が発達して、ようやくジー・ジャクテックやジー・ジクダムテックの技術が日本の空手界にも再認識されてきたようです。
しかし、ブルース・リーは半世紀以上も前にこうした技術を体系化していたのです。
それがいかに驚くべきことか皆さんにももうお分かりでしょう。
そんな技術を初めて目にしたら、さすがの蘭だってびっくりするのは当然です。
さて、ここまでジー・テックのお話しをしてなら、その実用性にも迫りましょう。その為には登場してもらわねばならない格闘技があります。
それが立ち技最強と言われるムエタイ。
ムエタイの技と言えば強烈なミドルキックや膝蹴りを誰でも思い浮かべます。
実際、見る人間からはスピーディでパワフルな攻撃技に目がいきがちです。
しかし、彼らの強さを支えているのは、派手な攻撃技ばかりではありません。
戦う者にとってはもっと嫌な技があります。
それがティープと呼ばれる足でのストッピング。
そう、ジー・テックなのです。
日本人選手がムエタイファイターと戦うと、長い足で身体をピタっと止められて間合いをつめられません。
ムエタイの九冠王のチャモアペットという名王者がいましたが、20年以上前に登時人気のあった立嶋選手と試合をした時は、このティープ一つで何もさせませんでした。
私も昔、チャモアペット選手にティープをやられたことがありますが、足裏が私の胸に吸盤のように吸い付き、全く上体が動きませんでした。
その秘密を聞いて納得。
実はチャモアペット選手は相手の胸の角度によって、蹴り足のつま先の角度を変えていたのです。
分かりやすく言うと相手がオーソドックスなら左のジクダムテック。サウスポーなら右のジクダムテック。逆足で行うとそれぞれがジャクテックです。どちらの足だろうとつま先は外を向く、と覚えておけばいいですね。
相手の上体の角度に合わせるムエタイのティープ。オーソドックスに左足ティープを行うとジクダムテックになります。
右足だとジャクテック風。写真は立嶋選手に右足ティープを行うチャモアペット選手。つま先は外。
ムエタイの試合は強豪は強豪同士組まれるので、中々派手な攻撃は互いに当たりません。そうすると、地味なティープ、それも、足への低いティープが実は勝負の行方を決めたりします。
下の写真は、8年前に行われたムエタイ最高峰と言われたセンチャイとノンオーの試合。
帝王センチャイに対し、ノンオーは1ラウンドから盛んに低いティープで崩しを狙いますが、帝王センチャイは逆にボディへのティープで崩し返し、逆転KOへ繋げるという壮絶な試合。
このような強豪同士の戦いになると、間合いを制し、ペースをつかむためのティープが非常に大切になってきます。
膝を狙う低いティープを盛んに出すノンオー。ハ・ジャクテックですね。
センチャイは上体の傾きに沿ったティープ。中段へのジー。ジークンドーでは、ジョン・ジクダムテックと言います。
さて、ここまでの説明で低い蹴りのストッピングの効果は理解してもらえたと思います。
そこでもう一度、最初に紹介した竹内先生のジー・テックの写真を見て下さい。
なんと、ムエタイの強豪達と同じく、左右のどちらの足もつま先は外。
非常に合理的なストッピングをしています。
中村頼永先生の教えによると、ジー・テックには「直交の理論」があります。
ジーをする時、相手の攻撃部位が横ならば自分の足は縦に。縦ならば横に交差するようにつま先の角度を調整する。すべったりして失敗することがなくなります。
これはまさにムエタイ9冠王や帝王が示した教えと同じ。
ジークンドーのジー・テックは、実際に当て、かつ強豪同士のレベルの高い攻防の中でも生きる実戦的な教えだったのです。
どうです。こうした攻防理論を半世紀以上前に体系化した最初の武術家がブルース・リー。
その事実を知ってしまったら、単なる俳優だったなどとは、もはや言えませんね。
本当のマニアなら世良のジー・テックひとつから、ブルース・リーの武術家としての力量までも解析することができるのです。
竹内先生のジークンドー














