劇画「拳児」の秘伝技を分析 その1 流全次郎とじいちゃんの発勁はここが間違っていた! | 山田英司の非officialブログ 利用客の多い武道駅 マニアックだからホントに迫れる

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このブログでは、皆が興味を持つ武術や格闘技の話題に、肩の凝らないマニアックさで迫っていきます。



八極拳といえば格闘ゲームを通じて若い人にも知られるようになりましたが、もともと八極拳を日本で初めて紹介したのは中国武術研究家の松田隆智先生。

中年の人には「開けポンキッキ」のカンフーレディで女の子と太極拳をやっていた先生、というとわかりやすいかもしれませんね。


松田先生は日本人で最初に八極拳を学んだ武術家でもありますが、漫画や劇画の原作などで八極拳を初めとする中国武術の魅力を若い人達に伝えました。

極真空手や格闘技の魅力を劇画を通じて伝えたのが梶原一騎だとしたら、八極拳や中国武術の魅力を若い人に伝えた最大の功労者は間違いなく松田先生ですね。


雁屋哲原作、池上遼一作画の「男組」では主人公、流全次郎が手錠をしたまま陳家太極拳や八極拳で戦っていました。

おそらく、日本で初めて本格的に陳家太極拳と八極拳が知られるきっかけとなったのがこの劇画でしょう。

ちなみに日本人で最初に本格的に陳家太極拳を学んだのも松田先生。

その後、日本の武術界で八極拳と陳式が大ブームになりましたが、その二つの武術の先駆者が松田先生だったのですから、その影響力は凄さがうかがえます。


ただし、「男組」は松田先生は原作ではなく、武術シーンのアドバイザーにすぎなかったので、流全次郎のフォームは今見ると色々と間違っています。

松田先生が原作だと、原稿用紙に丁寧なイラストが入っているので、作画は意外に正確に再現できます。




流全次郎の八極拳の猛虎硬爬山。技を出す時、全次郎はいちいち技名を告げるので、猛虎硬爬山も有名になってしまいました。

ただし、全次郎の右手の甲の向きが逆。甲は上ではなく、下に向きます。


なぜ私がこんなに松田先生について詳しいかと言うと、私は若い頃、松田先生の拝師弟子、いわゆる内弟子であったからです。

また、私は「武術」という中国武術雑誌の編集を任されていたので、松田先生と二人三脚で様々な武術の紹介をしてきました。

忙しい時は「山田君代わりに書いといてくれ」と言われ、ちょっとしたゴーストライターだったりもしました。


また、武術雑誌の編集に携わる前はアニメーターをやっていたため、武術が分かって絵も描ける、というので後の「拳児」の作画担当候補として友人が私を松田先生に推薦。

それがきっかけで79年には既に松田先生とお会いし、編集者や弟子になる前から武術愛好家としてのお付き合いは続いていました。


そんな訳で後に少年サンデーで連載される「拳児」(原作 松田隆智 作画 藤原芳秀)は作品となる前から関わってたようなもので、裏の裏まで知っているわけです。

さて、その「拳児」の中で、私の好きな名シーンがこれ。

じいちゃんが大木を手にあて「ウン!」と呼吸を入れるだけで葉がザザザと落ちる。

透勁とか零勁とか呼ばれる八極拳の秘伝です。

私も試しに夜中の公園でやってみたら、上から猫がドサッと落ちてきてビックリ。猫も驚いてどっかへ走り去っていきましたが、それなりの威力はあったようです。




大木に手を当て、気を入れるだけで、ザザザと葉が落ちる。実はコツを知れば現実に可能な技です。



さて、若い頃はわからなかった透勁の身体操作や原理も、今では人にうまく説明できるようになりました。

細かなポイントは色々ありますが、今日は皆さんに大切なコツを一つご紹介しましょう。


それは足裏の使い方。

わかりやすくする為に実験をしてみましょう。

パートナーに押してもらい、自分が崩れて押される時は、必ず支えの後ろ足が崩れています。身体を前方に押し出す土台が崩れたら強い力が出るわけがありません。

脚の構造上、人は後ろ足の親指側が浮くと強い力がでないのです。



相手に胸を押してもらい、がんばる



後ろ足裏の重心が親指側から小指側に移ると押し返せない。


逆に親指側を床に着けるようにすると、太い脛骨を通じて体幹に力が伝わります。

さらに前足を浮かして完全に後ろ足親指側を接地させれば23人に押されても自分はビクともしません。

よく神秘系の武術家がパフォーマンスで見せますが、実は後ろ足の親指側を接地させ、前足を浮かせば誰でもできます。



複数の人間に押されたら、両手を相手の肘下に当て、少し押す。これで相手の胸を押すベクトルは自分の胸と両肘に分散。



さらに後ろ足親指側を接地させたまま前足を浮かすと、



相手の体は浮き、こちらは力を入れなくとも押し返せます。コツをつかめば誰にでも可能



こうした武術的身体操作を科学的に理論化したのが、孝真会の川嶋先生。前足を浮かせて相対軸を生じさせたり、後ろ足の親指側を接地させ、脚の無反動化を促し、強い力を瞬時に出す理を解明したのが内発動理論です。

私は親指付け根でアリを踏む要領、と松田先生から教わりましたが、当時はよく分からず、川嶋先生の理論を聞いてから、あっ、あの口訣はそういうことだったのか!と気付かされました。


意味がわからなくとも、長年練習していたので応用は簡単。

今ではじいちゃんのように手を目標に着けて、足裏の操作だけで力を出すことも簡単にできます。



透勁も同様。右手を目標に触れ



足裏に意識を向け、力を発するだけで防具を貫く運動エネルギーを生じさせることができます。



もちろん突きにも簡単に応用できます。


できてしまえば、まさに親指付け根でアリを踏むだけでした。

ただ、後ろ足のつま先は必ず45度にし、横に開いたままだと力が集中しません。

「拳児」のじっちゃんの後ろ足の角度を見てくださいあっ、なんと!左足が外に開いてる。

残念!私が作画担当だったらつま先は絶対45度に描いたのに。

流全次郎の右甲の向きは多くの人が気づきましたが、じいちゃんも後ろ足の向きまでチェックするマニアがいるとは思わなかったでしょうね。



アリを踏む八極拳の突き。オンラインでの八極拳教授が始まります。

https://youtu.be/ztTXre0osNo




詳しくはブドーステーションで。拳児のモデルとなった松田先生直伝の八極拳が自宅で全て学べます。

http://budo-station.jp/post-2785/