TEKKENの何が面白かったのか | ロバ耳ブログ 

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 リクエストが入りまして、格闘ゲーム、特に私がやって来たTEKKENについて、何が面白いのか解説して行こうと思います。完全に趣味の回です。

格闘ゲームにも様々なものがあって、古くはストリートファイト2、ヴァーチャファイトが原型になります。前者は平面で、後者は立体が基本になっていて、大きく二つに分かれます。お互いに、違うゲームになっていて、両方をやる人はほとんどいません。

たとえ三次元の格闘ゲームでも、ヴァーチャとTEKKENを両方やる人もほとんど居ませんね。囲碁と将棋と麻雀くらいの違いがあります。


 で、私がやってたTEKKENなんですけど、これはヴァーチャファイトに対抗して、ナムコが開発したゲーム。それまで、カプコンのスト2が大ヒットしたところへ、SEGAがポリゴンで立体の対戦ゲームを出して来たのは衝撃的でした。パンチボタンとキックボタンと、ガードボタンってやつです。
そこに、両手両足に、それぞれ操作ボタンを用意したTEKKENが出て来る。これも画期的でしたが、初期は内容が酷かった。むしろヴァーチャの方がマシでした。

マシというのは、まだ対戦ゲームとして成立したって事です。


 初期の対戦ゲームは、今では考えられないくらいに酷い内容で、いったん転がされると、起き上がる瞬間を確実に狙われて、それで決まってしまうゲームでした。理不尽に強い技が設定されていて、ゲームになって無かった。それでも珍しいのもあって、景気も良かったのでしょうね、台を囲んで遅くまで皆んなで騒いでいましたね。

昔は皆んなで遊ぶのがゲームだったので、自分の持ちキャラを作る様になる。同じキャラを使うと、優劣が明白になってしまうので、各キャラでそれぞれが頑張るようになる。自然にそうなったんです。

しかし、これがネット対戦になって、そういった文化は廃れます。自分のキャラが、一番勝てるキャラになってしまう。今のTEKKENのプロたちって、全員がこれ。



 平面格闘ゲームは知りませんが、立体格闘ゲームはどんどん進化して行きます。立体なので、互いにぶつかった後、転かされた後の対応も複雑になります。技の種類も、軽く100を越えて、それぞれに発生時間、上段、中段、下段、更には、右方向に強いとか、リーチが長いとか、上段を潜るとか下段を透すとか、技後の硬直が幾つあるとか、細かく設定されています。
そして、それらの技の中で、当てれば追加で連続攻撃頑張る出来るものがあります。この追加攻撃は、練習しないと上手く入らないものになっています。

同じ技でも、プレイヤーによって強さが変わる事になります。そうすると、対戦相手には、より危険な技となり、応対の方法も戦術も変わって来ます。しかし、それらの技で、大きなダメージが取れる事と、連続攻撃を続けられるかのポイントは、技術の高さ、そしてプレッシャーに強い精神も重要になって来ます。


より難しい連続攻撃で決まる試合を、簡単な攻撃にして確実にダメージを取るか、ミスを覚悟で取りに行くか。これが性格に出ますね。そして、強いと言われたプレイヤーは、失敗してでも後者を選ぶ。それで落としても負けない自信もある。

これが、ネット対戦になってからは、ほとんどが前者を選ぶようになる。特にプロが。

まあ、ネット環境に問題があって、画像が僅かでもズレたりしますので、ある程度は仕方ない。仕方ないけど、盛り上がりませんよね。



 TEKKENの面白いのは、一つの技に、例えばジャブ。左の手を動かすボタンを、ただ押すだけの技。これにも、相手の状態が三つ用意されています。ガードされた場合、60分の一秒。ガードさせた方が早く動ける様になる。あとはヒットさせた場合、60分の8秒、こっちが先に動ける。カウンターにも設定があります。
技が接触した後の、動き出せるタイミングが双方で違って来ますので、そこから複雑な読み合いが始まるわけです。


連続攻撃に繋がる技を当てるにも、通常だと警戒されて当たらない。それを、ジャブなど、早い技で有利を取りながら、ガードを崩して必殺技を狙う。しかし、その連続攻撃に繋がる技は、ガードされたら、技後の硬直が大きく、早い技で反撃される。中には、ガードされたら、相手の必殺技が確定してしまう事もあります。
更には、それを読まれてしゃがまれる。或いは、横に避けられる。


それを読んで、別の技を出して行く。



 ボクシングなどの細かい駆け引きが、ゲームで再現されています。しかも痛くない。これが面白いとこであって、喧嘩っ早いのがTEKKENに特に多いのは、その辺が原因ですね。


 従って、上級者を相手にすると、ほとんど技が当てられない。崩して、相手の動きを読まないと技が当たらない。初心者が上級者に勝つのは、まず無理なのがTEKKENなんです。

更に、上級者同士でも、回を重ねる毎に差がついて行く。最初の接触から、相手の行動パターン。癖、狙いが記憶されて行き、どんどん一方的な展開になってしまう。

ここが、上級者の中でも、そこから上へ上がる者と上がれない者の差になって現れるんです。



そのやり取りの中、相手が何を狙っているのか、何を警戒しているのか、迷っているのか、勢いついているのか油断しているのか、そして重要なのは、その相手の持っている攻撃のリズムですね。それらを読みながら、対戦の内容で、さっきはああした、こうしたってのを記憶して、そこを狙って行く。

それが分かる者同士だと、相手の気持ちの強さだとか、頭の良さだとか、読みの鋭さなんかが伝わって来て楽しいわけです。


 例えば、ガードさせて大幅に有利が取れる技。これらは、有利が取れる反面、大きく振りかぶるため、早い技にカウンターを取られるリスクがある。或いは避けられる。上級者同士では、それをガードさせて行くのも読み合いになる。

そうすると、度胸が無ければ仕掛けられない。早くて、リスクの低い技を適当に出されて、それでカウンターを貰って大きなダメージを受けてしまう。代わりに、たとえリスクは少なくても、技が届かなかった場合、そこを狙われる事になる。上級者同士だと、早くジャブでも狙われます。


 上級者は、この様な事をやっているので、直ぐに熱くなる者は勝てないんですよ。相手の動きを記憶して行くには、出来るだけ平常心でいる必要がある為です。そして、これの何が難しいかと言えば、平常心でいる以上、格闘で重要な、闘争心が保て無い。

猫の様に集中して、相手の隙を突こうと思ったら、それって普通に興奮状態なんですよ。じゃないと、一瞬の隙は突けません。しかし、興奮状態では記憶力が低下する。興奮状態なのに、平常心を保っている者。これが本当に強い奴なんです。
これって、楽しんでる状態でもあるんですよね。勝ち負けにこだわっているうちは、ここには到達できません。


 本来なら、格闘技における強さとは、ここにあるんですよ。ボクサー井上尚弥は、自分の身体でそれをやっていますからねえ。貰ったら痛いし怖いし、体力もいるし観客もいる。そんな中で、これをやっています。だから試合が終わっても、涼しい顔のままでしょう。あんな男はそうそう出て来ませんね。



 TEKKENが、コインを入れれば、それが疑似体験できるとはあって、コアなファンをずっと繋いで来ました。しかし、上級者には、初心者が全く歯が立たないゲームだったので、運営側が問題視。初心者でも上級者に対抗できるキャラを出す様になった。

そうなると、新作のキャラはデタラメな強さになって、とりあえず強い技を出して、当たったら連続攻撃。そんなゲーム内容が加わってしまいました。コアなプレイヤーは、それでも対策して、そんな相手にも勝ってしまう。
TEKKENの運営が、プレイヤーの事も分かってなければ、格闘技の事も分かっていないので、初期のキャラをどんどん弱体化させて行きます。それで多くが辞めてしまう。
逆に、強かった初心者用のキャラも、また新しいキャラが初心者用の強さなので弱体化。もともとTEKKENなど出来て居なかった彼らは、弱体化して勝てなくなると、ゲームを辞めてしまいます。
残った強いと言われるプレイヤーは、実は強いキャラを使って、ほとんどリスクを取らない消極的なプレイヤーばかりになります。

ノビってプロTEKKENプレイヤーがいますけど、見るところがない。ただの作業です。これをガードしたらこれ。これが来たら二発目をしゃがんで避けて、これで返す。これも貰ったらガードする。やってる事が全て受け身。自分で崩して一本を取りに行く試合は、あくまでも弱い相手にだけやってる事です。

そんな戦法なので、時間切れで勝つ事が多い。

時間切れで勝つって事は、自分でKOせずに、設定で勝つって事です。確定反撃もそうで、それらは設定上でダメージが取れているだけ。相手のミスと、設定を味方にしたプレイヤーに、魅力があるはずが無い。しかし残念ながら、これが日本のトップです。

実は弱いトップなだけに、現在、パキスタンのプレイヤーにボコボコに負けています。向こうは、ネットじゃなくて、集まってゲーセンでやってる。昔ながらの対戦です。ですから、消極的な勝利だと、仲間に認められないのでしょうね。当たり前ですが。


 自力で頑張らなくても、キャラ性能でダメージが取れる。こんな世界に入って行って、格闘ゲームが面白いなんて思うでしょうか。海外でTEKKENが売れているのは、まだ対戦格闘ゲームが、目新しいからです。バンダイナムコの運営陣は、そこに甘えてしまっている。或いは状況が見えてない。



 最悪なのは、この度に発表された新作、TEKKEN8。これが、ほとんどのキャラが、初心者仕様になってしまった事。もうTEKKENの深い読み合いは存在しません。平常心も記憶も闘争心も要らない。状況だけ見て、強力なのにノーリスクの技をどんどん仕掛けて行って、当たれば連続攻撃に繋げる。ただそれだけのゲームになってしまいました。
もうTEKKENは終わりですね。


 一番情け無いのは、本来なら、運営にTEKKENの何が面白いのかを伝える立場にいるプロプレイヤーたち。これがもう、全然分かってないんですよ。美学も何も無いから、より強いキャラを使って、手段を選ばず勝つ。それだけなんですよ。

そりゃ皆んな離れて行くし、本人たちも自分に自身が付かない。強い者の風格なんて微塵も感じられない。ただのチンピラの集まりです。見てられない。




 せっかく良いものを作って来たのに、それをただの商売道具にしか捉えられ無かったバンダイナムコ。この辺が、平成企業の限界なのでしょう。見た感じの映像の迫力、美しさは最高得点ですけどね。


本当に残念。電気自動車と同じです。側だけかっこいいけど、中身がペラッペラ。本当、残念で仕方がない。虚々実々なんて、たぶん聞いた事もないんだろうなあ、バンナムさんは・・・。