過去に何冊か読ませてもらっている作家さん。ほっこりした気分になれますよね。最初は「虹の岬の喫茶店」だったと思います。映画化されたのをきっかけに手に取ったのだと思います。
映像化の多い作家さん
この作家さん、映像化が多いですね。wikiで調べると
津軽百年食堂(2011年)
ふしぎな岬の物語(2014年 原作:虹の岬の喫茶店)
ライアの祈り(2015年)
夏美のホタル(2016年)
きらきら眼鏡(2018年)
大事なことほど小声でささやく(2022年)
おいしくて泣くとき(2025年4月4日公開)
と沢山ヒットしました。ほっこりのお話は安定した人気があるのでしょうね。
著作も多いですが、最近だと青森ライドの前に、「青森を舞台にした小説」でググってヒットした、「津軽三部作」。舞台が青森ってことだけ共通していて、登場人物も違っているけど、青森の魅力を存分に取り入れながら、「青森の人ってこんなのか~」と想像させてくれて、楽しい本でした。(残念ながら映画は縁がなかったです)おまけに、青森ライドの時に「津軽百年食堂」の巻末のモデルの食堂にも自転車で行くことが出来ました。
今回の本は偶然、棚から見つけたようです。ラッキー。
あらすじは
本は1章から5章までになっています。一つの新作小説を巡るお話なのですが、それぞれの章は人称っていうか、語る人間が代わります。この新作小説が出来ていく様子や、それが拡がっていく過程を、いろんな角度や人物から投影して、その情景がジワジワと想像できて、「あぁ~これが読書の楽しみだなぁ~」と思わせてくれました。登場人物も読み始めると止まらない、という様子が書かれているのですが、「同じだぁ~」と思えました。
人物の方は、作家さん、編集さん、書店員さんとかは当然登場すると予想されますが、デザイナーさんは予想外。でも、このデザイナーさんご夫婦や編集さんや読者さんの親御さんを登場させることで、登場人物の年齢層に幅が出て、きっと共感できる年代も拡大するでしょうね。さすがヒットメーカーさん、こういうのってテクニックって言うのかしら?と思ったりしました。(悪い気はしないのです。上手に術中にはまっているなぁ~の気分)読んでいて「こうくるか~」と読み手の予想をすこしずつ外してくれるのがまた楽しみでした。
やっぱりキモはこの新作小説ですよね
この新作小説を書くのは、涼元マサミ氏。編集者の津山奈緒は、前任者が突然ヘッドハンティングされて、急遽担当になりました。合って初めて「男性だ」と知ります。
彼女この作家さんには思い入れが有ります。「ぜひ、新作を」と依頼するのですが・・・・
なんと返事はかんばしくありません。この作家さん、最初の本が新人賞を取ってちょっと売れました。そこで会社を辞めて職業作家さんに。ところが、後がバッタリ。このパターン、業界ではあるのでしょうね。先に映画で見た「私にふさわしいホテル」でも同様ですね。最初の作品は、自分の今までの人生経験を全てぶち込んで書かれるので、なにかしら読み手に伝わるものがあるのでしょうか。
この後がバッタリで私生活も辛い状態になっています。今の収入は文筆より「文章の書き方」の講師の方が多い位になっていて、なんとかしなくちゃ、と考えていたので、新任編集者に冷たい態度を取るしかなかったのです。彼の胸中は
そして、導いた答えは「いさぎよく筆を折る」だった。
と、もう崖っぷちだったのです。
しかし、この新任編集者さんは、この作家さんに特別な気持ちが有ります。しかも社内での立場は微妙になってきていて、新人の方が実績を積み始めています。営業職に移そうかの噂も聞こえます。辛い~。
ここからが2人が新作に向けて頑張ります。読んでいても応援している自分がいました。「そりゃ、ちゃんと売れてハッピーエンド」と予想できますよ。しかし、そこは作家さん、私の予想を外す登場人物だったり、ご縁だったりを挿入してきて、楽しませてくれました。
いくらか「がんばっていれば良いことも有るよ」的な人生訓もあるでしょうが、読書っていう行為が楽しいなぁ~と思わせてくれる一冊でした。
となるとこの新作小説ってどんなの?
この「本が紡いだ五つの奇跡」は2021年9月 講談社から発行されていて、まだ新しいです。本文に登場する新作小説は「さよならドグマ」って言うのですが、森沢氏の本の中にこういう本があるのか?と勘ぐってしまいますね。
筆を折ると決めていた作家さんが、一転して書こうと思った瞬間
そうか。かっての俺が病床の父のために「空色の闇」を書いたように、いまの俺は真衣(作家の5歳の長女)だけのために、俺が伝えたいことを内包させた小説を書けばいいのではないか?もしかすると(中略)「支え」になってくれれば・・・・
百パーセント純粋で嘘のないメッセージが含まれていて、そして何歳の真衣が読んでも怖くなんてならない(真衣はミステリーは嫌い)「本物のパパ」から娘へのラブレターのような小説
彼は、一作目の後、安定して売れると考えたミステリー物を書いていましたが、ヒットしませんでした。こういうのも業界ではあるでしょうね。自分の書きたいものを書くっていうのは、時には難しい業界でもあるのでしょうね。音楽だって、流行りに乗っかって類似がいっぱい登場して、それでもいくかは「おこぼれ」頂戴できますよね。
しかし、自分の人生経験だけを書くのでは、とても書き続けられませんよね。想像の翼を拡げて、読み手にその絵を想像させてくれる才能が必要です。
なので、彼はまたいずれか筆を折る時が来るのかな~。