出版社に入社して以来、ずっと定年退職するまで辞書の編集に関わってこられた方の本になります。辞書編集の昔話から、裏話、こぼれ話が入っています。それに、新しい辞書を使った学習法の紹介も有りました。

 

それと、この本でも三浦しをんさんの「舟を編む」の話はしばしば登場します。あの本、その業界の方には自分達のお仕事に日が当たった気持ちだったのかなぁ~と思わせます。ドラマ化された時に追加されたエピソードなんかも、ひょっとしたらこの本、参考にされたのかな?

 

 

 

  きっかけは勿論「舟を編む」です

 

 

少し前に「再読しました。三浦しをんさんの「舟を編む」を読みました、をブログに掲載しました。

 

NHKで現在放送中のドラマの「舟を編む」が原作本や映画版とえらい違うように感じて、これはひょっとして私が全て忘れてしまったのか?ともう一度原作本を読んだのです。でも、私が忘れたのではなく、原作本を違う視点から拡大して更に辞書編集のお仕事を描いている作品になっていて、こっちの方が好きですね。

 

そして、「辞書編集」って言うお仕事にも魅力を感じました。コツコツと地道な努力を積み上げる仕事です。でも、神永氏は忍耐力が試される仕事だけど、とても根気があるとは思えない自分が勤めあげられたのは、「体質的に合っていたから」だと思うと書かれていて、もう人間の努力とかではないレベルらしいです。

 

 

  電子組版のお話

 

面白いお話が満載なのですが、興味深く思ったのが、辞書編集のコンピューター化のお話です。神永さんが入社当時はまだ活版印刷の時代だったそうです。ものすごい量の活字を拾って(集めて)それを組んでいく作業です。気が遠くなるような作業ですし、辞書となるとその分量、文字数が途方もない量になります。しかし、この仕組みはドイツのグーテンベルクが1445年頃に完成させてなんと500年以上も営々と創意と工夫を重ねながら使われてきた技術です。

 

それが、神永氏が本格的に編集というお仕事についた頃から、終焉に向かうのです。彼はその終焉に立ち会う事になった、と表現されています。長く伝承されてきた技術が終わるその瞬間を見たと言うことでしょう。

 

私が昔お願いしていた印刷屋さんにも古い名刺用の活字が残っていました。すでに時代は電子組版でしたが、その印刷屋さんでお使いの組版専用のコンピューターは、初期の頃は今でいうDTPではなく、ディスプレーには文字列と改行とか文字装飾の記号などが並んでいたように思います。その後、すぐにいわゆる一般的なPCで使えて、常時仕上がり状態を見ながら編集できるような仕組みになって行きました。

 

でも、私より10年ばかり若い方だと、実物の印刷用の活字なんぞ、見た事も聞いた事もないでしょうね。

 

 

ググってみました。拝借先は→

もう「ひらがな」を拾って、印刷の基本のキを学ぶって事くらいにしか登場しないのでしょうね。

 

映画やドラマでは、編集者さん達がゲラと呼ばれる校正前の原稿に赤鉛筆を手にしながら、間違い探しをされているお姿が映ります。電子組版になっているなら、紙原稿を見るよりもパソコンのディスプレーを見ているのでは?とも思えるのですが、この本にも、電子組版をしている日本国語大辞典の第二版の大量の紙に印刷されたゲラが、巨大な棚に積み上げられている様子が紹介されています。

 

どうも、今はどうかは分かりませんが、電子組版を採用しながら、実際に確認するような作業はやっぱり紙ベースでないと安心できなかったのでしょう。

 

 

  亜流の辞書が売れるらしい

 

 

本来の辞書の需要は厳しいらしいです。辞書そのものの需要が減っていますよね。時期になれば必ず買ってくれていた学生さんも少子化で数が減っています。編集作業の方はと言うと編集者の高齢化が進んでいて、後継者の育成も難しい時代です。出版社は商売ですから、企画から実際に収益になるまで長い年月が掛かる辞書編集の部門の風当りは強くなっていきます。

 

そういう中で意外(失礼)と売れている部門があるようです。

「美しい日本語の辞典」とか「ウソ読みで引ける難読語辞典」「使ってみたいイキでイナセな江戸ことば」などです。いわゆる雑学としての読み物としての辞書のようです。実際に文字の意味を知るって作業はググってみたりするので、こうした辞書が売れたりするのでしょう。それと、こういう辞書の編集作業には、辞書編集の知識や経験がすごく役立つようです。「舟を編む」でも、専門用語の語釈などは、その道の専門家さんに依頼します。また全ての言葉の入り口を紹介するっていうお仕事が役立つのですね。

 

 

  辞書引き学習

 

 

驚きは、辞書を使った学習の紹介です。これは

これが辞書?って思えるでしょう。これは数多くの付箋が付いた辞書なのです。よおく見ると付箋に「2147番」と数字が記入されているのが分かります。この数字がミソになります。

 

辞書って意味が分からない言葉を調べるのですが、この学習法は辞書を見て、自分が知っている言葉を探すのです。それに番号が付いた付箋を貼っていくことで、写真のようなまるで白菜かレタスのような辞書が出来上がるのです。

 

自分の知っている言葉を探す→その語釈を読んで、更に新しい言葉を探す、ということで知識が拡がりますし、自分の知っている言葉を増やそうという気持ちにもなります。付箋に通し番号を振るのは、ある意味インセンティブでして、「5,000語貯めた」などと仲間で自慢したりするのでしょうね。

 

楽しそうですが、こればっかりやっていてどうなの?と思いましたが、この学習法を実践している子供たちの図書館の利用冊数は他の子達より多くなっているそうです。文字を知る事が学習や読書の意欲を高めているのですね。

 

詳しくは

 

 

を参照ください。