原作を拡大して描いた「夜明けのすべて」

 

映画「夜明けのすべて」を見て、この本を読みたくなりました。「夜明けのすべて」の方は、私は原作本の世界を忠実に描くというより、素晴らしく拡大してその世界を拡げて描いてあると思いました。原作と脚本の話は色々でますが、こんな素敵な関係もあるんだぁ~。

 

それと、漫画原作のお話がドラマ化して、不幸な結果になった報道がありました。私は原作の漫画もドラマの方も存じ上げないのですが、なんとかならなかったのか?と思いますよね。

 

映像化ってやっぱり作家さんにとっても大きな事だと思います。映像化されたら原作本も読んでもらうだろうし、次の作品に対する期待も高まります。一人で完結できる小説(実際には一人ではないでしょうが)と違って、映像では多くの人が関わっています。その分、伝わる事も多いです。自分が書いた作品がどう理解されて(脚本になって)どんな絵にしてくれるのか?は作家さんが一番楽しみな事なのだと思うのです。自分の意図とは違うかも知れませんが、それはある意味作家さんの力不足で、伝わらかなったということでもあるのです。有川ひろさんは、たしか映像化に対して一切の注文を付けないと書かれていた記憶があるのですが、映像化されたらそれは作家の手から離れて、監督や脚本家が作りだすものとお考えなのだと私は理解しています。(ただ最近はご自身も脚本を書かれたりします。人に委ねる限界も感じておられるのかも知れません)

 

 

  映像化の舞台裏を描いた作品です。「イマジン?」

 

実はこの本は再読です。先ほど書いたように映画「夜明けのすべて」を見て、「もう一度読んでみよう」と思った本なのです。

 

 

 

この「イマジン?」では、原作と映像化にまつわる色々な問題が登場します。主人公の良井は九州の映像関係の専門学校を卒業して東京の映像関連会社に採用が決まったのですが、これが偽装採用で会社はとんずら。バイトでつないでいたら、運よく別な映像関連会社に拾われます。

「おら、走れ!新米なんぞ、それしか能がねえんだから!」

映像化の現場は、監督の言うことなら、無理も道理も通る世界。制作請負会社の下っ端は、とにかく汗してナンボの世界ですね。ある意味「お仕事小説」っていうジャンルでもあると思います。就職したらこれくらいの理不尽は有るんだよ、と少しでも免疫付けといてね。良井はとにかくガムシャラに走ります。主演の男優さんが現場に差し入れのお菓子を持参されます。この紹介のタイミングも大切だと教えられます。

「(差し入れの)コールがかかって現場のスタッフが喜ぶとこ見たら、気分がアガるだろ。そういうことだよ。キャストやスタッフの気分をアゲてくのが制作の仕事なんだよ。そのために細かい気遣い積み重ねてくんだよ。」

これもちょっとした気遣いが現場の雰囲気を良くする積み重ね。映像を作る仕事はクリエイティブで憧れるし、華のある仕事だけど、長時間労働にパワハラやセクハラ、会社間や役職間の駆け引きも厳しい世界。それに、映像を作るってなんてお金がかかることか、その心配や資金力の綱引きと、苦労が山盛りですが、良い作品を作り上げようという情熱で満ちた世界です。

 

 

  有川さんの映像化作品も登場させています

 

第一章の「天翔ける広報室」は自衛隊が舞台になります。有川ファンならテレビドラマ化された「空飛ぶ広報室」を思い出しますね。有川さんは自衛隊物の作品も多いです。自衛隊に対する愛を感じる作品です。

 

万一の時には最前線を張る仕事だし、震災などの時も真っ先に駆けつけるお仕事なのに、理解が進んでないのも事実。有川さんの自衛隊愛が感じられます。

ドラマの収録が終わって、打ち上げの席で自衛隊の広報の方(リアル)が挨拶されます。

我々は、自衛官がごく普通の人間であるということを、ずっと国民のみなさんにお伝えしたいと思っていました。その願いを「天翔ける広報室」は最大限に叶えてくれました。

自衛隊を描いた作品も沢山書かれている有川さんが、こう書かれています。やっぱり映像の方が沢山の人に伝わります。そこは小説よりドラマの方が力があると認めざる負えないです。

 

第四章の「みちくさ日記」も有川さんの「植物図鑑」ですね。この「みちくさ日記」も映像化されるロケの風景とか一部分だけなのですが、一冊の本にして欲しいなぁ~と思えます。「雑草という名前の植物は有りません」は有川さんの故郷の高知県の牧野富太郎氏の言葉です。(朝ドラで有名ですね)こんな展開のお話も考えておられたのでしょうか。

 

実際の映画の「植物図鑑」でも、有川さん本人がロケを見学に行ったエピソードが紹介されていました。この「みちくさ日記」でも、作家さんがロケの見学に来られます。そして、撮影現場が苦労している事や、主人公が茶髪な点がSNSなどで論議になっている事なども似通っていますね。ロケ見学の後に、この作家さんは自身のブログでこう書かれるのです。

 

原作のファンであることを盾にして、映像化に関わる人や楽しみにしてくれている人を傷つけるような言葉を見ると、私はとても悲しくなります。

とこれは炎上覚悟で、自分の考えを主張されたのだと思います。恐らくこれが有川さんのお考えになる原作と映像化の関係だと思います。

 

 

  外にも色々な制作現場が登場

 

とても厳しい映画監督が登場するのが、第二章の「罪と罰」です。スタッフが倒れても、「俺の現場で死ねたら本望だろう」、と豪語するワンマンで嫌な監督ですが、この作品では脚本も書いているらしい。作品に最適なロケ現場を探す良井達が

「公立(学校)でレトロだとおかしいですね。」

「おかしいな」

脚本はそこまで細部を詰めていない雑なのもある。しかし、それをちぐはぐなまま作品にしてしまうか、整合性のあるものにするかは、制作部や演出部、プロデューサーの手腕に関わってくる。

「この脚本は通して読めば整合性が逆算できるからな。しっかり書かれてある」

「ワンマンだけど脚本を書く力は有るんですね。雑賀監督」

 

これは原作者で多くの作品が映像化された経験がある有川さん本人が脚本も書かれるから感じる、脚本家に対する一つの注文なのでしょう。しっかり読み込んで、原作の世界をぶち壊しにしないで欲しいの気持ちは当然あるでしょうね。
 

第三章の「美人女将、美人の湯にて~」では、予算内で淡々と撮影を進めてくれるスタッフにも受けが良い監督が登場します。長く続いているシリーズ物は視聴率もあるし、手堅い作り方。しかし、なんと良井は言い寄られてしまいます。

 

それと最後の「YOKYOの一番長い日」では、社運を賭けた大きな作品になります。爆破シーンも多く、原作者さんは中途半端な予算では映像化は無理とずっと拒否していたのを口説いたのです。作品は良井たちの活躍もあって無事にクランクアップを迎えますが、エンディングの曲が気に入らず原作者さんは次作のゴーサインを拒否。

しかし、この原作者さんもロケ現場に来ていて、あいにくの雨模様に、ちょっと場所と時間を頂戴と言って、なんと原作を雨のシーンに書き換えてくれるのです。

 

 

  映像化のお話は難しい。あの海猿の作家さんが

 

この「イマジン?」だけでも数々のエピソードが登場します。きっと実際にも類似の出来事があるのでしょう。先に書いた漫画家さんのご不幸は、なんとかならんかったのか?と思いました。

 

原作者さんと映像化でもめた話で私が知っているのに「海猿」が有りました。ドラマや映画、伊藤英明さん、はまり役でした。他のドラマなどに出てもそのイメージが抜けられない位に印象強かったです。映像化作品は大ヒット。しかし、原作者さんとテレビ会社との軋轢はかなりのものだったようです。今後一切の作品の映像化も放映もないらしいです。

 

このブログを書くのに、その作家さんの事をググっていたら、最近映像化について書かれていました。「死ぬほど嫌でした」と書かれていました。残念ですね。

 

 

 

「イマジン?」の一場面。ロケ現場を探す場面で、イメージにピッタリのある喫茶店に交渉しますが、×

以前に協力して行儀が悪くて大変だったようです。こういう協力してくれる所は業界の「宝」だと言います。だから業界として大切にしておかないと、と言うのです。一つのテレビ局が一つの制作会社が無茶をしたら、今後の映像化が出来なくなりますね。