メフィラス星人の日 その1 やっぱり金城さん! | ヤマダ・マサミ ART&WORK 検:ヤマダマサミ

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メフィラス星人の日 その1 やっぱり金城さん!

1967年2月26日は、「ウルトラマン」第33話「禁じられた言葉」の放映日でした。

「ウルトラQ」から演出部に入っていた鈴木俊継にとって金城哲夫は脚本家であり制作の要であり若い世代の同僚のような存在で、その中で演出家としてやりたい事を伝えていたはずです。鈴木監督が若くして亡くなった事や取材記事もないため、そのように想像するしかありませんよね。

ま、たいていの監督にとって金城さんのシンプルでスリリングでちょっと社会派の側面を見せるシナリオはイメージしやすい存在だったと思います。そして、いよいよシリーズ後半戦、それまでの総括のような今回は渾身の作劇になったと思います。

ソノラマ「ウルトラマン大鑑」に、金城さんの文芸室日記が再録されていて、その中の<鈴木俊継監督作品メモ>を再録してみます。

 

<引力のなくなった日>

 

宇宙人もの

生ける者と死ねる者

テーマ

・逆引力遅滞

・反引力の世界

○ファーストシーン

その日は空の祭典ともいうべき航空記念日であった。

さまざまな型の美しいジェット機、ロケットがアクロバット飛行なども演じていた。

○我が科学特捜隊の新型ジェットVTOLも参加、人々の賞賛をうけていた。そこに事件は起こった。

 ・船が空を飛んでくる。

 ・飛び降り自殺も出来ない。

無条件降伏

 

○事件

 

○出動

 ・地球をよこせ

 

○上に落ちる飛行機

 ・雲が集まってくる宇宙人を形づくる。

 

○あなたは地球と自分のいのちのどちらかをうばわれるとしたらどうするか?

 

○人類の心に挑戦してくる宇宙人

 つまりは引力で宇宙へほうり出して人間を殺しにくる

 あなたが地球を売り渡す最初の人間にならないように・・・

 

○俺は地球を無断で奪うのは嫌だ。誰か一人でもいいOKを出したら地球はいただく。

 そしてOKを出した奴だけは生かしてやる。

 

○了解の返事があれば、地球を銀河系外の宇宙へもって行くことが出来る。

 

○事件

 さまざまな引力事件

 迫力

 

○科特隊出動

 分析

 

○第2の事件

 攻撃する

 

○宇宙人の雲を集めて形をつくる

 人類をおどす

 

☆無重力の苦しみ ホシノ少年

☆巨人にさせられるアキコ

☆ムラマツ

☆アラシ

☆イデ

☆ハヤタ

 

人類の平和を守る代表選手

なぜ科学特捜隊は狙われたか?

 

これがそのまま「禁じられた言葉」のベースになりました。

人間の心に挑戦する宇宙人。彼が狙う地球人の代表は・・・科特隊に非ず、子供でした。

フジ隊員の弟という事でサトルくんが選ばれたのか?

サトルくん、真実と正義を<悟る>使命をもった少年です。同じ川田勝明さんが演じたムシバ(ガヴァドンの生みの親)くんだったら、あわや? ですよね。

甘いささやきで迫ってくるメフィラス星人は、宇宙時代のメフィストフェレス。

メフィストフェレスはゲーテの長篇戯曲「ファウスト」に登場する悪魔で、この世の望みを叶える代わりにファウストの魂を悪徳へ導くことを神と賭けます。

メフィストフェレスの名の由来は諸説あって、ヘブライ語で破壊と嘘をつく、を合成したものと言うのが、まさに今回に該当しますね。

謂わば悟りと悪魔の対決。

対立の図式は、サトルくんがウルトラマンに重なります。正義が上手(かみて)に位置します。

金城さんも鈴木監督も、サトルくんがウルトラマンやハヤタのような真っ直ぐで真実と正義を求める大人になって欲しい、と未来へ託したんでしょう。サトルくんは視聴者の子供たちみんなのことですからね。

果たして、ぼくたちは悪魔の誘惑に打ち克てる大人になれたでしょうか?

ぼくみたいな大人から見れば、サトルくんは眩しすぎます。そこで闇を背負ったメフィラスが格好良く思えてしまうのかもしれません。

加藤精三さんの声も素敵でした。

 

「よそう。ウルトラマン、宇宙人同士が戦ってもしようがない。

私が欲しいのは地球の心だったのだ。

だが、私は負けた。子供にさえ負けてしまった。

しかし、私はあきらめたわけではない。

いつか、私に地球を売り渡す人間がいるはずだ。

かならず、来るぞ!」

 

メフィラスは悪なのに、惹かれる。といって、彼がなにをしたいのか実は不鮮明なところもあります。地球を欲しがるのは他の宇宙人と同じ。侵略です。なのに、子供にさえ負けたと言い切ります。

メフィラスは実力者で、ウルトラマンとの戦いは互角。前半は押しています。80年頃、友達が怪獣界のローランド・ボックだ!と言っていた事を思い出します。

配下のようなバルタン星人、ケムール人、ザラブ星人のボス格に見えます。この宇宙人軍団のサイドストーリーは後述します。

4本後の放映に当たるジェロニモンは、60匹以上の怪獣のボスでした。シナリオによればレッドキングもゴモラも支配下になります。

シリーズの後半なので前半の怪獣より強くしないといけませんし、当時の円谷プロでは、既出の怪獣の再登場は棚卸しと言っていたそうですが、この2本は金城さんの総決算でもありました。その先に、最終回があるわけです。

「禁じられた言葉」の悪魔と悟りの対決にすぐ思い出すのは「ウルトラQ」の「変身」でしょうか(金城さんの原案で北沢杏子の作)。恋人の体が変わっても心変わりまでするのかを問う話。

サトルくんは、甘い誘惑に乗る素振りも見せません。大人の恋心の揺れに対し、純真な子供は頑として正義を貫きます。でもそれでは面白くありません。

シナリオでは初稿も決定稿も「地球は君のものだ!」とサトルくんは嘘をつきます。

メフィラスは「これで地球は俺のものだ! とうとう人類の心に勝ったぞ!」と、油断した時、サトルくんが飛びかかりました。

ラストでハヤタが褒めます。「サトル君、よく頑張ったね。ウソをついて、メフィラス星人を倒したんだからね」

まぁ、ふつうに、そりゃないだろう(笑)。ですよね。

映像分は、金城さんが3稿のつもりで差し込み台本を入れたのか、鈴木監督が現場で直したのか、分かりません。

「ウルトラマン」が「ウルトラQ」と違うのは主役がウルトラマンである点です。それなのにウルトラマンに喋らないのが、とても良かった。スパイとまで罵られても反論しません。

メフィラス、自問自答のように子供に負けた事を認めます。しかし、消え去るまで、ウルトラマン、指先の力を抜きませんね。最後の最後まで戦うつもりだったんです。

必ず来る、と言うのは、侵略の再挑戦か?

そこでもう1つ思い出すのが翌年にあたる「ウルトラセブン」の25話「零下140度の対決」です。ここで金城さんはポール星人を前回の氷河期を起こした張本人とし、再来のポール星人は文明をもった人類の出現を見てまた氷河期を起こして地球の未来を閉ざそうとします。まるで、動物や昆虫の観察のような口ぶりでした。

メフィラスも、人類が現代人にまで育った頃合いを見てやってきて、去って行き、またいつか、やってくる、そんな神の意志のような高い位置の言葉に感じるんです。

紳士かどうか分かりませんよ、卑怯もらっきょもこの際無視したとしても、メフィラス、楽しんでいるようなんです、ウルトラマンとの勝負の引き分けでさえも。

戦わないメフィラスは、チェスのコマのように宇宙人を扱かった。

その辺に大物ぶりと言うか人智を越えるナニカを感じる。人気の秘密でしょう。

 

アンバランスゾーンに陥った恋人同士、子供の純真な正義に感心した悪魔メフィラス、感情さえ見せない小さな宇宙人の氷河期。

空想特撮シリーズは、金城さんのたなごころで光を放ちながらころころしていたようでした。ぼくらは深くため息をもらすのです。

 

 

 

 

【画像】

 

・宇宙のメフィストフェレスこと、メフィラス星人。

 

 

・そのデザイン画。成田亨筆。

 

 

・67年の現代コミックス「ウルトラマン7月号」付録「怪獣大パノラマ ウルトラマン」から部分。成田さんの絵。マントしているようですね。

 

 

・円盤(セミ人間、バルタン星人と同型の円盤で、上下逆さの構造)内のメフィラス。独特の背景は岩崎致躬、計器は深田達郎のデザイン。

 

 

・フジサトル。ガヴァドンの回でムシバくんを演じた川田勝明さんが演じた。フジ隊員の弟。

 

 

・28番街で巨大化した姿で現れたフジ隊員。8分の1人間から25倍人間を演じた桜井さん。怪獣あつかいされた、と楽しくないようです。

 

 

・28番街こと丸の内のビル街に次々と現れる宇宙人たち。フジ隊員に続いてバルタン星人。

 

 

・ケムール人、ザラブ星人。みんな科特隊が退治したと豪語するムラマツ。たしかに「2020年の挑戦」に小林昭二さん、出ていますから。

 

 

・今回の岩本博士は、伊藤久哉さん。トドラの時のオリオンの竜、ゲスラの時のダイヤモンドキックみたいなチンピラギャングより、岩本博士や「ガス人間第1号」の田宮博士の方が似合いますよね。下、右の警官は中島春雄さん。巨大フジ隊員を撃とうとして止められる。「怪獣も同然です!」。あんたが怪獣や。と、みんな突っ込む。

 

 

・「メフィラス星人、さっさと自分の星へ帰れ!」「スパイめ!」「さぁ、来い!」

正義と悪の対決。この時は勝てたウルトラマン。同じ構図で、ゼットンと戦い敗れるまで、残り6本。

 

 

・焔の中から闇が現れる。ついに決戦。光が挑む!

 

 

・メフィラスとウルトラマン。下、メフィラスとサトル。

 

 

・個人的な事ですが、メフィラスの後頭部の三角の部分が好きです。耳にかけて、耳の上からのシルエットも三角。曲線の中に鋭利なエッジが素敵です。デザイン画には、背面も指示されています。シルエットになると、マントを背負ったみたいです。

 

 

・高山さんの造型。シナリオには、

怪物である。しかし、その顔は、見方によっては、非情に美しいとさえいえるつくりだ。例えばダリの絵のように。

とある。

 

 

・「ファウスト」にちなんだ図版、など。