さらばウルトラマン その1 | ヤマダ・マサミ ART&WORK 検:ヤマダマサミ

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主に仕事に関わる、特撮、怪獣がらみのブログです。
ときどき、猫が登場します。

さらばウルトラマン 
毎年この時期になると半世紀も前の「ウルトラマン」の最終回を思い出し、誰ともなく話題にします。先週ちょうどテレビ埼玉が放映したのを、最後だけちらっと見ることが出来ました。
何回見てもウルトラマンはゼットンに勝てませんねぇ。いやホントに、負けたことが信じられない。再放送を見ても、再々放送を見ても、ウルトラマンは負けたままでした。
ま、この歳になってさすがに無茶は言いませんが、それでも、いま、ビンさんがあのスーツを着て、ゼットンを粉砕してくれたなら、泣けるだろうな。そういう映画も番組も夢のまた夢ですかね。夢が枯れないうちにいろいろ留めていくのが自分のやれる事なんだと思うしかありません。
作業が一段落ついたので、時節柄の「さらばウルトラマン」についての私見をまとめました。オフィシャルな話ではぜんぜんありませんので。


(1)宇宙路線
子供にとって「ウルトラマン」ほどわくわくした番組はなかったわけですが、永遠に続くと思っていたらある時、いきなり最終回になりました。「さらばウルトラマン」は、それ自体が衝撃でした。
無敵のウルトラマンが負ける。それも死んでしまう。あしたからどうするんだよぉと思いながらちゃんと月曜は「マグマ大使」を楽しんで翌週から始まる「キャプテンウルトラ」も熱中しました。
それでもウルトラマンの敗北は信じられないし「ウルトラマン」がもう見られない悲しさとともに、ウルトラマンが勝てないほどの相手が居た事が6歳の心をいっぱいにして、ゼットンはウルトラマンに匹敵する存在感になったのです。
アトムやジャイアントロボも自らのいのちを犠牲にして人類を守りました。人が人の犠牲になる現実の世界で、人でない存在が人のためにいのちをかけることは子供心にも深く感じ入るものです。
ウルトラマンはでも、ロボットではないばかりかたまたま立ち寄った先での事でしたからね。歳を追うごとに、そこまでしてくれて有り難いこと本当にこの上なくも思います。ウルトラマン、ありがとうと心底思います。
その点ではモデルになった「スーパーマン」を越えた存在です。死んで星になる。いや、新しいいのちをもらったから死んではいないのか。 
あの頃は星が綺麗でしたから夜空を見上げて星に還るウルトラマンを探した子供は多かったはず。
この最終回、現場では、様々ありました。
視聴率40パーセントを超えた「ウルトラマン」を終わらせる事は苦渋の決断でしょう。あのまま第4クールを続けていたら? 「ウルトラマン」のクオリティ、世界観が続けられたかどうか? 歴史の<もし?>を探るのも昔からファンの楽しみでした。

簡単にシリーズの流れを挙げるとこんな感じです。
まず、SFファンタジー路線で制作が始まった前シリーズ「ウルトラQ」を子供に分かり易い怪獣路線へ変えたのはTBSのプロデューサーが栫井さんに変わってからです。渋沢さんの担当分は「ミステリーゾーン」「アウターリミッツ」を範にして始まった謂わば大人向けのSFとファンタジーでした。
「ウルトラQ」は、制作順をシャッフルして、放映順を熟考し、正月2日から怪獣対決ものを持って来て図に当たります。
ヒットを飛ばした勢いのまま、怪獣路線は「ウルトラマン」に引き継がれました。
栫井さんが怪獣に固執したのは円谷英二の内外のバリューが怪獣によるからです。テレビ界へ特撮の神様を進出させた話題と、儲けを出すための輸出とが視野にあってでした。
怪獣ブームを継続させるために模索されたのが宇宙路線です。
米ソの対立が宇宙開発に移った頃。
アポロ計画の影響で、海外から大作SF映画の情報も来ます。TBSは「宇宙家族ロビンソン」を買い付けます。
「ウルトラマン」も宇宙路線の模索はありました。
しかし、高視聴率を取っていた日曜夜7時のタケダアワー枠を具体的にどうするか?としたとき、肝心の円谷プロは「ウルトラマン」の第4クール(40~52話)を、制作体勢の余裕がなくなって見送るのです。
TBSは「ウルトラマン」の後番組を東映に任せて「キャプテンウルトラ」が企画されました。
その時点で2クール(半年26本)開けて、円谷プロの続編は決まっていました。とはいえ現場が意地を見せないわけにいかなかったのは、宇宙路線はそもそも東宝がお家芸でした。東宝の資本が入った円谷プロとしては宇宙路線を強気に見せるのです。

宇宙怪獣
33話「禁じられた言葉」以降の新怪獣はみな宇宙怪獣です。
空から降ってきたスカイドン、宇宙の怪獣墓場から来たシーボーズ、異次元から現れたザラガス、ジェロニモン、Q星のキーラとサイゴ。
ジェロニモンは、ノーベル書房「怪獣大全集」の第3巻「怪獣絵物語ウルトラマン」によれば、火星で開かれた宇宙人会議で、対ウルトラマン攻撃の3段構え、メフィラス、バルタン、に次ぐ3番目の対戦相手。実は宇宙怪獣なのでした。
異次元から現れるザラガスも地球怪獣でありません。超獣の原点ですよね。

宇宙特撮
38話「宇宙船救助命令」ではQ星の2大怪獣に加え、白鳥、探検用万能タンク、宇宙ステーションV2、などと宇宙での新兵器が目白押しで、まさしく第4クールの可能性を探る手がかりです。
東宝から有川さんを引っ張り出して大がかりな宇宙特撮を見せたのは、東映「キャプテンウルトラ」への対抗措置としか言いようがないぐらい、つまりTBSへ、うちらはここまでやれるよと見せつけたかのようです。

宇宙路線は結果としては怪獣ブームにそぐわなかったかもしれません。
前回に書きましたが、怪獣ブームの後半から妖怪ブームが入り混み、突如スポ根ブームがやって来ます。
怪獣ブーム終焉の68年に「2001年宇宙への旅」「猿の惑星」「バーバレラ」などが来ます。でも子供が喜んだのはSFのセオリーではなく、猿のメーキャップでした。子供にとってSFは概念が難しく、ベム(宇宙生物)さえ出ないとなればただただ退屈です。
アポロの月着陸の翌年、70年の日本万国博覧会でアメリカ館が大いに盛り上がったのは、月の石、月面着陸艇と言ったアイテムの魅力なのです。
「キャプテンウルトラ」も「ウルトラセブン」も、いざ宇宙を舞台とした場合、殺風景で、思ったほど奥行きが描けなかったように感じました。
とくに「セブン」は途中から、栫井さんに代わって橋本さんがプロデューサーになり、人間ドラマに重きが置かれます。怪獣不在ばかりか宇宙人の姿さえないとなると子供は付いていけません。
「キャプテンウルトラ」は宇宙メカと宇宙怪獣を描きました。色彩設計では子供に見易い青い宇宙と割り切ったものの、いかんせん当時はモノクロテレビが主流。宇宙開拓は魅力的なテーマでありつつ、子供が見たかったのは怪獣の大あばれなのです。
「キャプテン」の後半にあたる67年の夏、視聴率テコ入れで<新怪獣ぞくぞくシリーズ>へ路線変更が余儀なくされます。
そんな折り「ウルトラマン」の編集版である「長篇怪獣映画ウルトラマン」が東宝系で公開されて、またもや怪獣人気が強まりました。
併映、というかこっちがメインの「キングコングの逆襲」や、東映動画のアニメ版「キングコング」も放映されてちょっとしたキングコングブームもありました。でも主役は「ウルトラマン」だったのです。
怪獣ブームが再燃した中で、「ウルトラQ」「ウルトラマン」の初めての再放送があり、秋の番組「ウルトラセブン」に到るわけです。


(2)強敵3部作
67年に入って第3クールで終了する事が決まると、少しずつ最終回の準備がなされます。
金城哲夫のラスト3本はカラーが似ていて、強敵3部作と括っても良いでしょう。

33話「禁じられた言葉」メフィラス星人
37話「小さな英雄」ジェロニモン
39話「さらばウルトラマン」ゼットン・謎の宇宙人

各話、ウルトラマンと対等以上の強敵で、ウルトラマンは自分の力で倒していません。加えて空想特撮シリーズ「ウルトラQ」「ウルトラマン」の総決算のように人気怪獣が顔を見せ、心理的な作戦でウルトラマンへ挑戦します。
ゲストに呼ばれた人気キャラクターは以下。<>内は台本でのみです。

33話 バルタン星人、ザラブ星人、ケムール人、<ダダ><写真で・ナメゴン、ベムラー、ガラモン、ギャンゴ>
37話 ピグモン、テレスドン、ドラコ、<レッドキング><ゴモラ>
39話 (回想で)ジラース、ガボラ

過去の怪獣を出す事を実相寺さんは蔵出しと言っていましたね。子供にとっては大サービスです。
内容を見てみます。

メフィストフェレスのごとく悪魔の囁きで子供に「地球をあげます」と言わせたかったメフィラス星人。サトルくん、その名の通り、悟りですよね。ファウストの巧みさと違う、子供の純真さに、悪が勝てるはずもありません。
しかし子供にさえ勝てなかったと自虐気味に嗤って去って行く星人の知性と力と余裕はかえって印象深いです。
捨て台詞を考えれは、用心しろよ、と言っています。奢れば、次は勝てないぞ地球人よと。それもまた悪魔の甘い囁きのようでした。

ジェロニモンは、死んだ魂を操って屍を蘇生させる超能力と、それらを配下にしてしまう死に神のような武将です。怪獣なのに知性があるんです。人類に取って代わる死の世界を築かんと支配の布陣を敷きます。怪獣を巨人に置き換えれば、甦る60匹の怪獣ともども神の叛乱のようです。
イデの疑問は視聴者含めて世の中すべての人の疑問でした。ウルトラマンはなんのために存在するのか? もはや哲学ですよね。
人間が勇気を振り絞ってそれでも手に負えない時にだけ味方するのだと、イデはピグモンの死を以て痛感します。
イデ隊員は、金城さんがもっとも心を寄せるキャラクターです。鬼太郎におけるねずみ男のように真理を突いてきます。
ジェロニモンが配下に甦らせる先発隊の怪獣。台本ではレッドキングとゴモラでした。このコンビ、「レッドマン」(ウルトラセブン)でも選ばれ、当初のカプセル怪獣でした。
人気・知名度の高さゆえ選ばれていながら、使われなかったのはショーなどで手元になかったせいでしょう。
この回は怪獣60匹登場と予告編で言われて最高視聴率を取りました。

そして39話最終回。ウルトラマン最後の試練は最強の敵。戦い続けておそらく満身創痍のウルトラマンは、科特隊を背に、巧妙な策略に実力を発揮出来ません。
暗闇バットやタイガー・ザ・グレートのように主人公に似せた姿ではありませんが、光の国のスーパーマンであるウルトラマンの最後の敵ゼットンは光に対して正反対の闇そのもの。
金城が対ウルトラマン攻略に敷いた3つの試練を端的に言うなら、
悪魔(メフィラス)
死(ジェロニモン)
闇(ゼットン)
となります。
いきおい脱線しますが、そういうイメージのところへ<ゾーフィ>が来るので(あとで解説)、実はゼットン事件の黒幕はウルトラマンが倒れるまで黙って見ていたゾフィではないかと深読みのファンは昔から騒ぐのですが。それはさておき。

「東京新聞」67年2月22日の記事を見ると、
「結局ウルトラマンは地球上では、ものすごい怪獣にやっつけられて死ななければならない」
と全体の方向は明確にされつつも、
「彼のからだから電波を発し、〝光りの国〟へ通報」
されて仲間がやってくると、この時点でまだ台本は完成していないように見受けられました(のちの<ウルトラサイン>のようで面白い)。
この4日後に「禁じられた言葉」が放映されました。
「さらばウルトラマン」の台本では、初稿と2稿とで、いくつかの差異はありながらおおむね映像分と同じです。
3稿はないようです。しかし、特撮パート、格斗に関して言えば台本は役に立ってないほど変わっていますから、差し込みを配ったのでしょう。


(3)謎の宇宙人とゼットン
劇中の台詞で、謎の宇宙人は1930年から地球を見張りに来ていました。40年間と、説明されますから舞台背景の時代は1970年です。
実相寺さんの回だけジャミラの生年月日が小道具の墓碑から1992年没とされるので、はるか未来と思う人もいますけど、メイン監督である円谷一組で、そのようにはっきり1970年と出るのと、もう1つの一さんのゴモラを展示する万博の話があるので、ほぼリアルタイム、ほんの少し未来である、と言うのが間違いないところでしょう。
後付でゼットン星人と命名された謎の<宇宙人>がその形状からケムール人そのものであるのに、台本では特定されてはいません。
いや台本ではただの<宇宙人>なんですよ。
金城さんが放映後に出したノーベル書房「怪獣大全集」第3巻「怪獣絵物語ウルトラマン」において、<謎の宇宙人>としているので、ファンとしては総括して<謎の宇宙人>としている。
ここで大前提として忘れてならないのは「ウルトラマン」が<空想特撮シリーズ>と銘打れた「ウルトラQ」とは前後作の関係だったという点です。
「ウルトラQ」のあのぐにゅ~と回るオープニングをかち割って出てくるタイトルが「ウルトラマン」です。正確には「ウルトラQ空想特撮シリーズ ウルトラマン」。
「ウルトラQ」で投げかけた疑問符の答え、さらなる問題提起が「ウルトラマン」に出て来ます(やがて「ウルトラセブン」へ続きます)。
行きすぎた文明の末、長寿になりながら肉体そのものが衰えていく星人が地球人の若い肉体を目当てにやってきた「2020年の挑戦」のケムール人、その再度の挑戦と受け取ればこそ最終回は面白いと個人的に思いました。
また「ガラモンの逆襲」で任務に失敗した仲間を処刑する侵略者を「悪魔のような宇宙人」と由利子に呼ばせています。
謎の宇宙人も冷徹で、戦略に長けて科特隊本部に潜入し心臓部を破壊し、いつでも出せる最強のゼットンを眼前に配備。
「怪獣絵物語ウルトラマン」によれば、火星で開かれた宇宙人会議で、発言もない名もなき宇宙人が「ゼットン、早く育て・・・」ともらすんです。
小説と映像は違うものとは言え、金城さんが描き足りなかった事が小説にあったとするなら、ゼットンはウルトラマン迎撃のためにだけ生まれた存在でした。
「ウルトラセブン」の最終回のパンドンは人類が開けてはいけなかったパンドラの箱を、宇宙への進出に準えた怪獣。パンドンに辛勝したセブンは力尽きて星へ帰れなかったとぼくは見ています。
ウルトラマンはゼットンに完敗でした。
謎の宇宙人は単なる侵略でもなさそうで、米ソの大国へ向かわず、日本へ標準を絞ります。目標はウルトラマンなんです。
「本部は我々のいのちだ!」と叫ぶムラマツ。焦るウルトラマンは彼らともども「いのち」を守ります。いのちは希望、光の国のウルトラマンだからこそ守りきらねばならないものです。
これもノーベル書房「怪獣大全集」の1巻目「円谷怪獣のひみつ」からですが、かつてウルトラマンは地球人と同じ姿であったが、太陽の消失を補うプラズマスパーク核反応炉が放射し続けた「ディファレイター光線」によって超能力をもつ今日のウルトラマンの姿になったとしています。
つまりウルトラマンにとって地球人は同じ道を歩む可能性をもつ昔の姿に見えるのかもしれません。まるで親が子を護るようにウルトラマンは人類の盾になりました。

「さらばウルトラマン」の肝はゼットンそのものです。
ゼットン、強すぎてカッコイイ。
最終回の怪獣や宇宙人で、これほどのものはないでしょう。
台本には「宇宙恐竜」とありますが、成田さんは宇宙人としてデザインしたそうです。そこでまた真のゼットン星人の正体などと思ってはいけません。ゼットンはゼットンです。
67年4月5日付の「東京日日新聞」の取材で、チラッとゼットンのデザイン画を見せています。
成田さんは著作などで、ゼットンのデザインに、宇宙観を出すために黒と銀にし、目鼻口を廃した代わりに光る部分を縦に付けたと説明しています。
成田さんにスクラップブックを見せてもらったことがあるんですが、ゼットンの初稿で、黄色い口の部分に一つ目のある絵がありました。目なのか、口なのか、分かりませんが。
闇の中に光る黄色い縦長、これ、女性器ですよね、完全に。
胸の1対はおっぱいですが、巨大な目のようでもあります。
余談ですが、ヘドラの縦長の目も台本では「女性のセックスのような」とあります。そういう比喩は芸術の世界ではサラッとやるんですね。卑猥というよりも、潜在的に子供が愕く。口裂け女と同じ受け取りだと思うんです。心理学でフロイトは形に性的な解釈を付けます。
ウルトラマンが神々しい弥勒菩薩みたいな顔ですから、ゼットンや謎の宇宙人は反対に禍々しい(ケムール人は男根ですし)。
その顔の発光体から、大伴昌司の設定は放映の後になりますが「一兆度の火の玉」を吐きます。

ゼットンは子供が見てもそれまでのウルトラ怪獣の集大成のようです。
顔はサイゴに似ているとずっと思っていました。
サイゴにも大アゴが付いたプロトタイプがあるので、発想は似ているんです。アントラーの初稿も頭に大アゴ、というか角なんですが、昆虫そのものでない位置にありました。
サイゴとゼットンの特徴的なブロックは万力だと説明しています。万力で大アゴを締めるイメージですね。でも、サイゴの大アゴは根本でカットしてあります。
成田さん自身は、レッドキングの強そうなところを持って来たと言ってますから、あのレッドキング模様の腕力脚力は生態としても強力です。
そこから先は成田さんは苦笑するでしょうけど、黒い衣装をまとったメフィラスの知性。ザラガスの甲冑。キーラの発光眼に似た胸の光。装甲車のような甲羅はケムラーのようです。
また、テレポーテーション、光波バリアはバルタン星人です。
つまり、ウルトラマンはかつて自分が倒したすべての怪獣を一度に相手するのと同じです。

アントラーの大アゴは磁力光線を発しましたが、ゼットンは光線を吐くときに可動します。光線を勢いよく発射する演出なんでしょうね。
高山さんのヒモコン(映画と違ってお金も時間もないので、ラジコンが使えず、テグスや紐を使うため、ヒモコンと呼んだ)は、自転車のブレーキを使います。ビニールが巻かれた金属のフレキシブルなやつです。
中に針金が入っていて、グリップを握ると、中の針金やテグスが連動します。自転車のブレーキを見れば、それがわずか数センチの可動だと分かります。口やまぶたも、その範囲の可動であの効果が出るんです。
グリップは掌の中にあるので、よく見ると、怪獣の掌の中で役者が手を握ると口やまぶたが動く仕組みです。
角はラテックスで、その可動の可動のテンションでどんどん変形して最後の方ではへたっていました。
高山さんは怪獣の制作のGボンドは使いません。ゴム糊で接着してラテックスを塗るので、柔らかい反面、よく破けたそうです。現場で好かれたのは、開米プロのがっしりした怪獣でした。
ゼットンも撮影後は全体がへたって、格好悪くなっています。
胸の発光体は塩ビのヒートプレスで、「帰ってきたウルトラマン」の二代目ゼットンに使われています。


(4)格斗における台本表記
最終回の話題で、台本と映像の違いから、撮ったけどあまりに残酷で使われなかったカットがあるのではないか? と誰ともなく言い出すものでした。と言うのも、ゼットンの攻撃で、前のめりに倒れるウルトラマンが、次のカットでは仰向けでした。
台本ではカラータイマーを叩きつぶします。実際、ゾフィとの場面では粉砕されたカラータイマーが確認されます。
オンエアまで切羽詰まっていろんな変更があったでしょうが、映像と台本の差異を改めて見てみます。
格斗場面を拾ってみます。昔の台本なので、促音、小文字が写植にありません。原文ママ。誤植、誤字もそのままです。
本来縦書きなので読みづらいかもしれませんから、縦書きのファイルを画像で作りました。そっちも参照して下さい。


「さらばウルトラマン」初稿

29 近かくの道
        岩本、逃げて来る。
        アスフアルトの道から土手にとび降り、林
        の方へ逃げて行くーー。
        アラシ、ムラマツ、ハヤタ追つてくる。
  アラシ「あツ、居たぞ!」
        土手をとび降りて追う。
        林の中を逃げる岩本。
        追う、アラシ、ハヤタ、ムラマツ。
  アラシ「待てーツ!」
        足の早いアラシ、みるみる追いつき。岩本
        にタツクルする。
        格斗! モミ合う。
        アラシ、強烈なアツパーを喰わす。
        転倒する岩本、うつ伏せに倒れる。
        追いついたムラマツ。
 ムラマツ「アラシ、何をするんだ!・・・岩本博士・・・」
        と、抱き起す。
        その顔は奇怪な宇宙人の顔である。
        ギヨツとなつてとびのくムラマツ。
        ハヤタ、スーパーガンを抜き発射する。
        心臓に命中して苦しげにもがく宇宙人。
  宇宙人「ゼツトン!ゼツトン!」
       と叫ぶとすーツと姿が消える。
 ムラマツ「本部には、すでに宇宙人が侵入してたのか・・・」
  アラシ「岩本博士に化けて、通信機や動力室をメチヤメ
     チヤに破壊してたんだ」
  ハヤタ「キヤツプ! 宇宙人は、ゼツトンとか言
      つてましたね。一体、何のことでしよう?」
        その時、アラシが一方を見て、
  アラシ「ありや何だい?」
          ×    ×   ×
        林の向こうに見える平野の一部が、ブクブク
        と土が盛り上がる。
          ×    ×   ×
        見守るムラマツたち。
          ×    ×   ×
        土盛りがピタリと止まる。
        と?! ブルーの大型円盤が徐々にせり上つ
        て来る。
          ×    ×   ×
        アツとなるムラマツたちーー。
          ×    ×   ×
        大型円盤、半分まで地上に姿を現わすと、
        巨大なハツチが開き始める。
        と、ハツチの中から風船玉がふくらむよう
        に、青い玉が、みるみるふくらんで出てく
        る。
        青い風船状の玉、爆発を起す。
        モウモウたる煙りが視界をかき消す。
        ガーウオオ!! 咆哮。
        煙りが晴れると、奇ツ怪な宇宙恐竜ゼツト
        ンが姿を現している。
        こちらに前進してくるゼツトン。
          ×    ×   ×
        土手の方から、ムラマツたちが駈けのぼつ
        て来る。
        ガーウオオ!
        ゼツトン、前進する。
        アラシ・スパイダー・シヨツトで攻撃する。
        心持ち良さそうに光線を浴びているゼツト
        ン。
  アラシ「糞ツ! これはヘヤー・ドライヤーじやないん
      だぞ!」
        キリキリ怒るアラシ。       ・・
 ムラマツ「前進させちやあ、いかん! 本部は我々のいの
      ・
      ちだぞ!」
        ハヤタ、マルス133を発射する。
        ゼツトンの顔に命中する。
        ガーウオオ! 怒る。
  ハヤタ「駄目だ!」
 ムラマツ「アラシ、本部から武器を・・・」
  アラシ「QXガンもマツトバズーカも、スパーク8も、
      全部、宇宙人に破壊され、武器は手持ちのこれ
      だけですよ!」
 ムラマツ「何ツ?!・・・」
      暗然となる一同。
30 科特隊本部・一室
        煙りの中に倒れている岩本博士。
        怪獣の叫びで意識を取り戻す。
31 同・廊下
        部屋から這い出してくる岩本。
        背広の襟を裏返すと、流星マークのトラン
        シーバーが出てくる。
        岩本、セツトする。
  岩 本「岩本よりムラマツへ・・・岩本よりムラマツへ
     ・・・」
32 近くの道
 ムラマツ「こちらムラマツ・・・」
 岩本の声「私だ・・・岩本だ・・・救助を頼む」 
 ムラマツ「岩本博士、どこに居るんです」
 岩本の声「本部の中だ」
 ムラマツ「えツ!?」
        と、本部の方を見る。
        黒煙を吐いている特学隊本部。
 ムラマツ「ハヤタ! アラシ! 博士を頼む」
        ハヤタとアラシ、本部に向つて走る。
           ×    ×   ×
        ゼツトン、前進する。
        スーパー・ガンで立ち向うムラマツ。
        本部に迫るゼツトン。
33 科特隊本部・玄関
        とび込むアラシ。
        ハヤタ、フラツシユ・ビームを点火する。
        ウルトラマン登場!
        シヨワーツ! とぶ!
34 科特隊本部・附近
        本部に手を掛けようとするゼツトン。
        ウルトラマン、急降下。
        ゼツトンに組みつくーーと、平野の方に引
        きずり込だ。
        壮烈なる格斗が初まる。
35 科特隊本部・廊下
        アキコを抱いたイデが来る。
  イ デ「(喜び)ウルトラマン!」
        窓外を見る。
        と、別の廊下から、岩本博士を肩に抱いた
        アラシが来る。
  アラシ「おお、イデ! 本部が危い! 早く来るんだ!」
        四人、急ぐ。
36 科特隊本部・附近
        格斗がつづく。
        ウルトラシユラツシユがとぶ!
        ゼツトン、払いのけるーーゼツトン、口か
        ら火の玉を吐く。
        ウルトラマン、かわす。
        と、火の玉は科特隊本部に衝突する。
        本部ーー燃える! 燃える!
           ×    ×   ×
        アキコを抱いたイデ、岩本を肩で支えたア
        ラシがムラマツの方へ来る。
  アキコ「(かすかに)ウルトラマン・・・」
           ×    ×   ×
        ゼツトンに組み伏されているウルトラマン。
        カラータイマーが激しく点滅する。
  N  「ウルトラマンの体は地球上では急激に消耗する、
      エネルギーがなくなると胸のカラータイマーが
      鳴る! ウルトラマン立て!」
        よろよろと立ち上がるウルトラマン。
        と、ゼツトンが、ウルトラマンのカラータ
        イマーをグシヤツと叩きつぶす。
        ウルトラマンの悲鳴! 動きがとまつてし
        まう。
        ゼツトン、ウルトラマンを高々とさしあげ
        て(いつもウルトラマンが怪獣をそうする
        ように)ドーツとばかり投げつける。
        大地に叩きつけられるウルトラマン。
           ×    ×   ×
        氷水を浴びたように立ちつくす隊員たち。
        言葉はもとより、声さえ失う。
           ×    ×   ×
        動かない・・・いやすでに死んでしまつた
        我らのウルトラマンがそこにいるのだ。
        ゼツトン、ジツと見る。
        シーンとした静けさが漂う。
           ×    ×   ×
        イデに支えられたアキコ。
  アキコ「(泣いて)ウルトラマーン! 死んじやあ駄目
      ! 起き上がつて・・・立つのよ!(ボロボロ涙
      を流して)ウルトラマーン! あなたが死んで
      しまつたら、地球はどうなるの・・・ウルトラ
      マーン!」
        アラシ、イデ、岩本、ムラマツも無言の涙
        を浮かべている。
        ガーウオオ! ゼツトン勝ち誇つたように
        燃える本部を更に破壊する。
           ×    ×   ×
        岩本、空の一角を見ている。
  岩 本「ムラマツ君! あれを見給え!」
        一同、見る。
 ムラマツ「??・・・ウ・・あれは、ウルトラマン!」
        豆粒大から次第に大きくなつてくるウルト
        ラマンの仲間!
  イ デ「ウルトラマンが二人!?」
  岩 本「いや・・・光の国の使いだよ」
        一同ーー喜びの色が満面によみがえる。
           ×    ×   ×
        ウルトラマンの仲間、上空からゼツトンに
        対し、シユペシユーム光線を発しながら急
        降下して来る。
        ゼツトン、光線を浴びて、そのまま火の海
        に埋没する!
        ガーウオオ! 断末魔の叫び!
        と、平野の大型円盤がとび立つ!
        ウルトラマンの仲間、目から光線を発する。
        大型円盤、吹つとぶ!
        ウルトラマンの仲間、それを見届けると、
        ウルトラスピンでクルクル回転を始め、み
        るみる赤い玉(第一話で登場の)に変る。
           ×    ×   ×
        見守るムラマツたちーー。
           ×    ×   ×
        赤い玉、死んだウルトラマンの上に降りる
        ーーと、ウルトラマンの姿が、赤い玉の中
        に消え、上空に舞い上がりとまる。
37 赤い玉の中
  声  「ウルトラマン! 目を開け!」
        ウルトラマンの目輝き、カラータイマーに
        光りを放つ。
        ウルトラマンの仲間が見降ろしている。
  声  「迎えに来たのだ。さあ、私と一緒に光りの国に
      帰ろう、ウルトラマン」    
  ウルト
  ラマン「仲間、私の体は、私だけのものではない。私が
      帰つたら一人の地球人が死んでしまうのだ」
  声  「ウルトラマン、お前はもう、十分地球のために
      尽くしたのだ。地球人は許してくれるだろう」
  ウルト
  ラマン「ハヤタは立派な人間だ。犠牲には出来ん。私は
      地球に残る!」
  声  「地球の平和は、地球人の手でつかみとることに
      価値があるのだ。ウルトラマン、いつまでも地
      球に居てはいかんのだ」
  ウルト
  ラマン「仲間、それならば、私のいのちをハヤタにあげ
      て地球を去りたい」
  声  「お前は死んでもいいのか?」
  ウルト
  ラマン「かまわない、私はもう二万年も生きたのだ。地
      球人のいのちは非情に短い、それにハヤタはま
      だ若い! 彼を犠牲には出来ない」
  声  「よろしい! では、そうしよう」



このあとほぼ劇中と同じですが、
ウルトラマンは赤い玉に入ったまま仲間が押し上げるように飛んで、宇宙へ消えて行きます。
ウルトラマンはゾフィを「仲間」と呼んで、ゾフィの名前は使われていません。


第2稿では、格闘場面はほぼ劇中と同じで、赤い玉の中、

  声  「お前は死んでもいいのか?」
  ウルト
  ラマン「かまわない、私はもう二万年も生きたのだ。地
      球人のいのちは非情に短い、それにハヤタはま
      だ若い! 彼を犠牲には出来ない」
  声  「ウルトラマン、そんなに地球人が好きになつた
      のか! よろしい、私はいのちを二つ持って来
      た。その一つをハヤタにやろう」
  ウルト
  ラマン「ありがとう! ゾフィ!」

となります。
ゾフィが、そんなに、と半ば呆れてしまうほど、ウルトラマンは地球人に思いを寄せていたんですね。ここは本当にグッと来ます。

ただ、2稿の完成映像と大いに違う点がこの後、来ます。

40 赤い玉の中
        ウルトラマンが後向きに座つている。
  ゾフィ「ウルトラマン、みんなが見送つているぞ! ふ
      り返つてやれ」
        ウルトラマン、かぶりをふる。
        科特隊の隊員たちと子供たちの声が流れる。
 子供たち「ふりかえってよ、ウルトラマン!」
  科特隊「ウルトラマン、帰つてきてくれよ!」
        ジツと動かないウルトラマン。
41 宇宙 
        宇宙の彼方へ飛んで行く赤い玉とウルトラ
        マン。
        みるみる豆粒のように小さくなる。
        科特隊の隊員達の声がまだ聞こえるようだ。
        さようならウルトラマン!
        さようなら!
        さようなら!
                        (F・O)


映像に40のシーンはありません。また、41の赤い玉と飛んで行くのはゾフィの間違いでしょう。
混迷が感じられる2つの台本でした。
格斗の一連は、台本がほぼ役に立ってなくて、差し込み台本として手書きの青焼きコピーがはさんで配られたと思われます。でないと撮影出来ませんからね。それなのにそれが残っていないんですよ。

やはり愕くのは、初稿の、ウルトラマンのやられっぷりです。カラータイマーを潰されるウルトラマンの悲鳴は聞きたくないですよ。しかもゼットンに投げつけられたウルトラマンは屍です。
円谷英二のみならず、広告代理店やスポンサー、みんな面食らって反対したはずです。
反対に、急降下してくるゾフィの強さが目立ちます。ゼットンと大型円盤を粉砕します。

2稿はゼットンにやぶれるウルトラマンまで初稿と同じで、アキコの「あなたが死んでしまったら、地球はどうなるの」以下、映像分と同じ、岩本博士が胸から新兵器(ペンシル爆弾)を取り出して、アラシ、イデに託す。
<無重力弾>と言うのが正式なんですね。それでゼットン爆発、岩本「ムラマツ君、あれを見給え!」に続きます。
赤い玉が来て、ウルトラマンを容れて、倒れているウルトラマンにゾフィの声が語りかけます。

  声  「私はM87星雲の宇宙警備隊員ゾフイだ!。さあ、
      私と一緒に光りの国に帰ろう、ウルトラマン」 

金城さんは<87>と<78>をよく間違えますね。
あとはだいたい同じでした。

ただ、台本にない部分、ハヤタは不思議と感慨深い表情を見せるんですね。ぼくだけがそう感じるのか、演出の判断なのか。
同じような表情は、7話「バラージの青い石」でもそうでした。
ノアは宇宙人だったのか? と悠久の刻の彼方を思い、常軌を逸した偶然と必然に言葉を失う隊員たちの中にあっても、まるでハヤタ、全てを達観しているかのような、満足げな、納得した顔付きをするんです。
そしてここでも。

  ハヤタ「キヤツプ! あの赤い玉ですよ! 僕が竜が森
      で衝突して・・・衝突してどうなつたのかな?」

その後、すべてを理解した満足げなハヤタの表情に思えてなりません。
台本のト書きでは、

         ハヤタ、みんなの中で、未だ判然としない
         顔で立つている。

なんです。黒部さんの鷹揚な演技のせいだろうか。
いずれにしても、地球は人間が守っていかないといけないことで、大団円となります。