今からちょうど十年前の秋のおはなし。
その日の昼間、オイラは宮崎県のとある山中にある廃神社を目指して車を運転していた。
ここは峠道を登り切ると、辺り一面茶畑や、牧場の広がるのどかな土地だ。
茶畑を抜け切り、小さな小川が流れてる橋を渡って更に進むと幅500メートル程の竹林に突き当たるのだが、ここが終点だ。
その竹林は中央付近に一メートル程の獣道的な入り口があって、そこを二十メートルほど入ると辺り一面拓けた広場に出る。
廃神社とはいえ、自治体の人達がこまめに整備してるようで広場付近は綺麗に草刈りもされていた。
時刻は昼を少し過ぎた頃で、竹林の中心部といえども十分に明るい。
その広場を百メートルほど歩くと件の廃神社のお社が姿を現した。
神社と言っても、二メートル四方の小さな社があるだけで、表側は板で塞がれて中の様子を見ることは出来ないが、相当古そうな神社だった。
その後、神社の裏側を進んでみると、その先は崖になってて、眼下には水田が広がり、芝刈り機の音が長閑に鳴り響いていた。
「せっかくカメラ持ってきたのに撮る物なんにもねーな」
今考えると無礼な感情を持ちつつ、十分程の滞在時間を経てその場を後にした。
家に帰り着くとひとっ風呂浴びて、たちどころに眠りにつくが、その晩オイラは夢を見た。
夢の中でオイラは、昼間の行動をもう一度繰り返すかのごとく、廃神社を目指して車を運転している。
廃神社のある竹林に到着すると、車を降りてお社を目指して再び獣道を進む。
実際には昼間来たのだが、夢の中では夕方を過ぎて薄暗い。
お社まで来て、周囲を散策すると
「なんにもねーな帰ろう」
とばかりに、竹林の出口を目指して歩くのだが、ここで竹林の出口を向いて右側の竹林からガサゴソと怪しげな人が出てきた。
出てきたのは顔が傷だらけの三十代位の痩せさらばえた女で、俺を見るなり突然追いかけてきた!!
「うわーい!でたー!」
恐怖に駆られたオイラは、車めがけて猛ダッシュで走って車に乗り込んでドアを閉めて家路に就く。
家に着いて車庫入れを終えると、ヤレヤレだぜとばかりに玄関のドアを開けたら、お社で見かけた、顔が傷だらけの女が立っていた。
「ギャーッ!!!!」
と、びっくりしたところで飛び起きた。
恐ろしい夢を見たなァ、と思いながら時計を見ると深夜の二時半だった。
おしっこをしにトイレに行って、再び眠りにつく。
が、右腕の上腕部を誰かに優しく撫ぜられてバッと飛び起きて辺りを見回すが何もいない。
再び眠ろうとすると今度は左腕の上腕部を優しく撫ぜられてバッと飛び起きる!
無論辺りには誰もいない。
もう一度眠ろうとすると、今度は両腕を下からサーッと撫ぜられて恐怖のあまり
「ワーッ!」
と飛び起きると背後から
「フフフ♪」
と、女の笑い声が聞こえた。
あの廃神社で何か持って帰ってきたなと思いつつ
「絶対に後ろは振り返らんぞ!」
と一人、大声でブツブツ喋りながら部屋の電気を全てつけて、カーテンと窓を全開に開けた。
その後、早くどっか出ていってくれとばかりに、そのまま不貞寝した。
しばらくすると背後から両手の平を強く叩いたようなラップ音がして驚いたが、猛烈に眠かったのでそのまま眠りに着いて朝を迎えたのは言うまでもない。
それから五年程後。
この廃神社の近くに住む人と話す機会があって、この体験談を話したうえで顔が傷だらけの女の人について訊ねてみたのだが、この神社でとくに事件や事故の話は聞いたことがないとの事だった(脱糞)。
おちまい