デイヴィッド・ベニオフ「卵をめぐる祖父の戦争」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

2008年発表。
文庫1冊、469ページ
読んだ期間:4日


[あらすじ]
1942年。
ナチスドイツの長期間の包囲下にあるレニングラード。
17才のレフ・ベニオフはドイツ兵が落下傘で降下してきたのを見つけた。
そこにたどり着くとドイツ兵はすでに死んでいた。
友人たちと一緒にドイツ兵の持ち物を漁っているところを赤軍兵に見つかりレフ一人が捕まってしまう。
銃殺刑を覚悟したレフは、脱走兵として収監されていた20才のコーリャと共に秘密警察大佐グレチコの元に連れて行かれる。
グレチコは刑を免除する代わりにある任務を言い渡す。
「娘の結婚式が近々行われるが、ウェディングケーキを作るための卵がない。木曜日までに卵を1ダース持って来い。」
戦時下で今日食べるパンにも事欠くソ連で卵を1ダース?
しかも今日は土曜日。
期限まであと6日。
こんな事できるわけがないと思いながらレフとコーリャの卵を求めて当てのない旅が始まる…


著者と同じ職業と同じ姓を持った男が祖父から戦時中の話を聞くという導入から本書は始まります。

レフは詩人だった父親を秘密警察に連れ去られた経験を持つ少年で、特技はチェス(で童貞)。
コーリャは小説家を目指す話好きで下ネタ好きの脱走兵(経験者)。
900日に渡るナチスドイツのレニングラード包囲戦のさなかのすさんだ街中をくだらない任務のためにくだらない話をしながらある時は命がけで卵を探す二人組のとぼけた風情が何とも言えない味わいがあります。
これが本当に戦争中なのか?と疑問に思えるほど、二人の会話は間が抜けています。
しかし、その裏には想像を絶する惨事が横たわっています。

・食糧不足を補うため、人をさらい殺して食っている人喰い夫婦。
・本の製本に使われていたのりを溶かして棒に塗りつけた”図書館キャンディ”。
・鶏を他人から守るため鶏小屋に泊まり込み死んでしまった祖父の死体の横で、一匹だけ生き残った雄・鶏を守って餓死寸前の少年。
・ナチスドイツの戦車に立ち向かわせるため訓練された、背中に地雷をしょわされた犬たち。
・目の前で両親を殺されドイツ兵の慰みものにされていた14歳の少女は、逃げ出したところを捕まり生きたまま両足首をのこぎりで切断された。

こんな惨状を背景にしながら二人の道中は続きます。
そしてその目的は卵1ダース。
何とも皮肉な話です。
さらに、この物語はあくまでレフの回想なので、一人称が”わし”です。
この違和感が絶妙だったりします。
いかに戦争が不毛で無駄な行為かをこういう形で表現しているんでしょう。
ばかばかしさの中に虚無感を漂わせ、ラストに向けて少しの涙と微笑みを与えてくれる小説です。

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