荒俣宏「帝都幻談」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

2007年発表。
文庫2冊、994ページ
読んだ期間:7日


[あらすじ]
天保11年(1840年)。
開国派と攘夷派がしのぎを削る江戸で怪異な事件が続発する。
江戸の治安を預かる北町奉行、遠山左衛門尉景元はある事件をきっかけに国学者、平田篤胤と出会う。
幽冥界の探求を目指す平田篤胤は、江戸に不穏な陰謀が渦巻いている事に気づき、遠山景元と共に調査を開始。
すると、かつて大和民族に蹂躙された蝦夷の民の怨霊を操り、日本壊滅を狙う何者かの存在にたどり着く。
その名は講釈師、稲生武太夫。
そして平賀源内。
さらに謎の男、加藤重兵衛。
彼らは妖怪の木槌を使って蝦夷の怨霊の総大将、アテルイを呼び起こし江戸を、日本を壊滅させようとしていた。
平田篤胤と遠山景元らはこの陰謀を阻止する事が出来るか!


本書は、週刊文春で1997年に連載された原稿に大幅加筆したものが上巻、さらにその後の話を書き下ろしたものが下巻の2巻構成の単行本を、さらに最近文庫化されたものです。
ちなみにあらすじで書いた内容は上巻のもの。
下巻はそれから13年後の嘉永6年(1853年)からの話になります。
こちらでは世代がちょっと代わり、平田篤胤の娘婿で平田学派の総帥を継いだ鐵胤と娘のおちょう、そして田村幸四郎という武士が中心になります。

それにしても荒俣氏の史実を織り交ぜた作風は絶妙です。
上巻の遠山景元の金さん的な性格付けなんかはつい頬が緩みます。
桜吹雪の代わりにアブラサダブラの西洋呪文を背中に彫りぬいた金さんが、妖怪どもに背中を見せてすごむシーンなんかは最高。
一応1つの作品名が付いているものの、前述したとおり、連載は上巻までのため、2作品分の読み応えがあります。
上巻だけでも充分に1作品として読めるのでかなりお得な感じがします。

下巻ではさらに激しい戦いが展開。
実際の安政の大地震を取り込んでの大激戦が展開され、今までの帝都シリーズでも読んだ事が無いくらいの加藤の最後にお目にかかれます(まぁ、加藤は常に復活してくるんですけどね)。

本書には荒俣ワールドらしく歴史上の実際の人々が多く登場しますが、本作では今までに紹介した平田篤胤ら以外にも色々登場します。

平賀源内はこの戦いの原因の一端を担う闇の人間の一人として登場。
今までは「エレキテル」と「土用丑の日」を考案した酔狂人としか思ってなかったですが、殺人を犯して獄死したという話もあるそうで、今までの印象を覆されました。
水戸藩の藤田東湖も打倒加藤のため大活躍しますし、下巻で重要な時計製作に携わるのがからくり儀右衛門こと田中久重など。
こういったキャラ選択の面白さも帝都シリーズの人気の一つになっているんでしょうね。

本書の後には既に文庫化されていた「新帝都物語 維新国生み篇」があり、ここでは再度復活した加藤を平田鐵胤・おちょう夫妻と
田村幸四郎・土方歳三らが迎え撃つというもの。
「帝都幻談」では時間を扱ってましたが、「新帝都物語」では尺を扱ってます。
前者は物語的な面白さが中心で、後者は尺に関する技術的、科学的、歴史的講釈が中心と言う印象。
なので、読む人によって面白さの捉え方は違うと思います。
(とは言え「帝都幻談」でも非常に練った歴史解釈や時間を使ったからくりなど講釈部分もかなりあります)

両方に通じているのが平田篤胤・織瀬夫妻、平田鐵胤・おちょう夫妻の二組の夫婦愛の深さ。
夫も妻もお互いを尊重にお互いを気遣いお互いを愛するその姿勢は夫婦の理想形かなぁと思います。
こういう愛情物語も本シリーズには流れているわけですね。

あと、本書では妖怪が出てくる話だからか、妖怪と言えばこの人=水木しげる氏がイラストを書いてます。
荒俣氏も水木氏とのつながりが深いのでその流れもあるんでしょうが、本シリーズのイメージとしてはどうかなぁ。
たとえばあの加藤がどう描かれているかと言うと…
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この真ん中の可愛いのが加藤です。
さすがにちょっと違うだろう、と言う気がしますけどねぇ。


とは言え、本書は物語としては大変面白いですし、上下巻で2作品分のボリュームがあってお買い得です。
昔、「帝都物語」に嵌った事のある人は読んで損しない作品だと思います。
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