キム・ニューマン「ドラキュラ崩御」 | アルバレスのブログ

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最近はガンプラとかをちょこちょこ作ってます。ヘタなりに(^^)

1998年発表。
文庫1冊、540ページ
読んだ期間:4日


[あらすじ]
第一次大戦でドイツを率いて世界を戦乱に巻き込んだドラキュラが表舞台から姿を消してから40年を経た1959年、突如としてドラキュラは再び姿をあらわす。
長命者でありモルダヴィア公女であるアーサ・ヴァイダとの婚約が発表されたのだ。
世紀の結婚式に向けて浮かれ騒ぐローマへ降り立ったケイト・リードは、途中知り合った長命者のケルナッシ伯爵とマレンカが目の前で惨殺される事件に遭遇する。
ここローマでは「深紅の処刑人」という長命者のみを標的とした怪人による殺人事件が横行していた。
常にドラキュラの動向を探りつつけていたボウルガードとジュヌヴィエーヴもローマに住みドラキュラを監視していた。
ボウルガードは不死者への転化を拒み続け、今まさに死を迎えようとしていた。
ボウルガードの後、ディオゲネス・クラブの中心人物となったエドウィン・ウィンスロップはドラキュラの動向を探るためヘイミッシュ・ボンド中佐を送り込む。
それに呼応するかのようにソ連の防諜組織スメルシュが動き出す。
世界中の注目が集まるローマでいったい何が始まろうとしているのか。
ドラキュラ、ボウルガード、ジュヌヴィエーヴはどうなるのか。
そして謎の存在、「涙の母」とはいったい何者なのか?


キム・ニューマンの「ドラキュラ」シリーズ第3弾。
原題は"Judgement of Tears"、邦題で"崩御"と使ってしまっているので完全にネタバレしていますが、まさにドラキュラが真の死を迎えるのが本書。
(シリーズ名の原題は"Anno Dracula"(ドラキュラ紀元)ですがGoogleで翻訳すると"安野ドラキュラ"となるのでモヨコっぽい感じに)

「~紀元」では吸血鬼をテーマにした小説・映画を、「~戦記」では戦争物の小説・映画を、そして本作「~崩御」は映画界を舞台にした作りになっています。
華やかでありながらドロドロした怪しさと虚飾の集合体のような映画界の裏側と、不死者とそれを狩る者との対決、ボンドとスメルシュの死闘、ボウルガード・ジュヌヴィエーヴ・ケイト・ペネロピの4角関係の行方とドラキュラの死を絡ませながら、複雑怪奇な物語が進行していきます。
そこに更に吸血鬼以外のアンデッドとしてのゾンビ軍団やローマに太古から君臨する闇の存在「涙の母」が加わって重層的な物語が展開します。
今回のテーマは映画全般に広まっているので特に50~70年代の映画の幅広い知識がないと元ネタが分からない事が多いですが、今回もちゃんと巻末には50ページを超える人物辞典がありますので、それで何とか補いましょう。
巻末の解説では第4作が執筆中との情報がありますが、その後の状況はよく分かりません。
邦訳はこの3作目でとまってます。
絶版のため、古本でしか入手できず。

では、ここからは主な登場人物の出自と本書との役割を簡単に紹介いたします。
(若干ネタバレあり)




[吸血鬼]

アダムス一家
アメリカの妖怪コメディ。夫はゴメス、妻はモーティシア。テレビドラマ、マニメを経て1991年には映画化。
映画は2作まで作られた後、主役のゴメス役のラウル・ジュリアは54歳で急逝。
ウェンズデー役のクリスティーナ・リッチはこの映画で大ブレイクを果たし今に至る。

アーサ・ヴァイダ
マリオ・バーヴァ監督「血ぬられた墓標」に登場するヴァンパイア。
ドラキュラとの結婚を目前に控えドラキュラが殺された事により精神に異常を来たす。

ケイト・リード
元ネタはブラム・ストーカーが小説「吸血鬼ドラキュラ」用に用意しボツになったキャラ。
シリーズ全作に登場するジャーナリストで、ドラキュラ殺害の真相を探るためジュヌヴィエーヴやペネロピと行動を共にする。

ペネロピ・チャーチウォード
シリーズ全作に登場する元ボウルガードの婚約者。
ドラキュラの侍女としてアーサとの婚約全般を取り仕切る。
前2作に比べ今回は非常に重要な役回りを演じる事に。

グレゴール・ブラストフ
小説家チャールズ・グランドの著作に登場するヴァンパイア。
ソ連の情報部幹部で対防諜部隊スメルシュの責任者。
部下に刃の着いたハットを武器にする平頭がいる。
自身は普段、猫に変化しておりダミーの人間のひざでくつろいでいる。

ヘイミッシュ・ボンド
イアン・フレミング原作の「007シリーズ」の主人公。
ヘイミッシュはジェイムズのスコットランド読みだとか。
愛車アストン・マーチンを駆りドラキュラの動向と「深紅の処刑人」の謎を探る。
女たらしで自信家で派手好きで冷酷な性格。
原作や映画よりは危機に陥り助けられる事しばしば。

ドラキュラ
ブラム・ストーカー著「吸血鬼ドラキュラ」の主人公。映画化多数。
40年間の雌伏から急に表舞台に登場。
一回もセリフがない上にほとんど登場すらしないながら異常な存在感をかもし出すが、物語中盤であっさり死亡する。

[人間]

チャールズ・ボウルガード
シリーズ全作に登場する主役。
本作では105歳。
ジュヌヴィエーヴからの影響もあり普通の人間よりは長命だが確実に死に向かっている。
そんな状態でありながらもドラキュラの監視を続け、ボンドに協力する。
本作の半ばで死亡する。

エドウィン・ウィンスロップ
前作から登場。
ボウルガードの後を引き継ぎディオゲネス・クラブの責任者としてドラキュラ動静を探るためボンドを派遣する。

ハーバート・ウェスト
H.P.ラヴクラフト著「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」の主人公。
1985年にスチュアート・ゴードン監督で映画化(「ZOMBIO(ゾンバイオ)/死霊のしたたり」)。
プレトリアス博士と共にドラキュラの検死を行う。

セプティマス・プレトリアス博士
ジェイムズ・ホェール監督「フランケンシュタインの花嫁」に登場するマッドサイエンティスト。
ウェストと共にドラキュラの検死を行う。

オーソン・ウェルズ
実際の映画監督・俳優。
ドラキュラの婚約記念パーティに参加し、ドラキュラ殺害を目撃。
ケイトやジュヌヴィエーヴにドラキュラ殺害犯のヒントを与える。

アンドレイ・グロムイコ
実際のソ連の政治家。フルシチョフからアンドロポフ時代まで外務大臣を務めた。
歴史の暗部に触れるドラキュラの遺産である蔵書の管理の協議のためローマにやってくる。

シルヴェストリ警部
マリオ・バーヴァ監督「モデル連続殺人!」の登場人物。
「深紅の処刑人」捜査にあたる。

ジンゴ巡査部長
マリオ・バーヴァ監督「黄金の眼」の登場人物。
シルヴェストリ警部の部下として「深紅の処刑人」捜査にあたる。

シャルル・ド・ゴール
実際のフランス初代大統領。
グロムイコと同じくドラキュラの蔵書管理の協議のためローマにやってくる。

トム
パトリシア・ハイスミス著「太陽がいっぱい」で富裕な友人を殺害し彼に成りすます男。
1960年ルネ・クレマン監督により映画化。主役のトムはアラン・ドロンが演じた。
ペネロピに取り入り長命者たちが持っている財産を狙っている。

マルチェロ
フェデリコ・フェリーニ監督「甘い生活」の主人公。演じるはマルチェロ・マストロヤンニ。
イタリアのフリー・ジャーナリストとしてケイトと知り合い、恋仲に。
「深紅の処刑人」の謎に共に挑むが、その裏には色々な事情が。

ランカスター・メリン神父
ウィリアム・ピーター・ブラッティ著「エクソシスト」に登場するエクソシスト。
1973年ウィリアム・フリードキン監督により映画化。マックス・フォン・シドーが演じた。
「深紅の処刑人」と「涙の母」について、ケイトとジュヌヴィエーヴに情報を与える。

[その他]

深紅の処刑人
マッシモ・ピュピロ監督「惨殺の古城」に登場する殺人鬼。
ローマに滞在する長命者のみを狙う謎の殺吸鬼。
「涙の母」に操られている。

涙の母
トマス・ド・クィンシー著「深き淵よりの嘆息」に登場する3人の魔女の一人。
それを元にダリオ・アルジェントは「サスペリア」「インフェルノ」「サスペリア・テルザ最後の魔女」を撮影。
「涙の母」は「サスペリア・テルザ最後の魔女」に登場。
少女、若い女、占い師、老女の4つの姿をとる。
太古の昔からローマに棲みつき、ローマに現れる長命者の存在を疎ましく思っている。

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