型式:E-993RS
エンジン:空冷水平対向6気筒SOHC12バルブ
総排気量:3,745cc
ボア×ストローク:102.0mm×76.4mm
圧縮比:11.3対1
サスペンション:
Fマクファーソンストラット・タイプ・アクスル+コイル
Rマルチリンク・サスペンション LSAシステム式
ブレーキ形式:
Fベンチレーテッドディスク
Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:
F225/40ZR18
R265/35ZR18
トランスミッション: 6MT
ボディサイズ:
L4,245×W1,730×H1,270mm
ホイールベース:2,270mm
トレッド:F1,410/1,455mm
車重:1,320kg
1990年代中頃、ポルシェは自動車業界の激しい競争の中で自社のアイデンティティを強化し、新たな技術革新とともに伝統を維持するために努力していた。ポルシェ911シリーズは、1964年の初登場以来、スポーツカーの象徴としてその地位を確立していたが、特に空冷エンジン搭載モデルはその性能と独特のエンジンサウンドで多くのファンを魅了してきた。しかし、1990年代に入り、厳格化する排出ガス規制と市場の要求に応じて、水冷エンジンへの移行が不可避となった。
このような背景の中、ポルシェは空冷エンジンの集大成として、993型911を開発した。993型は、前モデルの964型をベースにしつつ、設計と技術面での大幅な改良が施されていた。その中でも特に注目すべきは、911 Carrera RSとその派生モデルである911 Carrera RS CSである。これらのモデルは、ポルシェのエンジニアリングとモータースポーツの経験を凝縮した一台として誕生した。
1990年代は、自動車産業において技術革新と環境規制が大きなテーマとなっていた時代である。特にヨーロッパでは、厳しい排出ガス規制が導入され、自動車メーカーはこれに対応するための新技術の開発を急いでいた。また、この時期は経済のグローバル化が進展し、各メーカーは国際市場での競争力を強化する必要に迫られていた。
ポルシェにとっても例外ではなく、特にアメリカ市場における販売を重視し、品質と性能を両立させるための取り組みが求められた。その中で、911 Carrera RSとRS CSは、ブランドのイメージを高めるためのフラッグシップモデルとして位置づけられた。これらのモデルは、サーキットでのパフォーマンスを重視しながらも、ポルシェの伝統的な設計哲学を反映していた。
911 Carrera RS（993）の開発は、ポルシェのエンジニアリングチームにとって非常にチャレンジングなプロジェクトであった。目標は、空冷エンジンの持つ特性を最大限に活かしつつ、可能な限り車両を軽量化し、サーキットでのパフォーマンスを極限まで高めることであった。
まず、車両の軽量化について説明しよう。911 Carrera RSは、標準モデルの993型911に比べて大幅に軽量化されている。これは、アルミニウムやマグネシウムを多用することで実現された。また、エアコン、オーディオシステム、リアシートといった快適装備を取り除き、さらなる軽量化を図った。これにより、車両重量は約1370kgに抑えられている。
次に、エンジンについてだ。911 Carrera RSには3.8リッターの自然吸気フラット6エンジンが搭載されている。このエンジンは、標準モデルの3.6リッターエンジンをベースにしつつ、より高い圧縮比と改良された吸排気システムを備えている。これにより、300馬力の出力を実現し、0-100km/h加速はわずか5秒で達成する。また、トランスミッションは6速マニュアルを採用し、ドライバーにダイレクトな操作感を提供する。
サスペンションシステムも特別に調整されている。前後ともにダブルウィッシュボーン式のサスペンションを採用し、高速走行時の安定性とコーナリング性能を大幅に向上させている。また、軽量アルミホイールと高性能タイヤを装備し、優れたグリップ力を発揮する。
一方、911 Carrera RS CSは、911 Carrera RSの更なる進化版として開発された。このモデルは、よりサーキット志向の仕様が施され、車両重量はさらに軽量化されて約1250kgとなっている。これを実現するために、ロールケージ、消火器、バケットシートなどのレーシング装備が追加されている。また、ABSやエアバッグ、エアコンなどの快適装備は完全に取り除かれている。これにより、車両の軽量化とともに、ドライバーの操作感をダイレクトに伝えることが可能となっている。
ポルシェ 911 Carrera RS（993）は、その性能において他の追随を許さない存在である。まず、3.8リッターの自然吸気フラット6エンジンは、300馬力を発揮し、最大トルクは355Nmに達する。このエンジンは、ポルシェのレーシングエンジン技術を応用して開発され、高回転域でのパワーデリバリーが非常にスムーズである。また、軽量化された車体と相まって、0-100km/h加速はわずか5秒で達成される。
サスペンションは前後ともにダブルウィッシュボーン式で、高速走行時の安定性とコーナリング性能が大幅に向上している。特に、コーナリング時の挙動は非常に安定しており、ドライバーに自信を与える。また、軽量アルミホイールと高性能タイヤを装備し、優れたグリップ力を発揮する。ブレーキシステムも強化されており、高速域からの制動力が一段と向上している。
インテリアは、シンプルながらも機能的なデザインが特徴である。カーボンファイバーのディテールやアルカンターラの内装が高級感を演出している。ドライバーのための純粋なスポーツカーとして設計されているため、余分な装備は一切排除されている。この潔さが、911 Carrera RSの魅力の一つである。
一方、911 Carrera RS CSは、よりサーキット志向の仕様が施されている。エンジンは911 Carrera RSと同様の3.8リッター自然吸気フラット6を搭載しているが、さらにチューニングが施されている。これにより、よりスムーズな加速と高回転域での安定性が向上している。トランスミッションも6速マニュアルで、クロスレシオが採用され、ギアチェンジの頻度が高く、よりダイナミックなドライビングを楽しむことができる。
サスペンションはさらに硬めの設定が施されており、コーナリング性能が大幅に向上している。フロントには強化スタビライザーが追加され、リアには調整可能なスプリングとダンパーが装備されている。このため、サーキット走行時においても安定したハンドリングを実現している。また、ブレーキシステムも強化されており、高速域からの制動力が一段と向上している。
エクステリアにおいても、911 Carrera RS CSは独自の特徴を持っている。大型のリアウィングやフロントリップスポイラーが装備され、エアロダイナミクス性能が向上している。これにより、高速走行時のダウンフォースが増加し、安定性が向上している。さらに、軽量化のためにポリカーボネート製のウィンドウが使用されている点も見逃せない。
ポルシェ 911 Carrera RS（993）と911 Carrera RS CS（993）は、それぞれが独自の魅力と性能を持つモデルである。両者は共に軽量化と高性能を追求したスポーツカーでありながら、その性格には微妙な違いがある。911 Carrera RSは、日常のドライビングとサーキット走行をバランスよく楽しむことができる一方で、911 Carrera RS CSはよりピュアなレーシング体験を提供するために特化されている。
911 Carrera RSは、その軽量化された車体と高性能エンジンにより、驚異的なパフォーマンスを発揮する。空冷エンジン特有のサウンドとレスポンスは、ドライバーにとって格別な体験であり、ポルシェの伝統を感じさせる。また、そのシンプルで機能的なデザインは、余計な装備を排除し、純粋なドライビングの喜びを提供する。
一方、911 Carrera RS CSは、さらなる軽量化とレーシング装備により、サーキットでのパフォーマンスを極限まで高めている。これにより、レーシングカーに匹敵するドライビング体験を提供し、エンスージアストたちの心を掴んで離さない。大型のリアウィングやフロントリップスポイラー、軽量ポリカーボネート製ウィンドウなど、細部にわたる改良が施され、エアロダイナミクス性能が向上している。
これらのモデルは、ポルシェのエンジニアリングとモータースポーツの経験を凝縮した一台として、今なお多くのファンを魅了し続けている。ポルシェ 911 Carrera RS（993）と911 Carrera RS CS（993）は、空冷ポルシェの最終形態として、その存在価値を高めているのである。ポルシェの伝統と革新が融合したこれらのモデルは、自動車史において特別な位置を占めており、これからも多くの人々に愛され続けることだろう。