回顧録ーMemoirs of the 1980sー -9ページ目

回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

本編では書かなかったことが、
まだどこかに散らばったまま残っている。

若い頃の話もあれば、
中年になってからの出来事もある。
笑える日もあれば、
胸の奥が少し痛む夜もある。
時系列も関係なく、
ジャンルも統一されていない。
ただ、そのどれもが
“俺の人生のどこかに確かにあった時間”だ。
ここには、
こぼれ落ちた断片たちを
気ままに拾い集めた記録を残していく。

 

ピノコに描かれた夜

 

SNSで知り合ったピノコは、美大に通う女子大生だった。
絵が上手くて、どこか不思議な雰囲気をまとっている。
その軽やかさと距離感が、45歳のおじさんたちにはまぶしかった。


ライブ前、ピノコが言った。


「描きますよ」


その一言で、俺・アッキョ・タケシの3人はなぜか浮き足立った。
まるで文化祭前日の高校生みたいに。

 



✦ ライブハウス前の儀式
ピノコがライブハウス前でペイントを始める。
順番はアッキョ → 俺 → タケシ。


アッキョは腕を差し出しながら、
にやけ顔でピノコを凝視している。
その目はまるで獲物を狙うハンター。
でも、照れが隠しきれない。
ピノコの筆が肌に触れるたび、
アッキョの肩がわずかに震えていた。

 


次は俺。
ピノコが描き終えると、ツーショット写真。
俺の顔は満面の笑み。
45歳の男が、若い美大生の横で少年の顔になっている。
目尻が下がりきって、口角が勝手に上がっている。
その笑顔は、もう理屈じゃない。

 


最後はタケシ。
ピノコの横で同じく満面の笑み。
ただし、鼻の穴が全力で膨らんでいる。
普段の渋さはどこへ行ったのか。
その顔は、完全に“鼻の穴の主張”でできていた。

 

 

✦ 写真が残った
3人の“素の顔”が写真に残った。
ピノコの顔はぼかしてあるけれど、
おじさんたちは顔出し100%。
恥ずかしいけれど、隠すほどのものでもない。
むしろ、あの恥ずかしい写真こそが
俺たちの“第二の青春”の証拠だ。

✦ そして今
60歳になった今、
その写真を見返すたびに笑ってしまう。
「恥ずかしいな(笑)」
そう言いながらも、どこか誇らしい。
あの夜の空気、ピノコの筆の感触、
アッキョのにやけ顔、タケシの鼻の穴、
そして俺の満面の笑み。
全部が、
あの頃の俺たちの“生きてる証”みたいに思える。