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回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

フクちゃんという男がいる。
喧嘩じゃ無敵の武闘派なのに、普段は温和で憎めない不思議な奴だ。
中学から一人暮らし、ボロアパート、競輪挑戦、ボクサー志望、挫折、そして国際結婚——
転がる石みたいに生きてきたフクちゃんの、笑えてちょっと切ない物語である。

 

喧嘩でハイキックをかましたら、足の甲に相手の前歯が突き刺さって大出血——
そんな高校時代のエピソードからも分かる通り、フクちゃんは好戦的な武闘派だった。
中学時代から「喧嘩上等」の暴れん坊だったらしいけど、

普段はそんな素振りをまったく見せない温和で憎めない奴。


エーイチ繋がりで一時期よく遊んだけど、なかなか面白い男だった。
家庭環境の事情は知らないけど、フクちゃんは中学の頃からアパートで一人暮らししていた。
俺がエーイチに連れられて初めてそのアパートを訪れたのは高校1年の時だった。


外観からしてボロボロの平屋。共用玄関には薄汚れた靴やサンダルが散乱し、

すぐ横の炊事場には真っ黒こげの鍋とフライパンが無造作に置かれていた。
建物の真ん中に廊下があり、両脇に3部屋ずつ並ぶ超・激安・ぶしんな空間。
こんな場所に足を踏み入れるのは初めてで、どこかワクワクした。


「へー、こんな汚ねぇとこ住んでる奴いるんだな」


なんて口を滑らせたら、エーイチにすかさず怒られた。


「馬鹿、聞こえたら殺されっぞ」
「バタバタ歩くと怒鳴ってくる奴がいるから、そーっと歩けよ」


と言われたが、いくらそーっと歩いても廊下はギシギシ、ガタガタ鳴る。どうにもならねぇ。


左手の真ん中がフクちゃんの部屋だった。入口は木製の片引き戸……ってか、ほぼ障子。
戸車なんて付いてないし、鍵すらない。

そっと開けると、日焼けしたぶかぶかのボロ畳、4畳半の一間。
フクちゃんの姿は無く、エーイチは「おっ、ラッキー」と言って、
エロ本が散乱し、床にはチン毛が舞う薄汚い部屋の中を物色し始めた。


「おお、これ借りていくべ」


とローリング・ストーンズのアルバムを手に取り、部屋を後にした。
もちろん借用書も置き手紙もない。空き巣と同じだな。
さて、フクちゃんにまつわるエピソードは数え切れないほどあるが、話は一気に飛ぶ。

 

高校卒業後、親だか親戚だかのコネで無事に就職。
会社の軽ワゴンを勝手に乗り回して、よくドライブに連れて行ってくれた。


20歳の頃、同級生のナカザトくんが競輪選手としてデビューし、

金回りが良くなったのに感化されたフクちゃん。
「俺もやるぜ」と退職し、競輪選手を目指す。
地元の競輪選手に師事しトレーニングを開始するも、

1年後の競輪学校入試は予想通り不合格。そして挫折。


さらにその1年後、今度はプロボクサーを目指す。
中学・高校時代の暴れん坊経験を活かすつもりだったが、これも1年程度で挫折。


志は立派だったが、転がる石のごとく再びチンケなサラリーマンに身を落とす。


そして数年後——
通い詰めたフィリピンパブの女性との間に子を授かり、国際結婚。
お幸せに。


フクちゃん、今頃どうしてるかなぁ…。

 

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