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回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

たいしたことじゃない日々の話。

 でも、あとで思い出すと妙に残ってる。

 そんな断片を、気の向くままに。

 

アギヒコ、旅の者になる

 

アギヒコのクレスタは、
盗難の悲劇を乗り越え、
保険金で“控えめ改造”として復活した。


控えめと言っても、
一般人から見れば十分に怪しい車だ。
だがアギヒコにとっては
「今回は大人仕様です」
らしい。


そんなある日、俺とアギヒコは
地方工場へ出張することになった。
もちろん運転はアギヒコ。
理由は簡単、
違法改造車を俺が運転したら捕まる。

 

ところが高速を走行中に問題が生じた。
運転席側の窓が下がらない。
当時はETCなんてない時代。
料金所では窓を開けて料金を払う必要がある。


「どうすんだよ、これ」
「アキオさん、後ろ乗ってくださいよ」


仕方なく俺は後部座席に乗り込み、
料金所に近づくと──
運転席の窓はピクリとも動かない。
そして突然、
後部座席の窓だけがスーッと下がる。


料金所の係員は一瞬固まった。
フルスモークの怪しい車が近づいてきて、
運転席の窓は開かない。
そして後部座席の窓が下がり、
そこからふんぞり返った俺が顔を出す。


係員は完全にビビっていた。
俺は静かに料金を払い、
窓を閉めた。
アギヒコは運転しながらニヤニヤしていた。

 

出張先に着く前に、
アギヒコはどうしても窓を直したかったらしい。
トヨタの整備工場に駆け込むと、
整備士が車を見るなり言った。


「違法改造車は整備できません。
やるならスモーク剥がします」


アギヒコは即座に拒絶し、
去り際にこう言い放った。


「旅の者に情けのひとつもかけられねぇのかよ、トヨタさんよ」


完全に筋違いだが、
妙に説得力があるのがアギヒコの恐ろしいところだ。

 

仕事の合間、アギヒコは窓をいじり始めた。
すると今度は逆に、
下がりっぱなしで上がらなくなる。


「アキオさん、ちょっとテープ借りてきます」


工場の備品置き場から
両面テープや養生テープを勝手に持ち出し、
窓を無理やり上げた状態で固定した。


問題はその後だ。
アギヒコはテープのかすや剥離紙を
車の周りに散らかしたまま仕事に戻っていった。


数時間後、車に戻ると──
異変が起きていた。
散らかしたテープのかすやゴミが、
マフラーにぎっしり詰め込まれていた。


地方工場の連中、
なかなかやるじゃん、と思った。


アギヒコはしばらく無言でマフラーを見つめ、
そのあと小さく笑った。


「いやぁ、旅の者には厳しい土地でしたねぇ、アキオさん」


その顔が妙に楽しそうで、
俺はもう何も言えなかった。