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回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

術後のエーイチが、ついに“スタンディング”に戻ってきた夜。
俺たち4人組が、久々にルート14に集結した夜。
そして、HGオヤジとすっぽんぽんのエーイチがステージを乗っ取った夜。
若い連中を圧倒し、ライブハウスの空気を完全に“俺たちの夜”に染めた。
これは、俺たちの第二の青春が一番強く輝いた、最後の打ち上げ花火の話だ。

 

術後、まだ本調子には程遠いエーイチが誘ってくるのは、
本千葉ジャムでの瘋癲野郎の“椅子ライブ”だけだった。
まだスタンディングはしんどかったのだろう。


ジャムの着席ライブで、
少しずつビールにも慣れていって、
ようやく“ライブの空気”を取り戻しつつあった。


そしてある日、
ついにエーイチが言った。


「ルート14、行ってみっか」


その一言で、
俺とタケシの誘いに、
ようやっと乗る気になったのだとわかった。


あの夜、エーイチは
術後初めて“スタンディングの激しいライブ”に帰ってきた。

その日のライブのトリは、タケシお気に入りのハイルチン。
俺のお気に入り、マリゴ率いるクレイジーカメレオン。
そしてなぜかアッキョが妙に気に入っていたイギリス人。
まさにオールスター勢ぞろいの夜だった。


高校時代以来、初めて“4人組”でルート14に登場した俺たち。
若い連中の視線が突き刺さる。
「なんだこのオッサンら」って思われてたはずだ。

 

でも、その夜の俺たちは無敵だった。
45歳のオッサン4人が、
若い奴らを圧倒するような妙なオーラをまとっていた。

ライブが始まり、しばらくするとエーイチが耳打ちしてきた。


「今、とびっきりのゲストから電話あってさ。本八幡に着いたって。迎えに行ってくる」


なんのこっちゃ?と思っていたところで、
その“とびっきりのゲスト”が登場した。


ライブ中に扉が開き、
客もバンドも一瞬そっちを向く。


そこに立っていたのは──
小太りのHGコスチュームを身にまとったオッサン。
そして、その横には異様なオーラをまとったエーイチ。


HGオヤジは周囲の視線など気にせず、
「ハードゲイ、フー!」
と喚き散らしながらステージ中央に躍り出た。


激しく踊り狂うHGオヤジに、客席もステージも拍手喝采。
爆盛り上がり。
完全にピエロ。
でも最高のピエロ。
「あれ誰だよ」とエーイチに聞くと、


「覚えてるだろ。幕張の切符切りだよ」
「なんだって……スガネさんかよ」


マジかーーーー。

 

正体を知った瞬間、俺もタケシもアッキョも腹を抱えて大爆笑。
ハッスルしすぎて疲れたスガネさんが後方に下がってきたところへ、
俺たちは駆け寄り、ただただ爆笑するしかなかった。

そして、スガネHGに勢いづけられた俺とアッキョは、
そのままステージからダイブを敢行した。
45歳のオッサン2人が同時に飛び込む暴挙。
若い連中も一瞬ひるんだが、
気づけばみんなで受け止めてくれていた。


タケシはタケシで、いつものように先輩風を吹かせ、
若い連中の肩を組んで暴れまくっている。
完全に“俺がこの界隈の長兄だ”という顔だ。


気づけば俺たち4人は、
ライブハウスの空気を完全に乗っ取っていた。

そして極めつけだ。


それまで会場の後方でじっとライブを見ていたエーイチが、
ふいに立ち上がって言った。


「そろそろ俺も暴れておくか」


何をするのかと思ったら──
おもむろにズボンを脱ぎ、
パンツを脱ぎ、
下半身スッポンポンのまま
ステージ前へ歩き出した。

 

その瞬間、若い連中が左右に避けていく。
まるでモーゼの海割り。
エーイチを中心に、きれいに道ができていく。


もう笑うしかない。
「暴れておくか」が“すっぽんぽん”って、
それ正解なのかよ。
ぎゃははは。

そしてステージのリューイチも負けていなかった。


HGオヤジをステージに引っ張り上げ、
その勢いでエーイチまでステージに上げてしまう。


客席は爆笑と歓声でぐちゃぐちゃ。
ステージも客席も、境界が完全に溶けていた。


リューイチのシャウトに合わせて、
HGオヤジは踊り狂い、
エーイチはすっぽんぽんで腕を振り上げ、
観客たちの興奮はピークに達した。
あの瞬間、
ルート14の空気は完全に“俺たちの夜”になっていた。

ライブが終わる頃には、
俺たち4人とスガネHGの“オッサン5人”は完全に電池切れだった。


会場の後方にへたり込み、
汗だくで息を切らしながら、
ただ笑うしかなかった。


「なんだよ今日……最高じゃねぇか」

 

その夜の様子をSNSに写真付きでアップしたら、
しばらくしてリューイチからコメントがついた。

「先輩たちすごすぎ、面白すぎ、いやー楽しかったです」

ああ、やっぱりそうだったんだ。
あの夜は俺たちだけじゃなく、
ステージ側にとっても“伝説の夜”だった。


エーイチが術後初めてスタンディングに戻ってきた夜。
4人組が最後にひとつになった夜。
そして、俺たちの“第二の青春”が
一番強く輝いた夜。


あれが、
俺たち4人組の最後の打ち上げ花火だった。

 

▼ハイルチンってこんな連中(当日のものではありません)

 

▼スガネHGオヤジ登場 2010.12.5 撮影

 

▼下半身すっぽんぽんで暴れるエーイチ

 

▼先輩風吹かすタケシ

 

▼ライブ終了後、満足げなスガネHGとタケシ