残像シリーズの最後に、ひとつだけ“俺がいなかった残像”を書いておきたい。
1990年、後楽園のストーンズ公演。
アッキョとエーイチが起こした、嘘みたいな本当の大事件。
あの夜の話を、エーイチは酒を呑むたびに嬉しそうに語った。
入院する前の最後の飲み会でも、目を輝かせて話していた。
これは、あいつの中に最後まで残っていた“残像”だ。
1990年、ローリング・ストーンズの後楽園公演。
俺は当時のパートナーと一緒だったので、エーイチやアッキョとは別行動だった。
席は俺もあいつらも一番後ろの方。
ステージなんて豆粒みたいにしか見えない。
ところが──
どうしても前に行きたいアッキョが、ここで大胆な行動に出たらしい。
エーイチの話によると、アッキョは突然エーイチを引っ張って、
前方エリアとのゲートに向かったという。
そして警備員に向かって、堂々とこう言ったらしい。
「VIP席にいるコカ・コーラの○○部長から緊急の呼び出しだ。
ちょっと通らせてくれ」
……いやいや、そんな大嘘、通るわけねぇだろ。
さすがのエーイチもそう思ったらしい。
ところがだ。
アッキョの“業界人っぽい風体”、
あの目力、
そして妙にリアルな演技力に、
警備員がたじろいだ。
結果──通してしまった。
これで味をしめたアッキョは、
同じ手を何度も繰り返し、
次々とゲートを突破。
ついには、
最前列に到達した。
画像はイメージです
ここからはエーイチの語りが毎回すごかった。
目の前にミック・ジャガー。
手を伸ばせば届きそうな距離にキース・リチャーズ。
ロン・ウッドのギターの弦の震えまで見える。
チャーリー・ワッツの表情まで肉眼でわかる。
豆粒だったステージが、
突然“生きた怪物”みたいに目の前に現れた。
エーイチはもう大興奮。
昇天したって言ってた。
そんなエーイチを横目に、
アッキョは何食わぬ顔でVIPの連中に
「どうもどうも」
みたいに一言二言声をかけて回っていたらしい。
すげークール。
というか、あきれてものも言えない。
エーイチはその瞬間、
アッキョの恐ろしさというか、
“実力”にひれ伏すしかなかったと言っていた。
そしてこの話──
エーイチは酒を呑むと必ず語った。
入院する前の最後の飲み会でも、
目を輝かせてこの話をしていた。
あの夜は、
あいつにとって一生ものの“残像”だったんだと思う。
画像はイメージです
エーイチは酒を呑むと必ずこの話をした。
入院前の最後の夜も、あの時と同じ声で笑っていた。
その笑い声が、今でも耳の奥に残っている。
残像の物語はここでいったん終わる。
だが、あいつの現在は──この先に続いていく。

