エーイチの背中を夜の闇に見送ったあの夜、
胸の奥にぽっかりと穴が空いたようで、どうにも眠れなかった。
灯りを消して目を閉じると、
静かな暗闇の向こうから、遠い昔の気配がゆっくりと立ち上がってきた。
20年前の笑い声。
若さの匂い。
あの頃の俺たちの、どうしようもなく眩しい時間。
忘れていたはずの光景が、
ひとつ、またひとつと浮かび上がってくる。
最初に蘇ったのは、
エーイチに誘われて観に行った、あのクララサーカスの夜だった。
エーイチからの誘いの電話はいつも突然だ。
「明日、空いてるか」
「空いてるよ」
「じゃ7時に本八幡で待ってるから」
それだけ言ったらガチャンなんだよな。
どこに行くのか、何をしに行くのか、いつもわからない。
本八幡駅に着くと、エーイチは改札口前でしゃがんでビールを吞んでいた。
「これ、呑んじゃって」って俺にビールを差し出す。
ビールを呑み終えると「じゃ、行こうか」って歩き出す。
画像はイメージです(あくまでもイメージだからwww)
到着したのはルート14ってライブハウスだった。
店に入ると、そこには懐かしい顔があった。
クララサーカスのユミルだ。
「あっ、アキオ君だ、来てくれてありがとう」
もう会ったのは5年ぶりぐらいなのに、
顔も名前も憶えていてくれて、ちょっと嬉しかった。
クララサーカスのことは噂には聞いていたんだけど、
実際の音を聴くのは初めてでワクワク、ドキドキだった。
ステージライトを浴びてメンバーがステージに現れる。
ボーカルとバイオリンとキーボードだけ、3人のシンプルな構成だ。
ユミルは小っこくて、痩せっぽちで、大人しそうな女の子なんだけど、
歌い始めると狂気と恍惚というのか、豹変してしまうんだ。
バイオリンの落ち着いたイントロから始まって、
突然、キンキン声のボーカル。
脳天に突き刺さるようだ。
でも慣れてくると、そのキンキン声がシットリした感じに聴こえてきて、
とても不思議な歌声に感動し、聴き入ってしまった。
これ以来、すっかりお気に入りになってしまい、
クロコダイルをはじめ、都内ライブハウスへクララの追っかけ。
足しげく通うようになったのだった。

