ドラッカーのマネジメント原則にしても、ウォレン・ベニスのリーダーシップ論にしても、ミンツバーグにしても、コッターにしても、そこに書かれていない重要なことがある。


これがマネジメントを学ぼう、実践しようとする人が混乱する元凶でもある。


それは、業種・業態、企業規模、事業環境、戦略、事業方針、企業理念、企業文化、会社の雰囲気、上司のマネジメント・スタイル、部下のキャラクター、などなど実に様々な要因によって、適用できるマネジメント原則が異なってくるということだ。


例えば、流通業で成功した原則を製造業でそのまま取り入れてもうまくいかない。


同じ製造業でも大量生産の工場と多品種少量の受注生産の工場では、適用できる原則やスキルが違ってくるのは当たり前だ。


しかし、それに気づいていない経営者やマネージャーが多い。自社の状況に合わない原則を取り入れて首をかしげている。


中には、そんなことに気づいていないコンサルタントもいる。


クローズアップ現代とか、カンブリア宮殿で取り上げられた企業の事例を勇んで取り入れようとしても、その企業の戦略がコスト・リーダーシップ戦略で、自社の戦略が差別化戦略の場合、全くもって役に立たないか、これまで築きあげてきた戦略の土台を破壊したり場合もある。


マニュアルに書いていないサービスを顧客にせがまれ、それを提供した部下を褒めるか、叱責するかというようなケーススタディもあるが、全くナンセンスだ。


戦略によって、正解が変わってくるからだ。


例えば、マクドナルドでハンバーグの焼き加減の注文を聞いてくれるだろうか。もし、アルバイトが独断で焼き加減を聞いたら、ひどく怒られるのではないだろうか。


逆に、リッツ・カールトンなどの高級ホテルでは、マニュアルになくても顧客の要望をとことんかなえてあげることが良しとされる。


全く正反対の対応だが、戦略に照らしてみると整合性がある。マクドナルドは、コスト・リーダーシップ戦略であり、リッツは差別化戦略である。


また、昨今はコーチングが花盛りだが、コーチングが相応しくない職場や部下は確実に存在する。


シチュエーショナル・リーダーシップという考え方では、部下の成長や状況に合わせて、コーチングを適用するかどうかを決める。


にもかかわらず、単なる流行に乗って、これからはコーチング型リーダーシップだと言われても、うまくいくはずがない。


マネジメントは万能薬ではないし、マネジメントに「魔法の杖」は存在しない。


マネジメントの本を読んでも、テレビで成功事例を見ても、マネジメント研修を受けても、自分の会社の置かれている環境や戦略、職場の状況、上司や部下のキャラを踏まえて、適用できるかどうか、取り入れるかどうかを自分で考えなくてはならない。


取り入れると決めても、すぐにうまく行くことはまれだ。


そこから、気の遠くなるような試行錯誤が始まる。ちょっと試してみて、反応を見る。うまく行かなければ、ちょっとやり方を変えてみる。ダメだと思えば、思い切ってその方法を捨ててみる。新たな方法を取り入れる・・・。


そうやって少しずつ自分にぴったりのマネジメント・スタイルを確立していくのが、王道だろう。


マネジメントには「魔法の杖」はないが、定期的な振り返りといろんなことを統合していくスキル、それに一緒に歩んでくれる仲間がいると、マネジメントも少しは楽しくなってくるのではないだろうか。

最近、どう見てもコーチとしての資質が低いような人が、「コーチングで独立します!」と目を輝かせて言っているような場面に出くわすことが多い。


疑問なのは、そんなに資質が低いのになぜ資格が取れてしまうのかということ。


それから、そういう人に独立しようと思わせてしまうこと。(そそのかした団体やコーチは自己責任だと言うだろうが・・・。)


冷静に考えてみれば、この不景気の中で、独立するということはよっぽどの覚悟とスキル、営業力、資金力がないと困難なことはすぐにわかる。


さら悪いことに、独立して失敗した人の話はあまり語られない。(結構いると思うけれど・・・。)


もちろん、プライベートでコーチングをしたい人もいるだろうから、門戸を開くのはいいと思うけれど、せめて人からお金を取ってコーチングをするための事業用資格とプライベート用の自家用資格に分けることはできないのだろうか。事業用の資格コースには、適性検査に合格しないと進めないとか・・・。


今の資質の低いコーチが大量生産されている現状は、コーチング業界全体にとってもはなはだ悪い影響があるだろう。後々、自分達の首を絞めることにならないだろうか。


この傾向は、コーチング業界だけに限らず、カウンセリング業界、ファシリテーション業界、研修業界、コンサルティング業界にも当てはまる。


プロフェッショナルのコンサルタントからすると、『コンサルタント養成講座』なんて噴飯ものだ。そんなもので、コンサルタントになれれば、苦労はしない。


私も過去に研修講師養成講座やファシリテーター養成講座を主催していたこともあるが、止めてしまった。なぜなら、研修講師やファシリテーターは育成よりも元々持っているセンスや才能が大きくモノをいうからだ。


また、人にノウハウを教えてお金を取るというビジネス・モデルは、よっぽど気をつけないと『ニセ錬金術師 』に陥ってしまう。


例えば、カウンセラーの資格を取るなら、その資格コースや講師にのみ注目するのではなく、その団体が年間どのくらいのクライアントを社会復帰させているか、再発症率はどうか、復帰までの平均的カウンセリング期間はどうか、企業の顧問になっているなら、カウンセラーが実際にその企業のメンタルの罹病率や長期病欠者を減らせたかということを聞かないといけないと思うが、どうだろうか。

最近、まわりのコーチの話を聞くにつけて、知らず知らずのうちにクライアントのメンタルヘルスの問題に巻き込まれているコーチが多いような気がする。


コーチとの約束を守らない、ドタキャンする、コーチが関わってくれることに依存する、コーチング契約を停止しようとすると脅したり、逆恨みをするなどということも聞いた。


中には、ストーカー的な行為をするクライアントもいたという。


本来は、カウンセリングを受けるべきなのだが、うつ病や統合失調症などの精神疾患を抱えたまま本人がそれとは気づかずにコーチングを受けるケースも多いのではないか。


駆け出しのコーチの無料セッションや低価格でのコーチングにそういうクライアントが引き寄せられるような傾向も見受けられる。


さらに悪いことに、ポジティブ思考や「引き寄せの法則」系の影響からか、そういうクライアントに出会ったのもコーチとしての自分の課題だと捉えて果敢に関わっていく人が多いのだが、あえなく撃沈しているような事例が多い。


シドニー大学の心理学者アンソニー・グラントの調査によれば、コーチングを希望する人の25~50%が、臨床的に問題とされるレベルの不安やストレス、うつを抱えているという。


彼の指摘によれば、「メンタルヘルスの問題を自覚していない人にコーチングを提供するのは、逆効果であるばかりでなく、危険ですらある」という。(『コーチングの課題』ハーバード・ビジネス・レビュー2009年3月号)


その通りだと思う。


コーチを志す人は、心理学やカウンセリングの素養がないとそういうクライアントに対処できないと思うし、自分自身がボロボロになってしまう。


もし、その方面に暗いのであれば、せめてそういうクライアントの兆候を見分ける基準を持ち、兆候が見えれば断固として契約をしない、契約を停止するという姿勢が必要だ。


コーチング団体では、そういうことは教えてくれないのだろうか。