9月18日の内覧会にて
これまでも、何度か観る機会のあったクレーの
何度目かの再会になる作品の前で
ふと、クレーの生涯が60年だったことがむっくりと立ち上がってきて
その途端、何度目かの作品それぞれから
まるで初めて観るような鮮明さを感じてしまい
気がつけば呆れるほど時間が過ぎていた。
クレーが皮膚硬化症という難病を抱えていたことは知られているけれど
次第に不自由になる指先のせい、なのだろうか
それまでの繊細な筆致や色彩から、
<むしろ鳥>など鉛筆の力強く自由に感じる線の作品が多く登場するようになるのは
56歳で病を発症してから。若すぎる晩年だった。
紙(など)に描いた絵を厚紙に貼付ける独特の作品を
それぞれを自身によってクラス分けしたクレーは
その中でも<特別クラス>として
非売やそれを意味するかの高価を付けさせた作品40点への好奇心を持って
足を運んだ内覧会
時折、作家の生涯と重ねながら観て行くうちに、そのクラス分けは
クレーが自身の作品について表現する
「中間世界」と関係しているのではないか?と
そんなことも次第に希薄になって
こちら側が中間の世界を彷徨っていた。
実はその中間の世界について、例えば、幼い子どもが視線を宙に走らせ微笑むような
大人には見えない空間の事なのかと思っていたのだけど
図録の中に、もう少し死に近いところ…であるとあった。
作品に多く登場する天使は中間の世界の象徴なのかもしれない。
クレーは没年となる60歳にこそ作家の年間総制作数が最も多く
1253点の作品をのこしている。
とにかく、クレーの60年の生涯に相当な衝撃を受けたことは確かで
たぶん、10年前、もしかすると私自身5歳若くても及ばなかった感覚だった。
正直、疲労を感じるほどの長時間の鑑賞から数日の軽い後遺症
パウル・クレーの作品からその生涯と「中間世界」に此岸と彼岸を想った備忘録。