「ルネ・マグリット展」と「マグリット展」 | 備忘録ときどきご案内

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ギャラリータフ 宮﨑賀世子

現在京都市美術館で開催中の「マグリット展(東京展は終了)


今展のカタログには、過去、日本で開催されたマグリット展において
世界10カ国以上から約130点の作品が集まる最大規模であることが記載されている。


その<過去>の一番最近は13年前の2002年

東京(Bunkamuraザ・ミュージアム)、名古屋市美術館、ひろしま美術館の
3カ所を巡回し開催された
「— 不思議空間へ — マグリット展」だった。



私の手元に「ルネ・マグリット展 19941995」と背に印刷された

東京新宿の三越美術館で開催された当時のカタログがある。



1994-1995年のカタログ表紙


数日間の出張も多かった頃で、
少しでも時間があれば足を運んだ美術展のカタログや書籍類は
欲しいとおもえば迷わず買って、
重い荷物になるのも気にすることなく持ち帰れてしまった
若かった自分へのお土産だった。

 

「ルネ・マグリット展」は
199411月1日~1995122日までの東京展のあと
128日から兵庫県立近代美術館(当時)で開催される予定だった
しかし、間違いなく準備を整えていた美術館は1月17日の阪神淡路大震災で被災。
20年前のことだった。
(カタログの巡回日程を見ながら改めて被災された多くの方々への追悼の念を深くした)

震災当日はまだ東京展の最中で作品は被災する事なく
その次の巡回地である福岡市美術館では予定通り開催された。


カタログの扉裏面東京–兵庫–福岡の巡回地と会期の表記

こういう現実に触れる度、運命は人にのみあるのではないことをおもう。
例えば海外へ流出していた多くの浮世絵は日本での戦火を免れ、現在に至るように。
あるいはまた、その逆もあって、人とモノの巡り合わせの運命をおもう。

 私が初めてマグリットの作品を観た日から21年めの今年は
五輪招致とともに建築やデザインについて多くの人々が一喜一憂しつつ
考える機会を得た年でもあった…と、
もし、次回、マグリット展を観たとしたら回顧するだろうか?

それよりも、再々会する絵のオーナーの遍歴が気になるだろうか?

 

マグリットは広告デザインで生計を立てていた時代があることは知られているし
自他の作品やデザイン、誰もが知るようなイメージからの引用や影響は
作家自身の表現を豊かにしてきたことも作品から感じとることができる。


自身は1967年に69才で世を去っているが
作品はこれからも多くの人々が鑑賞し、影響を受けることは間違いない。

そしてまた、今日までの広告デザインにおいて
マグリットの作品は広く影響力を与え続けている。

 2015年のカタログ

期待以上にのめり込んだ2015年の「マグリット展」
濃厚な印象で、たたみ掛けるように並ぶ晩年の作品の部屋の最後に
イーゼルに乗った未完のキャンバスがあった。
木炭の輪郭の画面からこんなに強い不在のイメージが伝わってくるものなのか?

20年前の「ルネ・マグリット展」にも出品されていたはずの
「テーブルにつく男」の前で
もう少し待てばマグリットが戻ってくるようなふるえる想いは
20才若かった私にはなかった。

無類のファンというわけではないにしても
今度は幾つになった私がどこでマグリットの展覧会を観るのかと
ふっと、おもってみたりしている。



カタログ表紙
左:2015 マグリット展 右:1994-1995 ルネ・マグリット展



 カタログ裏表紙
左:2015 マグリット展 右:1994-1995 ルネ・マグリット展


備忘録なのでと言い訳付きの蛇足

カタログ中の、
寄稿文を読みながら日本(とベルギー)に起きてしまった騒動をまた思い出した。



                                            以下抜粋

『日出ずる地のマグリット』

 「(略) 日出ずる地というものは、想像を喚起します。

それはファンタジーを呼び起こす土地です。それは西洋の文化にも大変影響を与えました。

私は、マグリットが、その広範囲な読書のなかで、

日本の芸術家や作家、詩人、哲学者が我々に教えてくれるあらゆる美や洗練さというものに、

心動かされたのに違いないと思っています。 

さらに、混じり合う昼と夜、決して沈まない赤い太陽、

書体やカリグラフィーへの嗜好といった特徴は、

東京や京都において共感を呼ぶものでしょう (略)


チャーリー・エルスコビッチ

マグリット財団代表

ブリュッセル、ベルギー2015年1月8日」


日々の中の美や愉しみへの気付き、そして先人のはたらきや創造無くしては、

次代の創造は生まれ得ない事は皆が知っている…
チャーリー氏が 日出ずる地の我々に「喚起」という言葉を選んだことが
偶然におもえなかった2015年のマグリット展に関する備忘録。