Busch HELLUX 6×36 〜 唯我独尊の超広角 6倍機の名機 | BLRM ブラッキー リッチモア ~ Be Lucky Rich More!! のブログ

BLRM ブラッキー リッチモア ~ Be Lucky Rich More!! のブログ

ギター、双眼鏡、オーディオ、 趣味関連の記事を書いていく予定です。
皆さんが、より幸運に恵まれ、より豊かになりますように。。。
愛念の願いを込めて、Be Lucky Rich More です(^^)
私自身が、ワクワクドキドキ出来る事だけを記事にします。
〜 SINCE 2015.4.8

Busch Hellux 6×36    FOV= 190m/1000m ・・・

 

本機をご存じな方は、かなりの筋金入りのマニアに違いない。

 

そもそも、Busch の双眼鏡をご存じなだけでも、

 

それはもう相当な筋金入りのマニアな方なのではないだろうか。

 

 

本機に限らず、この辺りのヴィンテージ双眼鏡の入手に際しては、

 

何かとリスクがあるので、それ相応の覚悟が必要であり、

 

決して安易に手を出せる代物ではなく、

 

覚悟なき者、手を出すべからず なのである。

 

 

双眼鏡に限らず、オーディオでも車でも、どの世界でも同様だが、

 

筋金入りのマニアと呼ばれる方達は、

 

そう言った覚悟をも有した方だと言えるだろう。

 

 

だからこそ、私はどの世界のマニアの方々であっても、

 

リスペクトせずにはいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、Busch ( ブッシュ ) は、1792年にドイツのラテナウで、

 

ヨハン・ハインリヒ・アウグスト・ダンカー( 1767-1843 )によって、

 

光学機器の製造を開始した事が始まりとなる。

 

今からもう、240年程も前のことである。

 

 

240年前・・・日本はまだ江戸時代で、寛政4年。

 

第十一代将軍 徳川家斉の時代である。。。

 

ドイツとは、何とも底知れぬ、恐るべき国である。

 

 

1819年には、息子のエデゥアルド( 1797-1878) に引き継がれ、

 

更に、1845年には甥っ子の、エミール・ブッシュ(1820-1888) に引き継がれ、

 

その27年後の1872年に、それまでの Optische Anstalt Rathenow から、

 

Emil Busch AG  と社名が変更される。

 

ここで初めて、「 Busch 」の名が出て来るのである。

 

 

また、その頃から、CARL ZEISS JENA と非常に密接な関係となり、

 

CARL ZEISS JENAは、Emil Busch に光学ガラスを供給するようになる。

 

 

1929年には、HENSOLDT WETZLAR や、Möller 等と同様に、

 

CARL ZEISS JENA のご家芸である、事実上の買収が行われ、

 

Emil Busch の株式の過半数は、CARL ZEISS JENAが取得する事になる。

 

また、それを機に、Busch はレンズの製造を中止する事となったようだ。

 

 

第二次世界大戦中は「 CXN 」のコードネームで、

 

CARL ZEISS JENA 製の双眼鏡の製造も行っていた。

   

 

本機、BUSCH HELLUX 6×36 も、光学ガラスは全て、

 

CARL ZEISS JENA によって供給されたものと推察される。

 

推察と言うよりも、ほぼ間違いないだろう。

 

事実上、Busch = CARL ZEISS JENA  なのである。

 

 

本機、Busch Hellux 6×36 は、

 

1931年〜1939年までの約8年間製造されたようだが、

 

市場でもあまり見掛けない、極めてレアな双眼鏡である。

 

 

また、あまりにも情報が少なく、本機の詳細は

 

世界的にも殆ど知られておらず、謎に包まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、特筆すべき点として、

 

本機は、6倍機としては異例の広角双眼鏡で、

 

FOV=190m/1000m を誇り、

 

各所、オリジナリティに溢れている。

 

 

尚、6倍機の超広角機種としては、

 

1930年台頃のこの時代に於いては、本機以外には、

 

ROSS LONDON STEPNAC ( No.4 Mk1 ) FOV 192m/1000m 、があるが、

 

こちらの方が比較的、マニアの間で有名かも知れない。

 

他にも、戦前の機種で数機種が存在するようだ。

 

 

また、数十年後の第二次世界大戦時中には、

 

空軍用の軍用偵察機として製造された、

 

アメリカの SARD 6×42 ( FOV = 207m/1000m )、

 

日本が誇る、東京光学 Erde 6x30 ( FOV 201m/1000m  11.5° )、

 

等が挙げられるが、いずれにせよ、ごく限られた機種しか存在しない。

 

 

また戦後では、1956年に、Leitz によって製造された、

 

Amplivid 6×24 ( FOV= 220m/1000m) が存在するのみである。

 

 

そして大変残念な事に、私の知り得る限りでは、

 

本機が生産されていた時代から、100年も経た今現在、

 

現行品の中には、同様のスペックの超広角6倍機は、

 

1機種足りとも存在しない。

 

 

尚、本家のCARL ZEISS JENAの歴代の製品の中にも、

 

本機に相当するスペックの機種は存在しない。

 

 

そんな超広角6倍機として、稀有な存在でもある、

 

Busch Hellux 6×36 であるが、

 

今回、世界でも極めて貴重な記録となるであろう、

 

Busch Hellux 6×36 の、解体新書である。

 

 

では、オリジナリティに溢れる、この名機の各所を、

 

一緒に見ていきたいと思う。

 

 

 

まずは対物側だが、小さな止めネジが数カ所使われており、

 

それを外さなければ、対物部の分解は出来ない。

 

 

 

 

 

 

プリズムカバーの止めネジは、対物筒まで貫通している。

 

間違っても、このネジの存在に気付かずに、

 

プリズムカバーや対物筒を外そうとしてはならない。

 

確実に破損を招くからである。

 

 

往年の双眼鏡には、こう言った仕組みが多く、

 

破損をすれば代えが利かないので、慎重に慎重を重ねる必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

プリズムカバーを外した裏側の様子だが、

 

粘土状のシーリング材が充填されており、

 

メーカーによって、極めて粘度が高く粘着質なものや、

 

硬化してしまっているもの等、様々であるが、

 

ヴィンテージ双眼鏡の多くが、大体はこのような様子だ。

 

ただ決して、見た目的にも、衛生的とは言えない。

 

 

本来はオリジナルを尊重して、温存したいところではあるが、

 

機能や衛生上の問題を考えた時、

 

やはり一度、殺菌クリーニングをした方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

後で、再度シーリング処理を行うので、

 

まずは一旦、徹底的にクリーニングを行う。

 

接眼側も同様である。

 

 

 

 

 

 

クリーニングしていて気付いたが、

この楔形の加工痕のようなものは何だろうか?

 

もしご存知な方がいらっしゃれば、

是非、御教示願いたい。

 

 

 

 

 

プリズムカバーのシーリング処理。

 

アルミや真鍮にダメージを与えない特殊なシーリング材にて、

 

再度、シーリング処理を行う。

 

 

 

 

 

 

 

対物部も、年代相応の汚れが確認出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

対物部を全て分解し、クリーニング、オーバーホールを行う。

 

この対物部のオーバーホールは、意外に時間が掛かるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

対物側の内部の様子。

 

プリズム押さえの金具が、幅広でワイルドだ。

 

 

 

 

 

 

プリズム押さえの金具がネジ止めされているのだが、

当初は隠れていて、これに気付くのは、まず困難である。

 

一見、ネジ止め仕様では無さそうに見えるので、非常に厄介だ。

 

 

 

 

 

 

 

止めネジは独自の形状をしている。

恐らくは特注品かと思われる。

 

細部に至るまで、非常に凝っている。

 

 

 

 

 

金具の先端の穴の部分に、ネジが貫通する仕組みとなっている。

 

 

 

 

 

 

対物側のプリズムを取り外した対物側の鏡体内部。

 

対物部の鏡体内壁には、コバ塗り( 黒塗り) がされている。

 

プリズム台座の部分まで、黒く塗られている例は、極めて珍しい。

 

 

 

 

 

 

内壁にも、カビが発生していた。

 

 

 

 

 

プリズムを微調整する為のネジが、

プリズム枠の4隅に設けられている。

 

ネジは頭の端がカットされており、

何ともアナログな手法であるが、芸が細かい。

 

 

 

 

 

 

 

対物側から、接眼側プリズムのカビが確認出来る。

 

 

 

 

 

 

 

対物側のプリズムも、カビと曇りで汚れていたが、

カビ痕が殆ど残る事もなく、

本来の透明性を取り戻す事が出来たようだ。

 

硝材の品質も、非常に高そうである。

 

 

 

 

 

 

 

今回、鏡体を完全に分解し、徹底クリーニングと

殺菌処理を行った。

 

機種によっては、ここまで分解出来ないものも多いが、

本機の場合は、幸い可能であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次に接眼側の様子。

( 画像はオーバーホール後のもの。)

 

 

 

 

 

 

接眼側のプリズムにも、カビと曇りが確認されたが、

無事に、非常に美しいプリズムが蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

接眼側のプリズムは、対物側とは形状が違っていて、

接眼筒に沿うように、曲面にカットされている。

 

後期のデラクテムを彷彿とさせられる。

 

 

 

 

 

参考までに、DELACTEM 8×40 の接眼側プリズム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

接眼部も独特の構造となっていたが、

やはり相当な汚れが確認された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

接眼レンズも、かなり汚れが酷い状態であった。

 

 

 

 

 

 

非常に興味深い事に、FOV 190m/1000m を誇る超広角にも関わらず、

 

接眼レンズは、非球面レンズではなく、

 

通常のエルフレタイプのレンズが採用されていた。

 

 

また、接眼レンズには、コバ塗りもされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディオプターも独自の構造のようだ。

 

 

 

 

 

 

本機のフォーカスリングもディオプター同様に、

本機独自の構造をしており、

驚いた事に、内部にはベアリング球が仕込まれていた。

 

フォーカスリングにベアリング球が使用されているのは、

初めてお目に掛かった。

 

これも全て分解し、徹底オーバーホールを行ったが、

トルクの調整が非常に難しく、グリスの使い分けだけでは、

全くダメであった。

 

結果的に分かった事であるが、ベアリングに掛かる圧が、

僅か 0.数mm の事で、重くなったり、軽くなり過ぎたりする為、

数日に及んで、何度か試行錯誤を繰り返し、

最終的には、バターをナイフで切るような、

極めて心地良いトルクのフィーリングとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォーカスリングの0位置が、無限遠♾️ となるように調整する。

 

基準とするポイントのマーキング位置が、

真ん中ではなく、少しズレているのが、また味がある。

 

 

 

 

 

 

フォーカスリング周辺、当初の様子とオーバーホール後

 

 

 

 

 

 

軸の部分が剥げていたので、レタッチを行った。

 

 

 

 

 

 

 

本機の上陣笠の眼幅目盛りも、56mm、64mm、72mm と、

珍しい独自の刻み方である。

 

 

 

 

 

 

 

重さは、約718g と、比較的大型な双眼鏡の割には軽い。

 

 

 

 

 

 

 

仕上げとして、鏡体内部には、アルゴンガスを封入し、

 

最後に、光軸を調整して完成である。

 

 

この光軸調整に関しては、どうも色々と世間で誤解があるようだが、

 

長くなるので、ここでは触れない。

 

 

 

アルゴンガスは、よく使われる窒素ガスよりも、

 

コストは高いのだが、残存性が高いので抜けにくく、

 

不活性率、防錆効果、防カビ効果、透明性や透過率、

 

あらゆる点に於いて、窒素ガスを上回る。

 

 

 

さて、ようやく完成し、光学系が美しく蘇った、

 

Busch Hellux 6×36 を覗いてみて、

 

一瞬にして、その魅力に引き込まれてしまった。

 

 

190m/1000m の広視界がもたらす、

 

開放的な像の、何と気持ち良い事か!!

 

 

例えば、同じ6倍機の、SILVAREM 6×30 等も、

 

150m/1000m なので、十分に広角なのだが、

 

本機を覗いた後では、150m/1000m の広い視界さえも、

 

非常に窮屈に感じてしまう。

 

 

また、解像度の高さが素晴らしく、

 

6倍機では、1、2位を争う解像度番長の DIAGON 6×30 と、

 

ほぼ互角に感じるくらいのシャープで高解像な像である。

 

 

良像範囲もかなり広く、像の最周辺の辺りまでは歪みが少なく、

 

最周辺で一気に像が歪むような印象だ。

 

これだけの広視界を、エルフレタイプの接眼レンズで、

 

ここまで歪みが少ないのは、ある意味凄い事ではないだろうか。

 

 

ノンコートレンズではあるが、瞳径は6mmあるので、

 

十分に像も明るく、そしてヴィンテージ双眼鏡の多くに共通する、

 

極めて立体的な、奥行き感を感じられる像である。

 

当然乍ら、像の抜け、透明感も抜群に良い。

 

 

非常にマイナーな機種ではあるが、これは間違いなく、

 

6倍機の名機と言って差し支えないかと思われる。

 

 

これだけの広視界で、ここまで解像度が高く、歪みも少ない機種は、

 

少なくとも、私は他に知らない。

 

 

「CARL ZEISS」を冠していなくとも、

 

素晴らしい双眼鏡は、まだまだ世に多くあり、

 

ヴィンテージ双眼鏡の沼は、私が想像するより遥かに、

 

まだまだ果てしなく深いようだ。

 

 

この記事を書かせて頂くに際して、

 

ご協力頂いたオーナー様には、この場をお借りして、

 

あらためて、心より感謝申し上げる次第である。

 

 

ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

 

感謝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 お陰様で5周年 〜

皆様方には、心より感謝申し上げます。

 

ヴィンテージ 双眼鏡 修理 販売  専門サイト

CARL ZEISS JENA、HENSOLDT、CARL ZEISS

LEITZ 、Nippon Kogaku 、KAIKOSHA、etc... 

https://blrm-yz.com/