私が大好きで、お気に入りの双眼鏡の一つに、
CARL ZEISS JENA SPORTUR 6×24 があるが、
その SPORTUR の前身となる TELEXEM 6×24 の
IFバージョンが、今回の TELEX 6×24 である。
1919年製と、何と100年以上も前の製品だ。
尚、画像の方では私の入力ミスで、
1918年製となってしまっているが、
正確には、1919年製である。
ややこしくなってしまい、大変申し訳ない。
右が、今回ご依頼のあった TELEX 6×24、
左側は小生の私物の TELEXEM 6×24 。
TELEX は、元々は 1907年に、6×21 のスペックで登場し、
1912年からは対物径が大きくなって、6×24 のスペックとなり、
1940年まで製造されたようだ。
また、1927年からは、それまでの FOV 120m/1000m から、
150m/1000m にバージョンアップされる。
TELEX 6×24 のCFバージョンである TELEXEM 6×24 は、
1936年からは、SPORTUR 6×24 として生まれ変わった。
そのような、少々複雑且つ、大変古い歴史を持つモデルである。
TELEXEM 6×24 と、後継機種の SPORTUR 6×24
さて、今回お預かりさせて頂いた、
1919年製の TELEX 6×24 であるが、
お預かり当初は、外観、光学系と全てに於いて、
かなり酷い状態であった。
光学系は、全体的にカビが発生しており、
画像では分かりづらいかも知れないが、
プリズムカバーを始め、鏡体が全体的に、
錆や塗装の剥がれが、かなり目立っていた。
各ネジも、錆びているのが画像でも確認出来る。
オーナー様より、徹底的にやって欲しいとの事だったので、
今回は、光学系全般のクリーニングと調整、
ピントリング等、機能部分の全面的なオーバーホールに加え、
プリズムや鏡体内部のコバ塗りによる内面反射対策、
更には、鏡体フレームや、プリズムカバーの再塗装と、
私に出来る限りの手を尽くさせて頂いた。
対物側のプリズムカバーを開けると、
接眼側のプリズム面のカビが確認される。
鏡体内部は、セメントのような質感の、
デルトリンテム等とも共通する、
この時代特有の造りであった。
プリズムを取り外し、鏡体内部をクリーニングした後に、
光学機器用の特殊塗料にて、鏡体内部を黒く塗装し、
内面反射対策を行う。
プリズムのコバでは無いので、
正確にはコバ塗りでは無いかも知れないが、
反射対策の為に黒く塗装する=コバ塗り と言うことで、
誠に勝手ながら、以降はコバ塗りにて統一させて頂きたいと思う。
対物レンズ周りの部品のクリーニング、メンテナンスは、
意外と時間も掛かり、かなり面倒な作業の一つだ。
確認すると、ネジ溝が切られていたので、
適合するネジを補充させて頂いた。
これによって、光軸も狂いにくくなる。
対物部が終わった後は、接眼部に着手する。
接眼部周辺も、元々のコバ塗りがされていたであろう箇所が、
かなり剥がれてしまっているので、再施工を行う。
ついでに、本来オリジナル状態では施行されていない、
接眼レンズが収まる筒の内面壁にも、
コバ塗りを施行させて頂いた。
接眼レンズも、コバ塗りを施行する。
コバ塗りをする事で、レンズ自体がシャキッと
見違えるのを画像でもお分かり頂けると思うが、
見え味の方も、このようなイメージで向上するようだ。
ピントリングは、クリーニングの後、
研磨処理を行なって、ご覧の通りピカピカとなった。
この時代の製品は、一つ一つの部品の素材が、
本当に贅沢で造りが良く、質が高い。
接眼側、対物側、全てのプリズムも、コバ塗りを施行する。
殺菌クリーニング → 脱脂 → コバ塗り → 殺菌クリーニング
と、手間は倍以上掛かるが、効果はてきめんだ。
接眼側の鏡体内部も、コバ塗りを施行と、
今回は、考え得る限りの対策を全て、
徹底的に行った。
光学系のオーバーホール、機能系のオーバーホールを
全て終えた後、残るは鏡体の塗装だ。
塗装は乾燥に時間が掛かるので、
塗装の工程が入ると、納期は少なくとも、
10日以上は伸びてしまう。
接眼部のローレット加工の部分等、
再塗装をする事で、一段と引き締まった印象となった。
対物側のプリズムカバーは劣化が特に著しかったので、
錆を落とした後、再塗装を行った。
いかにも「再塗装しました」感がでるのは、
個人的にも、あまり好ましくないので、
対物レンズカバー周り等は、
若干のヴィンテージ感は残すように留め、
また、極力オリジナル感を損なわないよう、注力させて頂いた。
尚、今回は塗装の範囲が広く、
対物側、接眼側のプリズムカバー、
鏡体フレーム、接眼部周辺と、
ほぼ全面的に塗装を施した事もあって、
約1ヶ月間は、この TELEX の修復に
費やす事となってしまった。
並べてみると、かなり美しくなって、
見違えった事が確認出来る。
下陣笠の眼幅ロックネジも、勿論きちんと機能する。
最後に、光軸を調整して完成である。
工作精度の高い双眼鏡は、光軸調整も
気持ち良いように、ピタリと合うようだ。
見え味も申し分無く、極めて自然で、色彩が濃密で、
中心像は極めてシャープであり、
3次元的な立体感も申し分無い。
いつまでも覗いていたくなるような、
そんな魅力に溢れた見え味を感じさせてくれる。
私が言うのも変かも知れないが、
外観、性能、全てに於いて、
100年以上も昔の製品とは思えないくらい、
最高の1台となって蘇った。
最後に、後日オーナー様より頂いた、
ご感想を掲載させて頂きたいと思う。
また、この度はご依頼を頂きまして、
本当にありがとうございました。
心より感謝申し上げます。
ーーー オーナー様よりーーーーーーーーーーーーーーーー
修理頂きましたTELEXを昨日屋外にて使用させて頂きました。
私は時折、海上から船を撮影することがあり、
これまでは遠方の船を確認するのにもカメラで行っておりました。
今回その確認も兼ねてTELEXを使用致したのですが、
正直驚きました。
当日は晴れて気温も上がったため霞み気味の視界でしたが
これまでですと確認しずらい事もあった遠方の船が
それはもうハッキリと確認する事が出来ました
(TELEXを通して撮影してみたいと思った位です)。
それでいて長く見ていても、
まったく目が疲れないのは不思議な感じでした。
(撮影せずずっとTELEXを覗いていた時間もありました)。
100年以上経って
ここまで実用的に使用出来る状態になった事で
おそらく同時期に生産されたTELEXの中で
最も幸せな個体となったのではないでしょうか。
やはり今回修理をお願い致したのは大正解だったと思います。
本当に有難うございました。
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最後までお読み頂き、ありがとうございました。
感謝
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