こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。
つい先日のこと、「シネマテークたかさき」のプログラムに『ひまわり』が掲載されていた。あゝ、確かに公開50周年に当たるんだな。と得心。しかも、その間に技術の進展もあり、この度はHDレストア版として再上映されるという。
で、HDレストア版ってどういう意味なんだろう。
『ひまわり』 I Girasoli (‘70伊・仏・ソ) 107分
梗概
第二次大戦中のイタリア。ジョバンナ(ソフィア・ローレン)は出兵前の兵士アントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)と出会い、二人は結婚する。派兵を免れるべく精神疾患を装ったものの露見し、ソ連の戦地へと送りだされる。終戦後、ジョバンナはアントニオの母親と共に夫の帰還を待ち続ける。ある日同じ部隊に所属していた男性から、夫は雪の中で消息不明となったと聞かされるが、自らソ連へと赴き捜索を続行。遂にある町でロシア人女性と所帯を持つ夫を発見する。が、逃げるようにイタリアへと帰国。その後アントニオが訪ねてくるが、既にジョバンナも家庭人となっていた。二人は出兵で別れたそのホームでまた別離を経験することとなった。
これもまた多くが語られており自分がコメントする余地もない作品である。
ただ、ちょうど本日8月15日が終戦記念日と「シネマテークたかさき」で公開初日ということであえて言及してみたい。
まず、ヴィットリオ・デ・シーカ監督である。
一般的にはデ・シーカと言ったら、戦後のイタリアン・ネオリアリズモの旗手として名高い人物。『靴みがき』(46)『自転車泥棒』(48)『ウンベルト・D』(51)などで国際的名声を高めたのは周知の通り。
なので、ある意味通俗的な商業作品的メロドラマを撮り上げたというのも何やらそぐわない気がした。
まあ、その間には『終着駅』(53)を経て『ボッカチオ‘70』(62)『昨日・今日・明日』(63)『ああ結婚』(64)『華やかな魔女たち』(66)などイタリア式コメディ路線などでも手腕を発揮しており、いつまでもネオレアリズモをやってたわけではないのだが。
よって、デ・シーカもネオレアリズモが一段落したところで、フツーに商業映画を手掛けていたのである。
そのあたりを良く知らない駆け出しの頃は、先述したようにデ・シーカ=ネオレアリズモの図式が刷り込まれていて、彼がメロドラマを演出するということが妙に思えただけのことだった。
だが、二人の邂逅から結婚、そして兵役回避を画策する様は喜劇調の軽いタッチで、流石手練れの監督だけある。
そして見事に人々の涙を搾り取ることに成功。我邦においても本作はテーマ曲と共に大ヒット。“名作”に列せられることになる。
確かに通俗的とは言え、男女すれ違いのドラマの原因に戦争を持ってきたことでちょっと重くなっていてシリアスだ。
しかも、アントニオは記憶障害に陥っていたということもあり、彼の行動を全面的に非難し難い事情もある。
但し、これは『銀座の恋の物語』(62)を下敷きにしているわけではなかろうが、以前から重宝している手法である。
まあ、戦後25年当時はまだまだミニマムな個人レベルで戦争が終わっていないケースが山とあった。つまり、戦争の影を引きずって日常生活を送る人々が大勢いたのである。
そこへ『ひまわり』登場。友人知人親類縁者の中に似たような体験をしていた人を連想することもあったろう。もちろん自分が該当者でもあり得るわけで。
そんな時代性を考慮すると、今観るよりもずっと人々の心に響いたんじゃなかろうか。伊・仏・ソ、はたまた日本でも。
デ・シーカ監督はやはり戦後を庶民レベルで描くことに長けていたんだろう。
さて、主演女優S・ローレンは、デ・シーカと組んだ『ふたりの女』(60)でオスカーを獲得。
M・マストロヤンニは彼女と共演の喜劇『昨日・今日・明日』、『ああ結婚』でもデ・シーカと組んでいる。
この三人は馬が合うのだろうか。一連の艶笑譚から一転、悲恋物でも息の合ったところを見せつけ、まさに三人の共作で頂点を成すフィルムに仕上がった感あり。
現地妻役リュドミラ・サベーリエワは『戦争と平和』(68)で国際的に知られるようになる。
中学時代に、彼女の名前やセルゲイ・ボンダルチュク監督、インノケンティ・スモクトノフスキーなど旧ソ連映画人の名前を必死に覚えたものだ。
ヘンリー・マンシーニのテーマ曲も“永遠のスクリーン・ミュージック”のレギュラーに数えられる。シティ派のしゃれたイメージの強いお人だが、ニーノ・ロータやモーリス・ジャールと聴き間違えるようなメロディアスかつスケール感の大きい入魂のサントラである。
撮影のジュゼッペ・ロトゥンノもデ・シーカと過去何度か組んでいるが、この度はあの広大なひまわり畑のショットが強烈な印象を残した。
ちなみに、旧ソ連の支援もあったためか、登場人物の背景に原発を映り込ませている。
社会主義陣営の領袖の立場ゆへ、科学的な先進性をアピールしたかったのではなかろうか。ここは恐らく制作陣が、旧ソ連サイドの主張を聞き入れた結果だと睨んでいるのだが。どうだろう。
まさか16年後にチェルノブイリ原発事故が発生したり、21年後に国家そのものが解体することなど夢想だにしなかっただろうね。
戦争を知らない子供たちの一人が徒然なるままに書き散らしてみた。
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
『自転車泥棒』『ミラノの奇蹟』『終着駅』
撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ
『渚にて』『天地創造』『オール・ザット・ジャズ』
音楽:ヘンリー・マンシーニ
『ティファニーで朝食を』『酒とバラの日々』『ビクター/ビクトリア』
戦後75周年シリーズ