『アウトブレイク』の悪夢を記憶せよ | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。

 

新型コロナウイルス禍の騒動で真っ先に思い出した映画がこれ。


『アウトブレイク』 Outbreak (95) 128分
梗概
1967年ザイールの傭兵キャンプで新型出血熱の感染が報告されたが、米軍は丸ごと焼き払い証拠を隠滅。90年代に入ると野生の猿を通して合衆国内にウイルスが持ち込まれた。
おかげで人口2600人余りのスモールタウンが壊滅状態に。軍隊が出動したうえで町を封鎖し報道規制を敷いた。さらには、1967年同様町全体を消滅させる挙に出ようとする。
軍医のダニエルズ大佐(ダスティン・ホフマン)は、上司のビリー(モーガン・フリーマン)の命に逆らい、ケイシー(ケヴィン・スペイシー)やソールト(キューバ・グッディング・Jr)、元妻ロビー(レネ・ルッソ)らと生命の危険を冒し解決に当たる。

映画が公開されたあの頃に、タイムリーにもエボラ出血熱の流行が報道され、さらに強烈な印象を残すこととなった。

 *左の男が密輸した猿が宿主だった*
 *この子です*

 *案の定、真っ先に感染・・・*

物語はサスペンス・スリラー物と言えるが、エンタメ性抜群のサービス盛沢山で観客を飽きさせずに2時間強を乗り切る。
軍の陰謀、パンデミックの脅威、感染ルートの推理と追跡、『ブルーサンダー』(83)顔負けの空中アクション、爆弾投下を防げるか否か、クライマックスに向け手に汗握るシークエンスのつるべ打ちでお腹いっぱいだ。


そこに離婚した元夫婦の関係再構築など、お決まりの家庭問題まで詰め込んで、主人公は八方ふさがりに見える中、八面六臂の大活躍。ミクロとマクロで大奮闘。
おかげで2日くらいの時間枠内であっという間に問題解決。しかし、コロナ禍のようなパンデミックの現実を経験した後では、ご都合主義に傾き過ぎて嘘臭く感じざるを得ないだろう。


こうして眺めてみると、アサイラム作品などの低予算B級C級映画っぽいなあとの印象を受けたがそれは逆。低予算映画の方が大作映画のストーリーや問題設定や人間関係、そして爆破で解決のエンディングまでを確実にツボを外すことなく完全コピーしているのであった。

 

 *完全防備で現場に臨む*
俳優陣も好い顔ぶれの役者が揃った。

ダスティン・ホフマンが珍しくも軍服姿で縦横に駆け回り宙を飛ぶ。だが、そこは軍医ということで知性派の側面も持ち合わせている。
小柄な体躯でも存在感は十分で、安定の迫力ある演技を魅せる。自分より大きな軍人に大声で高圧的な命令を下す場面などもさして違和感はない。


後半は、年若い部下キューバ・グッディング・Jrとのバディムーヴィー仕立てで、スリルと笑いがないまぜとなるのがちょっと可笑しい。全編に亘り出ずっぱりの大活躍だ。


 

そのキューバ・グッディング・Jrも俳優として将来を嘱望される立場だけあって力むことなく自然体で好い。


 

上司を演じるモーガン・フリーマンがぎりぎりまでホフマンと対立し続ける強権的なキャラ。
とは言え、そこはフリーマンだけあって憎まれ役では終われない。最後はきっちりと主人公の味方に回る。ここでも安定の演技を披露する。


彼はいつも何を演じても彼以外の何者でもない。M・フリーマンが前景化している。
そこは、同じようにどんな役もこなせるジャック・レモンが、彼自身よりもキャラを印象付ける俳優であることと対照的だ。


 

ケヴィン・スペイシー『摩天楼を夢みて』(92)でJ・レモンA・パシーノA・ボールドウィンE・ハリスそしてA・アーキンら錚々たる顔ぶれの中で堂々と芝居する姿が印象的だった。本作公開年には『ユージュアル・サスペクツ』『セブン』と、今でも語られることの多い問題作に出演し、前者の演技でアカデミー助演男賞を得てもいる。


が、本作ではやや印象が薄いように思える。ホフマンやフリーマンやドナルド・サザーランドなどクセ者揃いの中では、ルックスからして目立たなくなるのも致し方ないことなのかもしれない。


 

『リーサル・ウェポン3』(92)でタフな女性を演じて頭角を現したレネ・ルッソがホフマンの元妻で医者の役。大柄でノミの夫婦みたいである。

見た目のみならず、精神的にもタフな女医に扮して彼を相手に渡り合う。ただの色添えではなく、しっかりとドラマに絡んでくる重要なキャラである。


ちなみに、二人の関係が修復されるように見えるのは、『スピード』(94)でも言及された、いわゆる「吊り橋効果」ではなかろうか。再度破綻することも十分に考えられるだろう。

 

そして、フリーマンの上位に立つボスキャラがドナルド・サザーランドだ。これがまた冷徹なまなざしが光る非情な人間性のキャラ。憎まれ役を一身に背負う。的を射たキャスティングで大正解。


ということで、人物造形はなんとも古臭いパターン通りだが、役者自体は大注目の布陣で楽しませてくれる。

*現場の医師団*

VS

*隠蔽工作に励む軍関係者*

 

監督のウォルフガング・ペーターゼン『U・ボート』(81)以降、娯楽大作に腕を振るってきたが、本作も安定のフォーマットに沿った手慣れた演出でドラマを盛り上げる。

 

 *サザーランド自ら飛翔す*

さて、ウイルスとの戦い=戦争、とフリーマンか誰かが言っていたような気がするが、まさに今回のパンデミックは“戦争”と形容される場面も少なくなかった。

その表現だけ切り取ってみても予見的で、今回の世界的騒動はその成就のようにも思えてくる。

 *第一波と第二波の二種類のウイルス*
 *町を完全封鎖*

 *何人たりとも出入り不可*

 

コロナ禍の第二波は敬遠したいが、本作を思うにつけ、こんな風にすべて上手くいったらどんなにか楽だろう。などと少々羨ましくもあり腹立たしくもあるのだが、皆さんはどう感じられるでしょうか。


本日も最後までお読み下さりありがとうございました。

*耐え忍んだ先には良い結末もあったりする♡*