落合信彦トンデモ本の真実『コロニア』 | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
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今から丁度40年前。週刊プレイボーイ誌上で12週に亘って連載された落合信彦のルポルタージュが単行本化された。

その名も「20世紀最後の真実 いまも戦いつづけるナチスの残党」

冒頭パートはチリ共和国パレル市から60km南西付近に存在する“エスタンジア”訪問記。

落合氏(以降ノビーと表記)のことだから大いに盛ったレポートかと思っていた。

(※エスタンジアというスペイン語は寡聞にして知らず。もしやestanciaのことか。こっちなら、チリやアルゼンチンの大規模農園を指す。それとも独逸語だったのか?)

 

ところが、驚くべきことにそこを舞台としたと思しき映画が登場したではないか。しかも、潜入記ともいうべき内容である。ノビーも、そしてどのジャーナリストも内部にまでは入り込めなかったミステリアスな“エスタンジア”。俄然興味が湧くというものだ。


『コロニア』 Colonia (15独・仏・ルクセンブルグ) 110分
梗概
国際線のCAレナ(エマ・ワトソン)が搭乗する飛行機がチリに到着。久々にジャーナリストの恋人ダニエル(ダニエル・ブリュール)にも会えたが、折悪しく軍事クーデター勃発。彼は反対派の一味として拘束され、元ナチスのパウル・シェーファー(ミカエル・ニクヴィスト)が支配する“コロニア・ディグニダ”(=エスタンジア?)なる農場を装う場所に収容。一派の情報を漏らすようにと拷問を受ける。一方レナは生命の危険を顧みずコロニアに潜入し、ダニエル救出の機会を窺う。


先述の書籍によると、“エスタンジア”とは独逸系移民が運営する広大な農場で、約5千ヘクタール≒千代田区の4倍強の面積を有するという。

そのゲート付近にはチロル地方から移設したかのような家屋が建ち、厳重にガードされて何人たりとも立ち入ること不可。たとえ元ナチス高官の紹介状があっても、紹介者は信用すれども紹介された者は信用しないスタンスだそうだ。

かつてはもっとオープンだったが、内部を隠し撮りしていた者が摘発されて以降はフューラーの紹介であっても入れないほどだという。

しかも、上空はチリ軍も飛行しないそうで、うっかりヘリで偵察しようものなら撃墜される恐れ大いにアリ、とノビーは警告されたらしい。


映画に登場するパウル・シェーファーは実在の人物で、ノビーの著書にも名前が見えるし、きちんとパウル・シェーファー・シュナイダーと記述されているのはWikiと一致する。
そんなことで、偶然にも彼の(怪しい)著書をうっかり購入したうえ、大風呂敷を広げた内容のエンタメ性がすこぶる面白くて繰り返し読んでいたので、個人的には本作を大変興味深く観ることができた。

“コロニア・ディグニダ”

一度内部に踏み込んだら一生涯外の世界には出られないという超閉鎖的コミュニティ。絶対者として君臨するパウル・シェーファー率いるカルト集団である。

恐らくノビー著書の“エスタンジア”のモデルとなったコミュニティを指すのであろう。

 *“教皇”の異名で呼ばれる*
そこではシェーファーによる男児への性虐待が行われていることが示唆される。また、反省会あるいは“自己批判”のような体裁の集いの中で、女性に対する殴打などの身体的暴力も日常的。
娯楽が少ないせいか、集まった男性たちはその集会を一つの楽しみとしているようにも見える。サディスティックな空気感で満たされるシークエンスは気分が悪いものである。

日中は女性も農作業やら何やらの肉体労働者として奉仕。監視役の老女の指図のもと、就寝時間まで全く自由な時間を持つことができないような生活ぶり。

軍事政権の汚れ役として、拉致されてきた政治犯や抵抗勢力を拷問したり生体実験するなどしている。


そんなところに若い女性が単身潜入しようというのも無茶な話だが、そこは映画の中のこと。最終的に脱することができるのは想定内だ。


E・ワトソンが絶望的な状況下で救出の機会を窺い続ける女子を熱演。あのちょっと生意気そうな表情が却ってなんだか不吉な印象を与え、息詰まる重苦しい雰囲気を維持し続ける。


D・ブリュールは拷問のせいで知的障害を負ったふりをして生活するジャーナリストに扮する。おかげで監視の目もさほどではないのだが、人体実験に供される危機に直面。彼女と脱出できるか否か。急激にサスペンスが亢進する。


このスリリングな脱出劇は旅客機が離陸するまで、まさに最後の最後まで持続される展開で嬉しい。ここは『ラストキング・オブ・スコットランド』(06)のエンディングを連想させる。

 *外交官も怪しいし*

 *空港内まで追って来るし*
実際にこの施設は当時の軍事政権と結託して既得権益をキープ。だが、1961年以来長年に亘りナチスの残党を囲ってきた組織も1997年にシェーファーが少年らへの性的暴行容疑で起訴され行方をくらまして以来変化を余儀なくされたようだ。


21世紀に入り、施設内への捜査がなされると、近代的設備の整った様々な工場や病院、大量の武器弾薬などの兵器が発見され、戦車までもが格納されていたという。ひとかどの軍事拠点ともいうべき規模だ。


さらには、幼児虐待、人体実験、拷問などの実態が白日の下にさらされた。

今では旅行者にも開放するなどオープン化しているそうだ。

 *十字架=教会の名を騙り政治と結託*

そんな史実現実と照合して鑑賞すると、チリ共和国の黒歴史の一コマを眺めている気分になり、ドラマが俄かに強烈なリアリティを伴って迫りくる。


もっとも、何らの前情報も無しにフツーに観る分にはアベレージな作品としか感じられないかもしれない。裏を返せば、過激描写や過剰な演出が抑制されているからとも言えよう。

そういった意味ではややインパクトに欠ける常識的良心的な仕上がり具合だが、そこは商業映画だけあってサスペンスフルなスリラー物として十分鑑賞に耐え得るだろう。


あのヨーゼフ・メンゲレも身を寄せていたという“コロニア・ディグニダ”。こういったナチスネタは未だに人々の興味を掻き立てるオカルトじみた「ムー」的雰囲気のテーマである。


しかも、前出のノビー著書の続きは、ナチスとUFOをテーマにしたレポートが山場となる。

これぞある意味、正統血統「ムー」的ワールドのトンデモ本と呼べるのではなかろうかw

 *独逸軍開発モデルⅠ~Ⅲの円盤図面と戦後目撃UFOの写真2葉*

本日も最後までお読み下さりありがとうございました。

*E・ワトソン、施設内に潜入す・・・*

*コロニア・ディグニダ改め“ビジャ・バビエラ”敷地内の現在*