暑い十月の折『夏の遊び』で今年の夏を偲びつつ | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。

訪問ありがとうございます。


先月のレビュー一覧を眺めて少しく笑った。
オーソン・ウェルズイングマール・ベルイマンの間に『センセイ君主』(18)と『ニセコイ』(18)が挟まれている。して、月末にかけてピーター・フォンダのB級アクション三連打。と、一貫性に乏しきラインナップである。


振り返ると、スピルバーグルーカスの作品は一度たりとも取り上げたことが無い。ばかりか、『アラビアのロレンス』(62)や『サウンド・オブ・ミュージック』(65)、『ウエスト・サイド物語』(61)など大物にも触れてこなかった。
じゃあ一体どんなジャンルや傾向に偏っているのか。と考えてもバラバラでこれまた一貫性が欠如。“考えるな。感じろ”みたいな世界だ。


そして今回も前後の脈絡無しのベルイマン再登板である。


『夏の遊び』 Sommarlek (‘51) 96分
梗概
ある日、バレリーナとして活躍中のマリーに小包が届く。それは一冊の日記だった。夜のリハーサルまでの間に、彼女は毎年の夏を過ごした伯母さんの別荘を訪問。そこで、大学生だったヘンリックと過ごした13年前のひと夏を偲んだ。

彼は、海に飛び込んだ際に岩場での打ち所が悪く死に至る。そこから彼女は、当時“伯父さん”と呼んでいたエルランドと交際することになる。別荘内でマリーはエルランドに遭遇。彼がヘンリックの日記を送り、関係を再開することを目論んだのだ。彼女は拒否し劇場へと戻ってゆく。バレリーナとしては衰えを感じ始めているが、過去と決別して前向きに生きようと決意する。

ベルイマンの主だった作品群では、ほぼ最初期の一本。フランソワ・トリュフォー監督『大人は判ってくれない』(59)でリスペクトを表明したことが今でも語り草の『不良少女モニカ』(53)以前のものである。


それゆへか、円熟期のベルイマンに慣れ親しんだ人には初々しく感じられることだろう。

それに『野いちご』(57)以上にハードルが低いので、誰でもフツーに観ることができる。


物語は単純である。衰えを感じ始めた一人の孤高のバレリーナが13年前の二ヶ月あまりの避暑地の出来事を回想し、悲嘆に暮れそうになるも踏みとどまって将来へと目を向ける。といった塩梅。


『野いちご』のようなフラッシュバックの手法で、マリーが15歳くらいの少女時代の経験をあぶりだす。と同時に小道具としての日記帳は『叫びとささやき』(72)での遺されたそれを連想させる。

 *『野いちご』*
『野いちご』は老主人公の「薔薇のつぼみ」だった
 
*『叫びとささやき』*

 

人生これからの純真無垢な少女にとって毎日が楽しいことばかり。死とは無縁のはずであった。そんな彼女が己の周囲に壁を築き、他者との親交を深めずにいるようになったきっかけはその夏親しくなったヘンリックの不慮の死だった。


回想シーンは夏の避暑地での明るく愉快な日々を映しだす。が、ところどころに彼女が目撃するであろう死を暗示する記号が刻まれている。


ヘンリックは祖母に引き取られており、経済的には彼女に依存している。その祖母が司祭とチェスの対局をする。司祭は彼に、彼女と向き合うことでおのずと死と向き合っている心持になれる。聖職者として貴重な体験。みたいなことを言う。だがマリーは、私は死なないわ。と無邪気にのたまう。


これも『第七の封印』(57)でマックス・フォン・シドーがチェス盤を前に死神と向き合うシーンの原型と思える。

 *『第七の封印』*
 

一方、現在のマリーは28歳かそこらだがバレリーナとしての将来に不安を感じる日々。歳下の新聞記者の青年とも上手く応対できない。どこか人生を諦観したかのような印象だ。
このあたりは後年のベルイマン作品の中で人生に苦悩する人物群の始祖のようである。

 *一葉の絵画みたいだ*

 *新聞記者の彼氏と*
 *策士エルランドおじさん(元カレ)と*

 

事ほど左様に30歳を越えたばかりの監督が瑞々しい感性を発揮するとともに、粗削りながら独自の手法を駆使して撮りあげた小品は、彼の方向性を明快に指し示す貴重な映像と言えよう。

 *左)彼の愛犬ワンワンが常に付き添う*
 

初期ベルイマン作品を支えたグンナール・フィッシェルによるカメラワークも抜群で、ディープフォーカスをも観ることができる。

モノクロフィルム撮影が極めて美しい。北欧の短い夏季の輝き=青春時代がまぶしく投影される。

 *ワンワンはプードルである*


 

ベルイマンにしては極めて珍しきことだが、なんと劇中にて落書きがアニメーションとして躍動。心温まるシークエンスに思わず笑みがこぼれる。

彼と相性が悪い人でも本作を観ればちょっと見方が変わるやも知れぬ。

 

本日も最後までお付き合い下さりありがとうございました。


*希望の下に終幕*

 

監督:イングマール・ベルイマン
『処女の泉』『秋のソナタ』『ファニーとアレクサンデル』
撮影:グンナール・フィッシェル
『不良少女モニカ』『夏の夜は三たび微笑む』『魔術師』
音楽:エリック・ノードグレーン
『不良少女モニカ』『夏の夜は三たび微笑む』『魔術師』

 

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