シニカルでブラックな笑いと人間ドラマが横溢『ゾンビ』(再掲・追記) | 徒然逍遥 ~電子版~

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G・A・ロメロ監督追悼特集

7/16逝去 77歳
 

高校時代さんざんスプラッター映画も観ましたが、ゲテモノ映画と一線を画する一本がこれ。

ゾンビDVD-USA
『ゾンビ』 Dawn of the Dead (Zombie) ('78)


梗概
ある惑星が爆発し人間の死体を蘇生させる光線が地球上に降り注いだ。そのため死者が甦り生きた人肉を喰らうという驚愕の事態発生。
刻々と悪化する現状に見切りをつけたTV局勤務のフラン(妊娠中)とスティーブンはSWAT隊の友人ロジャーと共に合流したSWATのポールも含め四人でヘリでの脱出を図る。
とあるショッピングモールに仮寓。ゾンビが侵入できないよう工夫すれば物資があふれんばかりの安全地帯だ。
が、バリケード構築作業中にロジャーが襲われる。ゾンビ化したがポールに殺られる。次いでヘルス・エンジェルの襲撃をしのいだもののスティーブンが襲われゾンビに。彼もポールに撃たれ眠る。
遂にフランとポールはヘリで夜明けの空へ飛び立つ。
ゾンビ-5

先ず何が印象深かったか。ゾンビの食人シーンはあまりにも凄惨でいやでも記憶に残る。だがそこではない。

主要人物の生存者が白人の妊婦と黒人という組み合わせだったことだ。


衝撃的な場面に隠されるきらいがあるがこれは何とも斬新だ。思い起こしてほしい。翌79年の『エイリアン』を。

『エイリアン』の生存者を見よ!:参照


それに先駆けた設定は注目に値する。70年代に増加しつつあった“ステップファミリー”を思わせるラストシーンだ。彼らが生き残れば現代のアダムとイブ的ポジションを獲得し得るはず。


勿論当時はそこまでの考えは埒外にあったが異質な生存者という印象は30年以上経過しても薄れることが無かった。でも今では『エイリアン』共々黒人と女性の描き方の変化の予兆として捉えているが如何なものだろう。


さて、全編通して実に皮肉な描写も見られる。
軽快なBGMと無関係にスケートリンクを歩き回るゾンビたち。陽気な曲が流れるセンター内を青白い顔をしてうろつくゾンビたち。すんごいミスマッチ感覚が横溢する空間と化している。


ゾンビたちは生前の記憶の残滓に動かされショッピングモールに集う。それぞれ関心あった売り場へと向かうのだ。例へば子供は子供専用の売り場へと。あるひは銃に執着するヤツとか。
だがうろつくのみで商品に手を伸ばすことはない。貴金属類、化粧品、札束なども猫に小判だ。ひたすら休まずに人肉を求めるのみ。


だが生存者は物欲に支配されがちだ。
ヘルス・エンジェルは略奪の限りを尽くす。TVを持ち去ろうとして仲間にそんなもの役に立たない、と言われ破壊するヤツ。考えてから手に取れ。そう言へばワイシャツとネクタイを手に取り投げ捨てるヤツもいたな。
あさましくもゾンビから貴金属類を奪うヤツ。衣類をしこたまかき集めるヤツ。銃器類を片っ端から持ち去るヤツ。


血圧を測ることに固執して左腕だけ残して喰われるヤツもいた。血圧ゼロの表示が出た。笑うところか否か戸惑う場面だ。

中にはゾンビに襲われて生きたまま食いちぎられるヤツもいた。臓物が引きずり出されていた。痛いだろうなあ。


だが物欲に駆られるのは奴らだけじゃない。
そんな連中を見て苛立つスティーブン。あれはみんな俺たちの物だ。とつぶやきポールの制止も聞かず発砲する。結果スティーブンはゾンビに襲われ絶命する結果を招く。


その前にロジャーはバリケード作る最中に襲われてとり落としたバッグに執着し過ぎた。強引に取りに戻ったがふくらはぎを食いちぎられた。痛いだろうなあ。結果死亡
ゾンビ-ロジャ&スティーブ
   *スティーブン(左)とロジャー*


あたかも後ろに残した物質的所有物が名残惜しくて警告を無視して振り返った結果、塩の柱となったロトの妻の失敗を地で行くようなケースばかりだ。


一方フランを逃がして拳銃自殺を図るポール。だが大切な銃までゾンビに奪われつつも丸腰で何も持たずにヘリに飛び乗る。彼はモノではなく「命」に固執した。生きる執念を見せた。


結果映画内では死を免れたうえ“死者たちの時代の夜明け(Dawn of the Dead)”から逃れ新たなる人類社会の始祖となり得る立場を得た。
ゾンビ-0

我々も彼に学ぶところ大だ。物欲が身を滅ぼすという寓意があるかどうか不明だ。が、この恵まれた世にあっていざという時の優先順位を誤ることへの戒めと捉えることは可能だろう。

 


さて、妊婦フランについて述べよう。
TV局勤務のワーキングパースンだけあって他力的な考えよりも自立的・能動的な生き方を望んでいる。それはスティーブン(胎児の父親)から指輪を提供されてもとりあへずは断る場面からもうかがえる。シングルマザー的立場を仮選択。

そして山とある貴金属類や衣類にも執着しない。ほぼ無関心だ。

 

この二人は生きることにしっかりとフォーカスしていた。所有物から生命は生じないことを理解している。ゾンビたち死者を見よ。彼らにとってもはやモノはなんら価値無き存在だ。
死んだ二人はいつの間にか思いがモノ=目的へとシフトしていた。優先順位の転倒だ。残念なことである。

 


彼女は守られるより他のメンバーの役に立つ実作業がしたい、と申し出る。そこで援護射撃できるようライフルの使用法とヘリの運転方法を学ぶ。
そして最後に彼女の運転技術が二人を延命させるのだ。


この夜明けは黒人と女性にとっての新たなる時代の到来を予感させる時なのかもしれない。
ゾンビ-1

ゾンビ-2
ゾンビ-3

ゾンビ-4
ゾンビ-6 *死者たちに見送られて・・・*

ちなみに四人が脱出ヘリに乗り合わせたときの隣席がこの二人。

そして映画の冒頭は彼女から始まる。ここからも既に結末が伺えるはずだったのだろう。


ゾンビ-op1
以上。『ゾンビ』が凡百のスプラッター映画と異なり、消費文明へのシニカルな視線と人間ドラマが伏流していることの一端をご紹介。

 

ただ個人的に残念に思うのは、メッセージ性の強い優れたドラマなのに残虐シーンが挿入されているゆえ万人にお薦めするのが躊躇われることだ。

そこは大丈夫、と言ふ人には是非とも観て欲しいフィルムである。


本日も最後までお付き合い下さりありがとうございました。

ゾンビDVDゾンビDVDディレクター
   *バージョンいろいろDVD*


Dawn of the Dead (Zombie)

監督・脚本:ジョージ・A・ロメロ
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』『クリープショー』『バイオハザード2』
音楽:ゴブリン
『サスペリア』『サスペリアPART2』『フェノミナ』