勇気を失うな、『くちびるに歌を』持て、心に太陽を持て | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。


2015年夏のTVドラマ『表参道高校合唱部!』出演の若手俳優たちの仕事ぶりが見たくて選んだ中の一本がこれ。


『くちびるに歌を』 (’15) 132分
梗概:長崎県五島列島の小さな島の中学校に、地元出身のガッキ―扮する産休音楽教師が赴任する。

身重の教師(木村文乃)もジモティで、二人は幼馴染だった。その友人のたっての願いと生徒たちに動かされて無理やり合唱部顧問に。しかしやけに投遣りな態度に驚き戸惑う生徒たち。

実はガッキ―は一流のピアニストだったが、とある心的外傷ゆえ今は弾くことができなかった…。

彼女目当てに男子生徒までもが入部。家庭問題を抱えた生徒たちもいるが、それでもひたむきに生きる様を目の当たりにし、徐々に変化を見せるガッキ―。

合唱コンクール目指して部員一丸となって邁進しはじめる。

 *ガッキーと木村文乃。後方の壁にモットーが*


DVDを手に取り、真っ先に確認するのが上映時間。当然本作もチェック。
しっかし、132分は長いな~。と不安になる。のは仕方ない。
何故なら、ま、素人風情がこう言っちゃあ何だが、正直なところもっと短くできるだろう。と思えてしょうがない作品がたんとあるからなんだな。


次いで監督は誰?と見ゆれば、あの三木孝浩(『ソラニン』『ホットロード』『青空エール』)。
ん~…ビミョー。


でも、とりあへずは観ないことには始まらないので鑑賞鑑賞。俳優に注目注目。
目当ては柴田杏花葵わかな

 *『表参道~』の柴田と葵*
…が、二人とも準主役級のポジションに留まり目立った活躍は見られず残念。

でも彼女らは、女子の中心人物四人組の一員なので出番も多いしセリフも多い。じっくり観察できた。

柴田は主役の一番の友人役、は指揮者担当である。眼鏡がとてもお似合いだ。
二人とも役柄とシチュエーションに溶け込んでナチュラルな芝居ができていた。役者だなあ、と感心感心。

 

したところ、四人組中の主役、恒松祐里が目を見張る好演をしており嬉しい発見。
さらに、男子の一番目立たず、体も小さい、自閉症の兄を見守る役を演じた下田翔大にも感服した。

詳細は省くが、この二人がそれぞれ家庭で問題を背負っていてちょっと切ない。
 

で、涙を誘うエピソードも当然挿入されるのだが、感心なのは脱線からギリギリ留まっていて、妙な具合に話が逸れていかなかったこと。ここは手堅い演出と編集の成果。


でで、恒松は表情もセリフ回しもほぼ完璧なまでに女子中学生を再現してくれた。

うざったい中学生男子への非難批判は、まさにあるある的。

脚本も上手いが、彼女が主張することでリアリティが付与された。
両親がいなくて祖父母と暮らすが、つらい現状を乗り越えようと自ら奮い立とうとする健気さが心に迫る。ちょっとした逸材だと思う。NHK朝の連ドラも似合いそうだ。

 *恒松佑里と下田翔大*
 

下田は、三年なのに体格は貧相、体育教師には正しい名前を呼んでもらえず、クラスの中でも目立たない。声も態度も小さく、消え入りそう。なのに、部員となることで自分を仲間扱いしてもらえることが初体験。喜びを表すことにも不慣れな様子にグッと来る。
何故人は生きるのか。中学生にして人間の根源的問いを発する心境を察してやりたい。


その他印象的だったのは、四人組の中では一番控えめだった山口まゆ
だが、その笑顔がとても素敵で、髪型のせいもあるのだろうが、そこにいるだけで妙に印象的な存在だった。
下田演じる無存在的な男子のこともちゃんと評価してくれていた。年甲斐も無くちょっと胸がきゅう、となった(苦笑)

     *山口まゆ*           *四人娘。柴田、恒松、山口、葵*
 

皆もはや中学生という年齢ではなかろうに、本物の中学生と見紛う化けっぷりに感心しきり。元来童顔な人達ばかりなのか?


ところで、ガッキ―なんだが、彼女がぶっきらぼうで無表情な石地蔵の如き音楽教師、というのはどうだろうか。
彼女の場合、声としゃべりそのものが可愛らしい音色があって、それがしばしば場違いなシーンで聞こえてくる。しかも感情を抑制している役どころなので、彼女の魅力的な表情にも中々遭遇できない。
それはそれで幅のある演技をこなすという意味では良いと思うのだが、このキャラはちょっと不相応だろう。むしろ友人役の木村文乃の方が合っているのではないか。

     *アンジェラ・アキの 『手紙~拝啓 十五の君へ~』 を歌う*


 *木村文乃。ドライな雰囲気あり*          *『二十四の瞳』みたいだ*

 

ガッキ―は、TVドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』のように“女子”を演じてこそ輝く素材だ。

 

例へば、映画『フレフレ少女』の始まりから終わりに至るまでの変身ぶりは素晴らしいと思う。表情には、笑いも涙も憂鬱も驚きも優しさも厳めしさも真剣さも、あらゆるパターンが反映されていた。
それまで彼女の良さが分からなかったが、その魅力に開眼した一本だった。

ガッキー観たけりゃ『フレフレ少女』:参照


蛇足だが、体育教師役の桐谷健太が場違いなノリで道化役を引き受けていたが、全然邪魔にならず、物語をせき止める事態も無く好い味出していた。

        *いい人。桐谷*                   *合唱部員たち*


さてさて、この映画。思ったよりも全体が抑制され、過剰な演出、音楽、演技が控えられていて好感した。

さりげなく、教会が住人たちの生活の一部となっている様を描くところなど好い感じだ。当地の歴史的背景に気付かせてくれる。


また、伏線のようなものがきちんと回収される。ああ、そうだったのか。との気付きが得られる時の心の高揚感も高まったし。


ただ、それでも2時間は少々長かった。やはり編集にもう一工夫欲しかった。
それから、部員の練習風景をもっと見せても良かったんじゃないだろうか。コンクールへの緊張感、期待感を高める要素となったろう。
でも三木孝浩監督をちょっと見直した。

*ガッキーが気になる男子部員。あくまでも真面目な女子部員*


最後になるが映画公開当時、女子部員7名が臨時の音楽ユニットLips!を結成(恒松佑里、柴田杏花、葵わかな、山口まゆ、朝倉ふゆな、高橋奈々、植田日向)。 *Lips!の全メンバー*

本格的に楽曲を提供するなどの活動が報じられていた。
『スイング・ガールズ』の例に倣ったのかも知れないね。


本日も最後までお付き合い下さりありがとうございました。