大雪だったから引き籠り計画再発動~その2『アーティスト』 | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。

 


土曜日積雪の中DVD三枚レンタル。ゴム長履いて徒歩で行った。『ダイ・ハード』『アーティスト』『クィーン』という脈絡の無い選択。一枚50円だ。
日曜午前9時から夕刻16時までの除雪でダイハード。夕飯後の鑑賞はこれ。


『アーティスト』 The Aartist ('11)


梗概
1927年サイレント映画からトーキーへと移行期少し前の時代。映画スターのジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジュルダン)はエキストラ女優ペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)と出会う。彼はペピーに特徴を出してみよう、と黒子を描いてあげる。
トーキーで出世街道まっしぐらのペピーに対しサイレントに拘るジョージは自作の映画はこけたうえ借金もかさみブラックマンデーが追い打ちをかけすっかり零落。
さらに泥酔した拍子に過去の主演作のフィルムを自室内で燃やし焼死寸前。愛犬が警官を呼んで一命は取り留める。
ペピーが彼を引き取ることに。が、どうにも自尊心が傷ついたジョージは自宅に戻り拳銃自殺を図る。が、すんでのところでペピーが駆けつけ復帰作のアイディアを披露する。

アーティストちらし

2011年度アカデミー賞作品賞、監督賞、主演男優賞、音楽賞、衣装デザイン賞を受賞。
ジャン・ドゥジャルダン
    *主演男優賞*


フランス製の白黒映画。しかもサイレント。この時代にあって意表を突いたフィルムだ。
アーティスト-4
ベレニス・ベジョ


キャストに触れさせて頂きたい。
ジョージに忠実な運転手がジェームズ・クロムウェル『L.A.コンフィデンシャル』の黒幕役や『グリーン・マイル』の刑務所所長役などが印象的だ。長身であの風貌は一度見たら記憶に残るだろう。


映画会社社長はジョン・グッドマン『ザ・ベーブ』でベーブ・ルースを演じ『ブルース・ブラザーズ2000』ではダン・エイクロイドの相棒役で芸達者なところをみせた。


意外な人物。ペピーの運転手役にエド・ローター『ロンゲスト・ヤード』の看守役が鮮烈。
ほんの脇役でマルコム・マクダウェル『時計じかけのオレンジ』の主役が強烈。


そしてカンヌ国際映画祭でパルム・ドッグ賞受賞のアギー(ジャック・ラッセル・テリヤ?)。可愛らしくも大熱演だ。
アーティスト-1
アーティスト-2
      *いつでも一緒*

さて、サイレントゆえゼスチュアとセットや背景、衣装や小道具などに語らせることも必要。


上手いのはジョージと奥方の関係が冷え込む移行の表現。食事のテーブルで奥方の背後に置かれた男女の胸像の間隔がショット毎に徐々に広がっていく。溝が進行していくのだ。
気のせいではない。ちゃんと巻き戻して確認した。


それとペピーがエキストラとしてスタジオに居たが社長に出て行け、と怒鳴られた時のジョージへの照明。
向かって右手の社長以下の人物には無い陰影がジョージの顔右半分だけにつきまとう。話しかけられるペピーは全体がやや薄暗いが陰影はゼロ。


丁度この時点をピークにジョージの転落。反比例してペピーの上昇が開始されるのだ。その符牒となるのが不吉な陰影だ。まずあり得ない照明だ。意図的であるとしか思えない。


さらに三階分の階段のフルショットで一・二階の踊り場付近で二人が会話する。が、彼女は登り途中で見下ろし、彼は下り途中で見上げる構図だ。
彼はたった今独立を宣言してきた帰り。彼女は会社と契約できたと嬉しそうに語る。二人の対照的な未来を分かりやすく視覚化していた。

アーティスト-3

さて、二人はミュージカル映画での共演を果たす。だが社長へのデモンストレーションでのタップダンスシーンにタップとクラップの「音」が入る。が、「声」は無い。
その映画撮影のシーンでも同様。しかも今度は息遣いまで聞こえてくる。と思ったら監督の「カーット」という「声」と社長の拍手など他の「音声」も一斉に流れ込んでくる。
最後に映画史の小劇場が演じられたのだ。


だが、本作の途中で奇妙な現象が発生する。ジョージの夢だ。彼の声が出ないのだ。頑張っても出てこない。なのに周囲の音声はちゃんと出る。チン、カン、ガサッなどのノイズが。
我々が観ている映画はサイレント。でも役者は撮影時に発声は可能だ。動けば物音も発生するし。ただフィルムに刻まれないだけのこと。なのに声が出ないことにいらだつ場面。


ここは映画をメディア論にまで踏み込んでの考察を要求しているように思える。恐らくは最も重要かつ示唆的なシークエンスだろう。
マクルーハン以降のメディア論に関心ある方は一度本作をご覧頂きたい。


閑話休題
実に映画愛溢るるフィルムの登場だ。シネフィルたちも楽しめるし談論風発する際の材料としても使えそうだし。
映画好きの方々にはお勧めしよう。この一本を。


本日も最後までお読み下さりありがとうございました。
アーティストDVD

The Aartist (101分)
監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス
『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』
撮影:ギョーム・シフマン
『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』
音楽:ルドヴィック・ブールス
『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』
衣装デザイン:マーク・ブリッジス
『ブギーナイツ』『8Mile』『キャプテン・フィリップス』