花袋の川原湯温泉・吾妻渓谷訪問記『温泉めぐり』 | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。

 


先般ダム建設で水没する川原湯温泉街と国指定名勝「吾妻峡」の話題を若山牧水『みなかみ紀行』から拾いました。
本日はこの人のガイド本です。
田山花袋

田山花袋『温泉めぐり』 ('26)

二十四 吾妻の諸温泉


「しかし吾妻の温泉の中で、風景の点から言って、河原湯の谷が一番すぐれているのは誰も皆ないう。…一歩一歩山巒の中に入っていくにつれて、両岸の山は次第に蹙(ちぢ)まり、渓谷は深く穿たれて、水声の鳴る音が漸く高くなって来る。淡竹(まだけ)の藪が両岸に多く…その中を筏が五つも六つも、或は渓潭(けいたん)に、或は奔湍(ほんたん)に点々として流されて下して来るさまは、絵もまたこれに如かじと思わせるほどである」

と渓谷の景観を評したうえで耶馬溪との比較を持ち出します。
耶馬溪
      *耶馬溪の景観*


「かつて志賀矧川氏は、これを耶馬溪の谷に比べて、その美観は到底かれはこれの敵にあらずと言っているが、単に渓として見れば、実際そうだ……。」
「ここには耶馬溪の持ったあの浸蝕作用の十分に働いた岩山はないけれども、樹が深く、谷の瀬が美しく、それに対岸処々に起伏する小山巒に特立兀立(とくりつこつりつ)したものが多いので、毛尾国としての変化は非常に複雑しているのを私は見た」
と、文豪にしてはどうも上手い文章ではないように思われます(笑)


が、流石というべきか読解困難な漢字が並んでいてフリガナ無しでは往生させられること請け合いです。
そして温泉街に話が及ぶことに。
川原湯温泉街

「河原湯の温泉は、この渓谷の中に位置している。人家七、八軒、蕭条とした温泉場ではあるが、または沢渡とはいくらも違わない程度の温泉場ではあるが、春の河鹿のなく頃、秋の山の錦?(にしき)を織り成した頃、静かに来て一夜泊れば、その清輿は容易に他に求めることは出来ないであろうと思われる」
と、ちょっと行ってみたくなるような名文句、と言いたいところですがやはり句切りが悪い素人っぽい文章ですね。これなら毎日ブログを書いてる人たちの方が上手いようです。


次いで草津へのルートにも言及します。
「それに、田舎の温泉で好いなら、ここから草津に行く間にも、沢山に小さな温泉がある。そういうところに一夜寝て、山中の民の生活を目にするのも、また旅の捨て難い興ではないか」


確かに川原湯と草津の間には秘湯とも言へそうな小さな温泉場が点在しています。
例へば川原湯のちょっと手前あたりに川中温泉松の湯温泉が。草津への登り口あたりには応徳温泉湯の平温泉があります。


さらに自然主義派の領袖だけあって「民の生活」に着目するところは眼光鋭さを感じさせると思いますが如何でせうか。


さて、こんな温泉ガイド本ですが楽しく手軽に読めますよ。岩波文庫から出版されてますんでよろしければどうぞ。
温泉めぐり

本日も最後までお付き合い下さりありがとうございました。