ポワチエからワシントンまで~黒人オスカー歴代史で見る米国社会情勢~その3 | 徒然逍遥 ~電子版~

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先回は“アメリカンニューシネマ” “ブラックスプロイテーション映画”以降黒人俳優の活躍の場が広がりエディ・マーフィーが主演俳優として成功したことまでを述べた。


しかし黒人はずっと以前からミュージシャンやコメディアンの職域では“大物”が大勢いた。前者ではジャズ系が黒人の独擅場だったし後者ではサミー・デイヴィスJr.リチャード・プライヤーがいた。
サミー・デイヴィスJr  リチャード・プライアー
 *サミー・デイヴィスJr.*           *リチャード・プライヤー*


つまり社会的に彼らはそっち方面においての活躍の場が用意されそして期待されていたのだろう。それが彼らの役割だと言わんばかりに。


変な見方をすれば彼らをそこに閉じ込めておき白人は自分たちの領域の既得権を固守していたとも考えられる。


だからこそとりあへずは代表選手シドニー・ポワチエだけに“白人よりも白人的”な役柄を付与して特権的立場にいることを許したのではなかろうか。穿った見方か?


さて70年代後期から80年代にかけてローレンス・フィッシュバーン『マトリックス』シリーズのモーフィアス『TINA』 ('93) で主演賞候補)、モーガン・フリーマン『ミリオンダラー・ベイビー』 ('04) で助演賞)、フォレスト・ウィテカー『ラスト・キング・オブ・スコットランド』 ('06) で主演賞)ら後にビッグになる俳優たちが目立ってきた。

ローレンス・フィッシュバーンフォレスト・ウィテカー

モーガン・フリーマン
 

サミュエル・L・ジャクソンも頭角を現した一人だ。
彼は黒人監督のスパイク・リーの一連の作品で活躍しタランティーノ監督『パルプ・フィクション』 ('94) で助演賞候補にもなった。

『ダイ・ハード3』 ('95) でマクレーンの相棒役が大注目。『スターウォーズ』シリーズ出演へとつながってゆく。

サミュエル・L・ジャクソン
 

では1987年『遠い夜明け』で助演賞候補。『グローリー』 ('89) で助演賞受賞。スパイク・リーの問題作『マルコムX』 ('92) 、『ザ・ハリケーン』 ('99) で主演賞候補。遂に『トレーニングデイ』 ('01) で主演賞を受賞。誰だろうか。


そう、デンゼル・ワシントンだ。


彼こそは黒人俳優に求められてきた役柄=下層社会の住人、悪役、気のいい脇役、アクション、コメディアン、エンターテイナーといったステレオタイプ化されたキャラで売ってこなかった人物だ。

他の黒人俳優たちと比較するとその役柄はもっとハイソサエティな感じを受けぬことも無い。エリートっぽい社会的地位の人物像みたいな。


例へばモーガン・フリーマンはどうか。彼はあくまでも黒人が黒人を演じるという範囲内に留まっている。『ミリオンダラー・ベイビー』の役は従来通りの黒人俳優用の役っぽい。

『インビクタス/負けざる者たち』の故マンデラ氏もフリーマンならではといへるし。
サミュエル・L・ジャクソンはというとこれもまた従来の黒人俳優の規範からさほど遠いところにはいる感じがしないだろう。ワシントンよりも一層黒人ぽい配役が多い。


こう見るとワシントンは白人俳優と交換可能な立ち位置にいるような気がしてならない。彼の役を白人が演じるのもOKみたいな。


彼が一番気にしているところはここではないか。

つまり現実社会で活動している等身大の黒人を多彩に演じることを。決して卑下することなく誇り高く演じることを。

デンゼル・ワシントン

弁護士、医師、警察署長、特別捜査官、パイロット、CIA工作員などのエリートクラス。そして多いのが軍人や警察関係者といった役柄だ。変わり種はボディ・ガードや高校フットボール・コーチ、機関士など。


ポワチエの時代のように白人寄りになることに心を砕かず。従来の黒人のステレオタイプを演じることを潔しとしない。そんな印象だ。


だが気を許せば用意された黒人専用のキャラクターをあてがわれる恐れは残存しているのではないか。当事者としてワシントンは常に警戒しているかもしれない。


もしそうであればやはり戦いは続いているのだ。

何かがトリガーとなって潜在的な差別意識が顕在化する可能性を完全には排除しきれないだろうことは想像がつく。


彼はこれからもきっと我が道を行くだろう。ポワチエの衣鉢を継ぐ者という立場でも。


本日も最後までお付き合い下さりありがとうございました。

 

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記事:ポワチエからワシントンまで~黒人オスカー歴代史で見る米国社会情勢

ポワチエからワシントンまで~黒人オスカー歴代史で見る米国社会情勢~その1

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ポワチエからワシントンまで~黒人オスカー歴代史で見る米国社会情勢~おまけ