VFR750R 470km | 角目好き

角目好き

四角いライトいかがです?

12月は朝から気合いが入る。スーパーバイクを引っ張り出して走り出すのはわけもない。毎年冬になると、「全勝で行こう」と勝手に言葉が浮かんでくる。今年は膝をいたわって雪山にはまだ行かないけれど、SBでフルバンクするなら同じようなものだ。

朝5時半過ぎに出発した。整備から戻って来たRC30は絶好調だ。ところが試練は6時半を前に訪れた。横浜新道から国道1号に入り暫くするとギアが入らなくなった。歩道に上がりサイドを出すと、コロコロコロ。シフトペダルが垂れ下がっていて、そこから六角ボルトが転がり落ちた。

 

どうやらシャフトとペダルを一緒に留めていたボルトが緩んで、バックステッププレートに切られたネジ穴から外れたようだ。ボルトが停車まで粘ってくれて助かった。無かったら身動きが取れなかった。

 

 

藤沢市内のホームセンターを調べると朝6時半開店のお店がすぐ近くにあった。ついてる。必要な工具と材料を買ってレジを出るとおばちゃんが、「行ってらっしゃい」と勇気づけてくれた。長めのボルトでプレートにねじ込んで裏に外れ止めナットを留めて一件落着となった。

国道ではすでに、海岸にむかうツーリングチームがいくつも走っていた。西湘BPには上がらず海岸道路を進むことにした。

小田原の手前のコンビニに入っていった。5,6台のバイクチームが視界に入った。熱い視線を向けてくる。ちょっと離れて停まってお店に入った。

店から出てきて眺めると、地べたに座ったライダーがみんなはたち前後ということに気がついた。並んだ中型や大型のレプリカバイクにハイグリップタイヤを履いているのに皆普段着だった。

一人が「こんにちは」と声をかけてくれた。「みんな気合が入っているね」というと他の子が、「はい気合入っています!」。私は嬉しくなってしまった。「みんなみたいな若い子が気合い入れて走ってるのが嬉しいよ」と言っていた。しばらく会話を楽しんで、支度をして、駐車場から道路に向かいながら振り返った。すると、それまでしゃがんでいた若者は全員立ち上がり、大きく手をふっていた。

 


伊豆半島の付け根で、国道1号を左折した。ここからは終点まで一本道だ。そこそこの流れで、日差しは既に暑かった。

真鶴有料道路には入らず、旧道に右折した。ここは前半から中盤まではただの山道で、終盤になると、見通しが良くて、きれいな路面で、回り込んだコーナーが現れる。

真鶴駅を見下ろす直線、つまり終点まで走ってからUターンをした。最終エリアだけを往復したかった。コンビニの若者たちは私の革ツナギの削れたスライダーを見ていた。もうちょっと削っておこう。

 

攻めだして気がついた。いつもの感覚で大きく寝かせても膝がヒットしない。次のコーナーも。ではと、もうちょっとオフセットしてようやくヒット。そして気がついた。RCの車高は高くて、立ちが強いことに。それからはサスセットを考えながらの走行となった。

湯河原に出てサスを調整しようと思ったものの、エキパイが熱くて手が入らなかった。熱海で休憩を取ってエキパイを冷ますことにした。

 

 

熱海のマリーナは夏の陽気だった。着ていたウインドストッパーを脱いだ。暫くするとリアサス伸び側に手を入れられるようになった。去年のシーズン中にリアをダンピング不足と感じて全締めにしていたのを思い出した。これを3クリック緩めることにした。

長浜、網代、宇佐美を超えた。ダラダラとした車列が続いていた。リア伸び調整の効果は現れていた。車体にはメリハリが出た。リア伸びをもう少し抜いてみようと伊東のマリーナに入ることにした。

 

追加の3クリックをした。朝から都合6クリックも抜いている。走り出すと、車体が寝たら起きてこないことが気になった。次の休憩で2クリック締めよう。

道路は段々空いてきて、ツーリングの気分が盛り上がってきた。稲取の岬には建物がびっしりと建っているのが見渡せた。人口密度高いな。

 

 

下田市に入った。白浜海岸に入ってすぐにファミリーマートが出来ているのに気がついた。空いている。少し早いけれどここでお昼にした。

 


浜に出て海を眺めた。風もなく穏やかな海は夏が終わったばかりのようで、熱い日差しにひんやりとした風が心地よかった。

それから下田の街なかに入って行った。学生時代に住み込んだ思い出が蘇り、ここでしか味わえない感情が蘇ってきた。来てよかった。あの頃はVTZに乗っていたっけ。

 


若い頃は前を見ていて、年をとると後ろを見る。体が動かなくなっても思い出があれば生きていける。のだそうだ。そう本に書いてあった。ここに来ると昨日のことように景色が蘇ってくる。

 


この国道の終点には弓ヶ浜がある。ここには波が立たないのでサーフィンをしには来なかった。だから思い出はなく、あるのは目の前にある現実で、ここで気持ちが入れ替わる。前に向かって突き進むのだ。木陰で座って腕を組んで10分ほど眠った。

 


この先のマーガレットラインでは一瞬も気を抜いてはいけない。リアルを目の当たりにして、全勝で行かなくてはいけない。白浜海岸で締めたリア伸び2クリックで、寝たら起き上がってこないという症状が消え、ツーリングタイヤでここまで動けば上出来という着地点となっていた。

13時を回っている。石廊崎に向かう道はガラガラで、バンク途中でバンクを止めたり進めたりのキレが車体に戻ってきている。集中出来ている。体もリラックスしている。

軽くゾーンに入れた。もうひとりの自分が操縦する。景色がゆっくり流れる。頭は冴え渡っている。HRCのCDIは二次曲線的な吹け上がりと盛大なV4の共鳴音を撒き散らす。RC30は本当にわかりやすい。どんな状況なのかがすごく伝わってくる。そして、F3.0・R4.5幅のホイールに、110/70R17、160/60R18のタイヤが納まる。距離バ○専用の楽ちんセットだ。おかげで8時間かけて来てからフルバンクに没頭出来る。

 

 

こうして雲見の海岸線に出ると終了だ。あとは入り組んだ海岸線と漁港の景色を眺めながらのクールダウンとなる。

そして黄金岬を超えると仁科峠を挟んだ第二ラウンドが始まる。マーガレットラインよりハイスピードな終盤を終えると終点のR136に到達する。暖かい日差しが最後まで続き、高原地帯を誰にも阻まれること無く自由に駆け抜けられた。

 


月ヶ瀬まで下っていくとそのまま無料高速に入れる。修善寺で降りて、山伏峠を超えて、東伊豆の長浜へ出る。いつものコースだ。既に長距離ライダーの省エネ帰宅モードになっている。あとは来た道を戻るだけだ。

こうして弓ヶ浜を出てから5時間で帰ってきてしまった。使った有料道路は往復の三京と横新だけ。そして体の疲労はハンパない。だけどマーガレットラインと仁科峠でのRC30との対話は最高だった。下田で思い出を拾った後の新しい思い出。これぞ耐久マシンの正しい使い方だ。この先も気を抜かずに自分に克とう。そう。全勝で行こう。