鞍馬山には、霊力があると、神世の(いにしえ)から伝えられてきた。650万年前に金星から旅立った護法魔王尊が、地球のこの鞍馬山に降り立った。いづれこの地に都が栄え、都には魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)が跋扈し、疫病やら災害が多発させる。奴らの理想は、人間を家畜化にすることだ。その時代になって、天から金剛明王の化身が降霊なされ、都の魑魅魍魎を退治すると神々の噂を信じて、儂は大和の国に棲むことにしょう。 

その年の7月11日から三日間、天は怒り狂ったように雷光と大雨の日が続いた。鴨川の水が氾濫し、多くの死者を出した。それに輪をかけるように、疫病が流行った。河原や辻に野晒しになったには蝿がたかり、が湧いた。炎天下の都、悪魔のため息のような、熱風が死臭を吹き運んだ。羅刹の都を狙って、魔王竜が降臨するという、のお告げが出た。

三代目役小次郎に随行して赤鬼蝶と白鬼蝶そして五人ほどの修験者は、八坂の山に篭った。二日前、祭壇で水鏡霊の真言を誦していた。これは、先代の役小角の霊伝の術である。つまり、テレパシーの特殊能力の技である。先代は、 奈良時代に葛城山の麓に生まれ、古代から続く山岳信仰の一部を引き継ぎつつ、仏教とその一流派である大乗仏教を加えて、修験道と密教の基を興した。 

白峰が自首した日の夕方、S 市の白峰総合病院では、臨時理事会が開催された。緊急議題は、院長の辞職願の1件だった。7人いる理事の大半は、彼の辞任を思いとどまるよう、説得した。この病院をこまで大きくした白峰の功績は大だ。

「どうして、この時期に引退ですか?」

市内の大手銀行の溝口頭取が、口火を切った。

「いま、子細は、申し上げられないが、これも家庭事情により決意したことであります」

「院長、その家庭事情を話して貰わんと、承諾することは出来ませんよ」

商工会議所の山下専務が、詰め寄った。院長は、困惑した顔で、

「申し訳ないが、いまは云えない。ただ、私が、院長でいるかぎり、この病院に迷惑がかかるのは明白、早々に引退したい」

「この病院の名誉に掛かることかね?」

加藤市長も、国保連合会の理事の関係や更に市民病院同等のこの病院の理事を受けていた。

「皆さん、お待ち下さい」と、副院長の小林が、立ち上がった。

「実は、この話は、あらましは聞きました。あくまでも、プライベートな理由です。でも、万が一病院に対する迷惑がかかることがあれば、私が責任を持ちたいと思います。長年、院長を兄と慕い、病院を経営してきた家族です。その家族が・・・」

 小林は、泣いて説得した。理事は、院長の解任を求めているのではなく、残ってもらうため、異議をとなえている積もりであったが、本人の意志が強いことに、理事は、無口になった。どうやら、論議は尽くしたようであった。院長は、弱々しく立ち上がって、深く頭を下げた。後任には、副院長を推したい、と付け加え、小林副院長に、再び頭を下げ、白峰大輔は、会議室を辞した。理事達は、全員たちあがって、静かに見送った。

副院長から事前に報告があり事情を察していた、医師や看護師たちは、廊下に佇んでいた。白峰が出てくると、心配そうに、彼の様子を窺っていた。だが、大輔が、長いこと、私を支えてくれてありがとう、さようなら、と言う言葉に、感極まって泣き出す看護師や静かに頭を下げ見送る医師たち、ナースステーションから、飛び出してくるもの、廊下で立ち止まる入院患者たちで、院内の廊下は、一時騒然となった。

白峰病院裏の職員駐車場の自家用車に乗り込んだ。助手席で、妻の圭子が待っていた。昨夜は一睡もしていなく、憔悴していた。目だけが、妙に落ち着きなく、異様であった。

「辞任は、認められましたか?」

「ああ、なんとか認めてもらった。理事会には、一身上の都合と言って、あくまでも仔細は話していない。ただ、小林君だけには、ほんとの話をしておいた。彼は、心配性だからな。小林は、紗江子に同情して泣いてくれたよ」

「いまから、私も警察に自首します」

「いかん。いまお前が出頭すれば、紗江子の復讐計画は、泡になる。俺たちも、紗江子に手を貸したのが、今は、娘の言うとおり、知らぬ、存ぜずで押し通そう」

妻に、大輔は、そう伝え、セダンの高級車をスタートさせた。普段自分で運転しないから、ペーパードライバーになっていた。ただ、少し運転すれば、オートマ車だから、運転も徐々に馴れてきた。緑の葉になった桜並木が右手に流れていく。この桜も一月ほど前には、病院の職員やら患者の目を楽しませて、爛漫と咲き誇っていた。

「桜、さくら、サクラ・・・・・洋子、洋子」

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4 野生時代に招待します 金曜日

 5 君の瞳に天使が    土曜日


「しかし、善悪の区別も、子どもなりに、けじめが必要です。それは、大人の優しい教えで、子供なりに責任を取らすことが必要なのです。老いし者も、幼き者も、それが、人間に架された運命なのです。それを乗り越えて、人間が人間らしくなるのです。それを、お母さんが、わざわざ子どもの試練の壁を取り除くことをすれば、貴方の望む正樹君にはなりませんよ」 
 お母さんは、蛍子さんの話を真剣に聞いていました。それはあまりにも感動するものをお母さんの目の前で、展開されたからです。蛍子さんは、大粒の涙をながし、心の底から訴えるように、お母さんに語ったのです。同性の涙は、ときには感動さえ、与えてくれるのです。
康太さんは、蛍子さんのイヤリングから、滴が落ちるのを目撃したのです。あら、蛍子は、泣きながら、冷や汗を掻いている、妙な姪だなと、首を捻りました。
 お母さんは、その場から、黙って立ち去りました。それも、自分を恥じるかのように、顔を赤らめて、蛍子さんと康太さんに頭を下げたのです。
「俺が、謝って治めようとしていたのに、どうして余計な口をだしたのだ?」
「理由もなく頭下げる康太が嫌いよ。それに、仲裁は時の氏神というでしょう」
「また、蛍子語録か?」
「口論や喧嘩の仲裁に入ってくれる人は、神様のようにありがたい人
だから、その人の言うとおりにしなさいってね!」と、蛍子さんは微笑みました。
 康太さんは、お母さんと蛍子さんのいなくなった、相談
室で暫く呆然と佇んで動かなかったのです。
 事務所では、昼食が始まっていました。
「なにかあったのか、納得したような顔して、おとなしく帰っていかれたが?」
と、次長さんは、いつもと様子が違うので、ウドンのドンブリを置いて尋ねました。いつもなら、上役さんも何も聞こうとしないし、康太さん
もいちいち報告をしないのですが。康太さんは、返事をするかわりに、放屁を高らかに鳴らしました。次長さんも他に事務所で弁当を食べている皆さんも、顔を顰めるやら、鼻を摘むやら、中には窓を開けるやらで一騒ぎになってしまいました。 



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