3つ目の命 ー 2 ― | 父像~ふぞう~

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著者 立華夢取(たちばな・むしゅ)

「真貴子は、何で俺みたいな奴と一緒にいるんだ?和貴にも父親らしいことは、何もしてやれてないし・・・。三崎みたいな、良い夫だとは思わないけど・・・。」


 食卓には、和貴が大好物のハンバーグが並べられている。

リビングのファンヒーターが、部屋の中に暖かい空気を提供していた。


 教科書の答えがないならば、自分で書いていくしかない。

俺は日々、貪るように何かを学ぼうとしていた。


「さぁ、食べよっか。」


 失ってしまった販売台数トップの座と引き換えに、家の中には少しだけ和やかな空気が流れるようになり、夕食のテーブルには、家族が顔を揃えることが多くなっていた。


 俺の教科書には、相変わらず”DV”の二文字が浮いたり沈んだりしているのだが、真貴子のアドバイスによって、上手く付き合うことが出来ているようだ。


「おいおいっ、俺の質問はどうなの?一緒にいる理由・・・。心の支えにしますので。」


 和貴の前だということもあり、「真貴子が俺と・・・」という最初の言葉は控えて聞き直した。


「パパは、ジェイソンと同じことは・・・、って、ずっと言ってるよね。」


 根負けした真貴子が話し出した。


さすがに和貴が横に座っている為、暗号を使ってもぎこちない。


「パパは自分のことだけで大変だと思うけど、それって何のため?ジェイソンみたいになら・・・、ってのは、何のためになると思う?」


「うぅ~ん、そりゃあ、俺も・・・、散々・・・、嫌だったから。まあ、いいやっ。また、今度話そう。」


 言葉を選ぶというのは、何とも難しい。

自分で質問をしておきながら、話を切り上げようとした。


「ねぇ、何のためだと思う?」


 逆に、真貴子が応じなくなった。


「ジェ・・・、ジェイソンと同じにならないためだよ。」


「それは当たり前でしょ。答えになってないじゃない。パパがいつも思っていることはねぇ、結果として私たちに繋がっているの。パパはいつも、ジェイソンと同じ事は・・・、ってとこだけ頭にこびり付いてるんだろうけど、それは結果として私たちが居るからでしょ?家族みんなが幸せに暮らしていくために、同じにならないようにしているのよ。」


「結果としては、そうかもしれないけど・・・。」


「私たちが居なければ、パパはそこまで考えるかしら?」


「ん~、わからないけど、俺は今まで中途半端が多かったからなぁ・・・。止めちゃってたかもしれない。」


 中途半端という言葉を出してしまい、思わず和貴の方を見たが、大好きなハンバーグを前にしていたのが幸いした。


 食らいついてる真っ最中だ。


「そうでしょ。ジェイソンと同じ事は・・・、っていう思いは、私たちが居るからこそ考える訳で、一緒に居ようと思うのは、それをパパがずっと思い続けてるからだよ。今までパパは、それだけは絶対に諦めなかったでしょ?時間が掛かってもいいの。パパが諦めない限り、私たちは家族だよ。何があっても、一緒に居なきゃっ!」


 真貴子が敬愛する祖母の言葉だ。


 日々の会話の中で、父から差し出された教科書には、真貴子によって家族という刻印が少しずつ刻まれていった。


 俺はまるで、先生から検印をもらうことを楽しみに学ぶ子供のようだった。


 幼い頃から挫折を繰り返していた俺が、唯一、今も諦めていないこと。


それが、父と同じにならないという思いなのだ。


「そうだっ!今日は、病院だったんだろ?先生には何か言われた?」


「ううん、順調だって。よく動くって先生もビックリしてたよ。」


 答えを話し終えた真貴子に、俺は思いついたように別の質問をした。

真貴子のお腹が大きくなっているのだ。


 桐生家には、3人目の新たな命が降り立っていた。


「私たちは家族だよ。何があっても、一緒に居なきゃっ!」という言葉は、お腹の中の新たな命も含んだ、真貴子の切なる願いなのだろう。




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