『レポメン』という本を読みました。
■おはなし■
「おれ」は人工臓器の回収を生業としている「レポマン(取り立て屋)」。
支払いが滞ったクライアントをエーテルで昏倒させては臓器を回収していく。
(重要な臓器を回収された人間は、当然死んでしまう。)
ところが、あることをきっかけに自分がレポメンに追われる立場になってしまう。
ホテルの廃墟に潜み、自分の過去をタイプライターで綴る毎日だったが、ある日そのタイプライターに「うるさい」とのメモが。
「おれ」の奇妙な「同居人」は何者か。
元同僚たちであるレポメンに出くわせば臓器を回収されてしまう、「おれ」の運命やいかに。
舞台は近未来で、SFかハードボイルドか、そんなジャンルになると思うのですが、小説というよりはドラマの脚本みたいな印象でした。
……と思ったら、もともと台本だったんだね。
「おれ」が綴る過去と、「おれ」の現在とがかなり頻繁に交替するので、どっちの話なのか落ち着かない感じです。このへんは、映像化すれば退屈せず、もっとわかりやすいのだろうと思います。
面白くないわけではないけれど、読みやすいとはあんまり思わない。
文章の調子(これは訳者の手によるものだから、訳者を信用するなら「伝わってくる文章の調子」としてもいいかな)も、あんまり好きじゃない。
「おれ」のとても皮肉な口ぶりは悪くないんですけれど。
「おれ」の軍隊経験(や結婚生活)はかなりリアルで、ちらっと現代アメリカの問題が見えたりもします。
しかし、なんといってもいちばん面白いのは、誰もが人工臓器を移植していて、ローンが支払えなくなったら無理やり臓器を抜かれてしまう(合法)、という恐ろしい世界設定。
臓器移植に賛成、反対、といった議論を飛び越えたところから物語が始まっています。
「おれ」も人工臓器の移植や回収についても、格差社会についても特に感想を述べたりはしないし、いわゆる「社会派」なお話のようには捉えずに読みました。
いつ抉るんだ、いつ抉られるんだ。
このドキドキ感。
目の前の美人のどこからどこまでが生身なんだ。
このドキドキ感(笑)
が、それでも「もしかしていつかこんな日が来るのだろうか」と思うとなんともいえない気分がします。
もしこんなことになったとしたら、その社会における「命」ってなんなんだろうなって、ちょっと考えたりします。
- レポメン (新潮文庫)/エリック ガルシア
- ¥820
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レイモンド・チャンドラーの『キラー・イン・ザ・レイン』を読みました。
初期短編集。マーロウが固まっていく途中のお話たちです。
収録作品は以下のとおり。
『ゆすり屋は撃たない』
『スマートアレック・キル』
『フィンガー・マン』
『キラー・イン・ザ・レイン』
『ネヴァダ・ガス』
『スペインの血』
このうち、マーロウの名前が出てくるのは『フィンガー・マン』だけで、あとはマロリーだったりダルマスだったり、主人公が異なります(『ゆすり屋』と『スマートアレック・キル』は三人称だし)。
異なるのだけれど、どの人も同じような雰囲気です。なので、短編集としてバリエーション豊か、というよりもチャンドラーがどっちの方向に進みたかったのか、一貫してあったんだなぁ~という感じでした。
私がいちばん(ストーリーとして)面白く読んだのは、『ネヴァダ・ガス』かな。
ネヴァダ・ガスとは、当時ネヴァダ州で死刑執行の際に使われていた青酸ガスのこと。
それを使って車内で殺人が行われるのですが、なかなか面白かった。
状況や心理に関する説明が限られている分、緊張感と臨場感がありますが、必死で想像しないと次の行で「はっ?」ということになる(のは私だけかもしれません)。
小道具から何からかっこよく、裏社会のことが書かれていても下品でなく。
とにかく銃社会なのであっさり人が撃たれますが淡々として乾いていて、でもそこに生きる人間のようすはしっかり描かれていて、おもしろかったです。
主人公はスーパーマンじゃなくスーパーラッキーでもなく、容赦なく撃たれるからすごいな…。
私は以前に『湖中の女』を読んだことがあるのですが、そのマーロウから考えると、この巻の探偵たちはまだヨレた渋みがまだ出きっていない感じかな。
まだかっこいいままにかっこいいです。
もうちょっと巻が進めば、しがない、ついてない、ヨレヨレ、という悲哀みたいなのが出てくるのじゃないかと思います。
ちなみにハヤカワから出ているこのシリーズは全4巻。
すでに購入済みなのでぼちぼち読んでいきます。
それにしても今はタイトルを無理に訳さないのがトレンドなのかな。
そのほうがかっこいい気もしますが、『スマートアレック・キル』とか『フィンガー・マン』とか、ぱっと見ても意味わかんなくないですか?(ちなみに、『スマートアレック・キル』はお話の中で意味が示されていて、「利口ぶった殺人」ってことなんだそうです。『フィンガー・マン』は前の訳では『指さす男』)
この世界に出てくる女性って、したたかなようで弱くって、賢いような愚かなような、でもキレっぷりとか(おもにクスリのせいだけど)なんかすごい。
- キラー・イン・ザ・レイン (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-7 チャンドラー短篇全集 1)/レイモンド・チャンドラー
- ¥882
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森の…』ほか有名な方は読んだことありますから(坂口安吾)、実はあんまり覚えています。
新釈走れ』でしたが(坂口安吾¥1)/坂口安吾)けっこうこわい話だったが、なぜか「耳男と夜長姫」というの下(祥伝社文庫も10-1)/坂口安吾)な方は重なって、いちばんわかりやすかったがこの話をよく覚えて、私は、私が好きな方は読んだけれど、登場人物は舞台は、もちろん哲学のは、私にとって)
*このエントリは、ブログペットの「やしち」が書きました。
- 森見登美彦の、『新釈 走れメロス』を読みました。
下敷きは『走れメロス』ほか有名なお話ばかりですが、『新釈』では舞台はすべて現代京都。
お話はそれぞれ独立しているけれど、登場人物は重なっていて、連作短編風?というのかな。
『山月記』
『藪の中』
『走れメロス』
『桜の花の満開の下』
『百物語』
お話としていちばんわかりやすかったのは『桜の花の満開の下』でしたが(私にとって)、森見さんが好きな方はやっぱり『走れメロス』が好きなのじゃないかと思います。
なんせパンツ姿で京都を走りまくりますから(笑)
『桜の花の…』では、もちろん哲学の道が出てきますよ。
でも、私が好きなのは『百物語』かも。
ちなみに、私は元の作品は『山月記』『走れメロス』『桜の花の満開の下』の3作は読んだことあります。
で、いちばん好きなのは『桜の花の…』(坂口安吾)なのですが、実はあんまり覚えてない(笑)
けっこうこわい話だったと思う。
- 新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)/森見 登美彦
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- 桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)/坂口 安吾
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↑確か、むかーしに夢の遊民社がこの話をベースにした「耳男と夜長姫」という劇のをやって、見に行きました。
劇の内容はあんまり覚えてないのだけれど、なぜか「耳が心を持っても恥になるだけだ」というセリフをよく覚えています(笑)