レイモンド・チャンドラーの『キラー・イン・ザ・レイン』を読みました。

初期短編集。マーロウが固まっていく途中のお話たちです。


収録作品は以下のとおり。


『ゆすり屋は撃たない』

『スマートアレック・キル』

『フィンガー・マン』

『キラー・イン・ザ・レイン』

『ネヴァダ・ガス』

『スペインの血』


このうち、マーロウの名前が出てくるのは『フィンガー・マン』だけで、あとはマロリーだったりダルマスだったり、主人公が異なります(『ゆすり屋』と『スマートアレック・キル』は三人称だし)。

異なるのだけれど、どの人も同じような雰囲気です。なので、短編集としてバリエーション豊か、というよりもチャンドラーがどっちの方向に進みたかったのか、一貫してあったんだなぁ~という感じでした。


私がいちばん(ストーリーとして)面白く読んだのは、『ネヴァダ・ガス』かな。

ネヴァダ・ガスとは、当時ネヴァダ州で死刑執行の際に使われていた青酸ガスのこと。

それを使って車内で殺人が行われるのですが、なかなか面白かった。


状況や心理に関する説明が限られている分、緊張感と臨場感がありますが、必死で想像しないと次の行で「はっ?」ということになる(のは私だけかもしれません)。


小道具から何からかっこよく、裏社会のことが書かれていても下品でなく。

とにかく銃社会なのであっさり人が撃たれますが淡々として乾いていて、でもそこに生きる人間のようすはしっかり描かれていて、おもしろかったです。

主人公はスーパーマンじゃなくスーパーラッキーでもなく、容赦なく撃たれるからすごいな…。


私は以前に『湖中の女』を読んだことがあるのですが、そのマーロウから考えると、この巻の探偵たちはまだヨレた渋みがまだ出きっていない感じかな。

まだかっこいいままにかっこいいです。

もうちょっと巻が進めば、しがない、ついてない、ヨレヨレ、という悲哀みたいなのが出てくるのじゃないかと思います。


ちなみにハヤカワから出ているこのシリーズは全4巻。

すでに購入済みなのでぼちぼち読んでいきます。


それにしても今はタイトルを無理に訳さないのがトレンドなのかな。

そのほうがかっこいい気もしますが、『スマートアレック・キル』とか『フィンガー・マン』とか、ぱっと見ても意味わかんなくないですか?(ちなみに、『スマートアレック・キル』はお話の中で意味が示されていて、「利口ぶった殺人」ってことなんだそうです。『フィンガー・マン』は前の訳では『指さす男』)


この世界に出てくる女性って、したたかなようで弱くって、賢いような愚かなような、でもキレっぷりとか(おもにクスリのせいだけど)なんかすごい。


キラー・イン・ザ・レイン (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-7 チャンドラー短篇全集 1)/レイモンド・チャンドラー
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