河合幹雄「日本の殺人」~「正しい殺し」についてのまとめ~ | あざみの効用

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或いは共生新党残党が棲まう地

交通事故以外の不慮の死者数は2万7000ある。そのほとんどは家庭で起きており、数からいけば、一番危険なところは、自宅である。このうち、1万1290人の死亡場所は家である。家庭内事故の内訳は、風呂場で2936人、のどを詰まらせて2432人、転倒・転落で2186人等である。自宅こそ安全と思いがちであり安心してしまっているが、実態は全く逆の結果である。場所として、もっとも危険な風呂場にこそ監視カメラをつけてみんなに見てもらったらどうかという冗談が生まれるほどである。


                                                                  

                                   河合幹雄「日本の殺人」


この冗談については文字通りのプライバシーである裸とと命の天秤という皮肉で盛り上がった こともありますが、上記のような語り口で凶悪犯罪全般、加えて刑務所(運営側の視点メイン)、死刑まで語り尽くしています。全編に渡って統計で語れる部分、そしてそこから大いに踏み込んで語れない部分までも考察、仮説が展開されています。あまりの身も蓋もない語り口に私のツボをクリティカルに刺激されまくり。数ページめくるごとに爆笑♪この本をどういう風に紹介するか悩んだのですけれど、ネタばらしいくない><というわけで、どうやら先だってメモしたばかり なのに、もう再登場させたということは絶対ファンがいるであろうサイゾーでのインタビュー記事を抜粋メモ(下線・強調ももちろん勝手につけています)することで代用します。


法社会学者・河合幹雄氏に聞く、「日本の刑罰のお値段」とは?

「日本に終身刑を導入すれば超高コスト刑務所が誕生する!?」(サイゾー 2009年6月号)


――まず、死刑囚、無期懲役受刑者の収監コストについて教えてください。


大枠の予算はともかく、詳細は公表されていないので、正確な数字はわかりません。せいぜい、矯正局予算を収容人数数で割ると1人年間約300万円になる、というくらいのところまでです。


だからこそ、最後の福祉の砦として刑務所に甘えるのは、行き過ぎると逆に高くつくということは生活保護と比較すれば一目瞭然かと。

参考(コメント欄);受刑者にかかるコスト


(中略)


死刑執行に際しては、やはりそれなりの費用がかかっているようです。法務省刑事局総務課長が、死刑執行起案書を書くに当たっては、必ず全証拠を吟味し直さなくてはならないのですが、ある法務省幹部の話によれば、無期懲役刑事案の何倍も丁寧に再吟味する必要があるため、コストがかさむそうです。エリートである刑事局総務課長の高給の大半は、その作業の為に支払われている、というのが業界の通説です


浜井浩一教授が犯罪白書の執筆など統計及び刑務所におられた強みをみせているとすれば、河合幹雄教授は、警察大学校の特別捜査幹部研修の嘱託教官、法務省矯正局の「矯正処遇に関する研究会」メンバー、刑務所視察委員会委員であり、家庭裁判所調査官の研修でも講師を務められた(著書内に書かれています)という重なるようで重ならない部分からの情報、視点が多くて本当に勉強になります。…しかし、こんな通説本当なんだろうかと、80年代の重罰化の噂といい眉唾したくなりますw


――米国で、経費削減のために死刑を廃止しようとする動きがありますが、この考え方は、日本にも適用できるのでしょうか?


(中略)


米国では、死刑冤罪が数パーセント~十数パーセントもあるといわれ、昨今、国内外から激しい批判を浴びています。そのため、死刑判決の出そうな事案に関しては、多大なコストを費やして、国選弁護人の数を増やしたり、執拗な鑑定作業を行ったりしているという、日本と異なる事情があるからです。


この点は、今回の足利事件を契機に日本でも事情が同じになってくれることを望みたいところです。


――では、超党派の議員連盟などが導入を提唱している「仮釈放のない終身刑」について、コスト面を絡めて分析してください。


いうまでもなく、死刑を除く日本の司法の全システムは、受刑者を更生させて出所させるという前提で作られています。そこへ、懲罰のために死ぬまで閉じ込めておくという異質な刑罰を導入すれば、システムが根底から覆されてしまいます。また、終身刑受刑者の気持ちになって考えれば、いつか釈放されるという一縷の望みさえなく、これ以上刑が重くなることもないのだから、おとなしくしている道理がありません。刑務官を殴ろうが、作業をサボろうが恐いものなし、無敵の状態です。彼らを抑えるためには、間違いなく莫大なコストが必要になります。


私が著書で大ウケしたものの一つが、河合教授の死刑の存在意義についての考え方で、死刑も「出所!?」としてカウントするという下りです。


――仮に導入するならば、どんな方策が考えられますか?


とにかく、受刑者をチヤホヤするしかありません。実際米国では、刑務所ごとに待遇に差を設け、素行のいい受刑者の一部は、リゾートホテルのような刑務所に収監されています


シドニィ・シェルダン「天使の自立」(←小学生の頃大好きで新作が出る度に徹夜で読破していました)をぼんやりと思い出しました。いずれにせよ、それこそ世論が黙ってはいないでしょうね。

(中略)


以前なら死刑や無期懲役刑になったような事案にも終身刑判決が下されて、新刑務所はすぐに満杯になるでしょう。議連の提唱する「仮釈放のない終身刑」には、そういうリアリティや具体的な方策が欠けているのです。


キッツイ批判ですね。ちなみに河合教授は昨今の法令改正等による重罰化も所詮下限の引き上げでほとんど運用現場ではとうに行われている範疇に過ぎないと喝破しています。その意味で名前を変えるだけでいいんじゃないのぉ?という私としてはふむふむさせていただきました。


(中略)


私は、無期懲役受刑者の一部については、きちんと出所させるべきだと思います。


(中略)


日本の無期懲役刑の仮釈放システムは、現状、非常にうまくいっている。例えば、95年に無期懲役刑で仮釈放中だった者は602人で、再逮捕されたのはそのうちの14人、しかもその半分は交通関係です。ただし、また殺人を犯した者も2人いるのですが、海外の仮釈放者の統計と比べれば、奇跡的な成功と見るべきなんです


人が死んでんねんでーという批判などものともせず言い切りました!


むしろ本当は、10年程度で仮釈放された長期刑受刑者のほうがよほど怖いのです。想像に難くないことですが、無期懲役刑で30年も収監された受刑者の多くは、刺激に乏しい長期間の生活や年齢により、はっきりいって、犯罪を実行する能力の大半を失っています。高さ4メートル半の刑務所の塀どころか、数十センチの段差すら超えられない、というのが実情なのです。


ただ、これは刑務所内における更生処遇の成功と言っていいのか微妙~~~単に年老いただけともそれを人は言うようなw


――つまり、現状のように、″実質的な終身刑″として無期懲役刑を運用し続けるほうが、実際に終身刑を導入するよりも、メリットがあると。


そう。ほぼ絶対当たらないのに、みんな宝くじを買うのと一緒で、仮釈放というわずかな希望があるから、無知懲役刑受刑者も、それを監督する刑務官もやっていける。可能性が限りなく0パーセントに近くても、完全にゼロでないことがきわめて重要なのです。


刑務官がやっていけるという部分については、ここにもまた天皇家が絡んでいると著書で知りました…。


コストの話に戻すと、社会と断絶している仮釈放者を監督しサポートするという、保護司の果たす役割は非常に大きいわけですが、彼らのほとんどはノーギャラです。これまでの日本の社会は、彼らにきちんとした形で金を払ってきませんでした。せめて、受刑者の収監費用の3分の1でも、仮釈放者を一生懸命に支援している保護司に支払うべきだ、という議論がむしろあってもいいと思いますがね。


著書では、保守派がないないと騒ぐ青い鳥の「公の精神」の持ち主であられる保護司のお仕事についてもう少し書かれているのですが、私が(ノ∀`)アチャーと思わざるをえなかったのは平均年齢が60歳を超えているとのこと。もう無理ぽ!



ローン払えず車に放火~自動車保険詐欺が急増
>ロサンゼルス・タイムズが伝えた業界の調査機関・全米保険犯罪局(NICB)のデータでは、放火の疑いがある車両火災は、2009年第1四半期に全米で757件に上り、前年同期の596件から27%も増加した。車をがけから落とす、湖に沈める、メキシコに乗り捨てるといった例も含め、オーナーが意図的に車を破棄または投棄する「オーナー・ギブアップ」件数は24%増加している。放火以外にも疑わしい保険金請求は増えており、乗り降りなどで「滑ってけがをした」という請求は60%、偽装事故は34%、営業用車が燃えた・燃やされたという請求は76%も増加した。経済が悪化すると犯罪率は上昇するものだが、オーナーが自分で車を捨てたのかどうかは証明が難しい。(U.S. FrontLine 2009年06月15日)


「オーナー・ギブアップ」って私が冗談で書いた刑務所に入るための放火ハウスのプロトタイプのアイデアですね(←大嘘) サブプライムで家を失い、ローンで車を失いしたときダメリカ下層社会はどうなるんでしょうね。ある種の実質的な徳政令、モラトリアムの発令(国が肩代わり、もしくは金融機関恫喝)しかなさそう。


ホロコースト博物館の銃撃事件、犯人は死刑の可能性
>10日に米ワシントンD.C.のホロコースト記念博物館で警備員1人が射殺された事件で、検察当局は11日、事件を起こしたホロコースト否定論者で白人至上主義運動家、ジェームズ・フォンブラン容疑者(88)は、死刑に処される可能性があるとの見解を示した。フォンブラン容疑者は、ライフル銃を持って見学者で混み合った博物館に乱入し、アフリカ系の警備員(39)に発砲した。警備員は病院に運ばれたが死亡、容疑者も他の警備員に撃たれ、重体となっている。【6月12日 AFP】


まさしく、小飼弾が当著を紹介している下り (←この書評で「は」、目次を紹介することで書評の一部となすというのは非常によく理解できます)でもあるのだが、こういう点をさして「自称死刑廃止国」と名指しして嘲笑っていますw


二階氏側の不起訴「不当」 西松問題で検察審査会
>議決の理由によると、二階派側については「捜査が尽くされているとは到底言えない。強い政治不信が見られる政治状況を踏まえると、さらに踏み込んだ捜査が期待される」とした。また、国沢前社長については、「十分な証拠があるのに起訴猶予は納得できない」とした。5月21日施行の改正検察審査会法では、検察が不起訴の判断をしても、検審が2度「起訴相当」の議決をすれば強制的に起訴されることになった。「不起訴不当」の場合はそれにはあてはまらない。(朝日新聞 2009年6月17日15時30分)


これは先に紹介した浜井教授の著書 でも触れられていたように、検察官の権限を縮小するような改革は決してなされないということの現れのひとつです。国民参加の裁判員制度とか言っておいても、起訴便宜主義についての妥協はこの程度です。


自動車ナンバー読み取り装置 Nシステム大幅増強へ
>警察庁が、全国の幹線道路などに設置している「自動車ナンバー自動読み取り装置」(Nシステム)の台数を大幅に増やす計画であることが分かった。二〇〇九年度補正予算で六百四十台分約二百億円を確保。〇九年度本予算分も合わせ、総計は〇八年度末の八百三十台から、約一・八倍にあたる一千四百九十八台にする方針。


今日の党首討論では、同じ「お金」として母子加算制度とアニメの殿堂作りを比較せよと迫っていましたが、もっと大きいところで「治安」「環境」に切り込もうよ…。

警察庁の担当者は「捜査の手の内を明かすことにもなるため、Nシステムの設置場所や、システムが実際にどのように使われているかは言えない」としている。警察庁は一九八六年から整備を進めてきたが、ここ数年の設置台数は年間五十台前後だった。警察庁によると、同庁が設置しているNシステムとは別に、各都道府県警が置いているNシステム二百四十五台(〇八年度末)と渋滞時間予想などに活用され、Nシステムに似た装置の「旅行時間計測端末」二百二十五台(〇七年度末)が、いずれも警察庁のNシステムに接続されているという。(東京新聞 2009年5月30日夕刊)


以前、冤罪の疑い濃厚としてルーシー事件を紹介した際にもメモ しましたが、今回の足利事件と同様にむしろ真犯人ならば不利になる証拠の開示を被疑者が求めても、知らんぷりです。Nシステムもまた警察の都合のいいときにだけ使われるということをよく知っておきましょう。


「痴漢冤罪防止へ男性車両を」西武HD株主が提案
>今回が3度目。賛同者も広がっているという。同社の招集通知によると、剰余金の配当や取締役の選任といった議案に続いて「女性専用車両および男性専用車両の設置」という項目が株主10人からの提案という形で記載されている。提案理由として「痴漢対策は女性専用車両の設置などにより、一定の成果をあげているが、痴漢冤罪対策は全くなされていない」と指摘。さらに、男性専用車両の設置は費用も安価などと定款への記載を求めている。


(´∀`*)あははギャグで言っていたことが、現実化させようとしているよと笑うしかない。まあ、普通に6:4位で全列車を男女別にすればいいだけでしょうが。混雑だとか、自白偏重操作だとか根本要因は弄らない解決策です。


>これに対し、同社取締役会は「個別課題を定款に記載することは不適当」と反対の姿勢だ。マナー向上のためのポスターなど犯罪防止活動が一定の効果を上げている上、「利用者からの要望も少ない」とそっけない。


痴漢冤罪を防ぎましょうというポスターはついぞお目にかかったことがありませんが。


>ただ、株主側によると、08年度の株主総会では、同株主提案に対し、書面投票した株主の47.5%にあたる1703人が賛成している。株主総会で定款変更のためには、議決権の3分の2の賛同が必要。西武HDの株式は約32%を米投資ファンド、サーベラスが保有しており、実現のためにはまずこの厚い壁を崩す必要もある。(MSN産経 2009.6.16 11:35)


外資もさぞや吃驚しているでしょうね。そもそも上場廃止しているし、今後賛同者は増えることはあっても減ることはありえず、うるさい個人株主をダマらせるにはこれぐらいお安い御用とばかりに賛同しそうな気もする。



凶暴な殺人者は、しばしば「人間でない」「ヒトデナシ」といった呼び方をされる。本当に人間でない生物による死者についても、同じ厚生労働省の死因の統計に出ている。比べてみよう。統計によると、「スズメバチ、ジガバチ及びミツバチとの接触」つまりハチに刺されたことにより2003年に27人死亡している。「ネズミと犬以外の哺乳類による咬傷又は打撲」つまりクマなどに襲われた場合、15人、毒ヘビによって8人となっている。これでもって、人間である通り魔は、動物たちより安全であったということが主張したいわけではない。日本でクマや毒ヘビにやられる確率と比較して、通り魔事件の死亡被害者が、年間が一桁に過ぎないにもかかわらず、ご存知のように大きく報道される。客観的に恐ろしい相手であり、しかも対策を講じることができる動物たちが原因であるのに、報道もされずに放置されていることがなぜなのか考えなければならない。


人々の興味をひかないからという理由は簡単のようであるが、なぜ人々の興味を引かないのか深く考えてみる必要がある。その考察抜きに、「マスコミは反省せよ、安全対策論としては、先にハチからはじめるべき」で議論を終わらせないでおきたい。


                                   河合幹雄「日本の殺人」


これは、まんま「不審者≒熊<蛇<蜂<<<餅」というエントリー を起こしている私自身の戒めとなります(ただ、さんざんぱら私ですら白旗としか言いようのないことを連発している河合教授には言われるとはw)。というか、そもそもこんなハチを例に出して、マスコミ報道を批判している人って他に誰がいるのでしょうね?


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▲こちら、必読としかいいようがないです。勉強にも知的刺激にもなるし、なにより私のブログを楽しんで読んでいる人ならば抱腹絶倒すること請負。その面白さは折り紙をダンボールに詰めて請負。