比較的最近の方で最近その消息を聞かない大好きな漫画家第二弾は、山中音和先生
です。
決して絵が上手なわけではない、起伏にとんだ波乱万丈な展開が繰り広げられるわけでもない、甘ーい恋愛話、ほのぼのとした話が展開されるわけでもない。でも読み終わったあとに確かに心の底に澱のように残るものを実感することが出来る。あまりにも不器用で照れ臭さを感じるかもしれないが、それは真実の言葉の欠片、そのあまりにも繊細で脆い。今後絶版に伴い入手困難が予想されています。詩と少女漫画の融合という可能性を模索した作品群を是非今のうちにお手にしてください。
単行本は出版順に、「瞳が泣くから」、「ONLY YOU」、「少年帝王」(全2巻)、「ロリータの詩集」(全3巻)、「WANDER LAND」となっており、最後の単行本発売から5年を経過しました。
恋愛に伴う「重さ」というのを題材にいくつか作品を発表されています。人を好きになれば、好きになるほど相手を自分のものだけにしたいという独占欲、また愛されればその愛情に比例して生じる束縛感、それら双方向の感情を含めて「重さ」を表現しています。その「重さ」に対して、逃げたり、相手を解放したり、受け止めたりと色々な対応をとっていきます。このテーマのお勧めは「ONLY YOU」です。父親を引き摺っている姉妹と兄弟の錯綜した関係という、いくらでもどろどろと、まただらだらと描きがちなテーマをさらっと表現してしまいます。この姿勢は、兄妹愛、多重人格、不治の病など今流行のテーマを題材としたときも同じです。もう少し、続きをというところでばっさりと終えてしまう。中弛みを作らないからこそ、輝きを放つ作品群を残せたが、遊びをつくらないからこそそれだけ早く、そして深く自分をもすり減らしてしまったのかもしれない…。
とりわけ私が愛してやまないのは「ロリータの詩集」(全3巻)です。本来、後に残るもの(日記・写真等)が好きでなかった主人公、橘斎(ゆいと読む)が一人の少年との出会いをきっかけに、人間関係の作り方に不器用なさまざまな人と出会いながら、そのとき感じた言葉を詩として淡々と残していくお話となっています。主人公も不器用かつ、過去に何かがあったはずなのですが(最後まで全面には打ち出さず、ほのめかす程度にとどめています)、気高く孤高を守りながら生きていきます。それぞれの話自体が詩的な作り(深く重いテーマをウェルメイドに描写せずに、簡素かつ余韻をどのようにとどめるかに重心を置く)になっていて、むしろ最後の詩はなくてもいいかもしれないとも思わせるほど(しかし、この詩がなければ吟遊詩人という設定が死んでしまう)です。
「あたしはこれからもずっと言葉に囚われて生きるだろう、言葉に救われて生きるだろう」「言葉がつながって絡みついてくる、それはだんだん重さを増して糸なんてもんじゃない まるで鎖だ」という感慨に代表されるように、言葉の使い方に繊細なように見えて、実際には言葉少なという生き方を貫いている(言葉よりも生き方でもって表現)。
お勧めの話は、「マリア」、「学校民族」、「夕立ち」、「鴉」、「髪」そして最終話「魚」です(多いな…)。「夕立ち」はまさに自分自身の過去を映し見ているようで複雑な気持ちになった(自分は斎にであえることなく他次元に見出しちゃったけれど)。
あなたはどうして学校に行くのか(行ったのか)?という問いを真剣に考えたことがある人ならば、「学校民族」のシンプルかつ汎用性のある答えには苦笑することでしょう。
「晩夏」(「WANDER LAND」収録)において、「太陽が去くから、花も逝く」の言葉を遺して山中先生も去ってしまいました。
- 近況は知りませんが、
「Wanderland」の後にもいくつか短編を描かれているので
希望をこめて・・・ - commented by mouriaki
- posted at 2004/12/27 18:32
- >mouriakiさま
コメント、リンク本当にありがとうございます。
確かに1月14日に「ロリータの詩集」文庫版で発売ですが、その他に新作を発表(予定)されているのですか?もしご存知でしたらぜひぜひ教えてください。 - commented by you
- posted at 2004/12/26 19:50
- >山中先生も去ってしまいました。
去ってないです(^_^;)
いい内容なので、リンクさせてください。
- commented by mouriaki
- posted at 2004/12/25 20:27