今の少女漫画について想うことⅡ | あざみの効用

あざみの効用

或いは共生新党残党が棲まう地

隠れオタクで生きるの shi-ki さま にTB頂いた
今少女漫画に望む事(1)
今少女漫画に望む事(2)
に触発されてのものです。

以下の記事は「今の少女漫画について想うこと」 の続編にあたります。

先日中二病 (今回の記事とは直接の関係はありません)関連の記事で「脈絡ない思考の断片の流れ」と自ら記しましたが、それは関連で辿りついたNatural-Color-Paranoia 更科修一郎さま「思春期のオタクをめぐる状況やら何やら」 の記事がそのまま少女漫画の現在の惨憺たる状況にも通じるところがあると感じたからです。

私は以前の記事で「失敗の本質」 に倣って、「適応が適応能力を締め出したと評しました。」それはある特定の環境や条件に過剰に適応しすぎた結果、特殊化してちょっとした変化に再度適応を図ることが不可能になるという意味です。私が言いたかったのは、現在の少女漫画がある種の恋愛漫画に特化しすぎたのではないかということです。

少女漫画という分野が24年組により確立して以来、「性」という問題を中核に心理描写の深みを表現する技法を発展させてきたという経緯があります。そして「性」という問題に絡み、己の「性」を自覚する鏡として恋愛もまたテーマの一つとしてあった以上、恋愛を描くこと自体を否定しているわけではありません。だからこそ「ある種の」と留保をつけたわけです。その違いはなにかというと、恋愛を通して他の何かを描こうとするか、恋愛を描くこと自体を目的とするか(つまり誰と誰がくっついた、離れたで総てが語れてしまう、現在放映中の「ピーチガール」)に由来する。

その過剰に適応するに至った何かについて私は端的にアンケートかとも思っていましたが、アンケート内容(単純な構造の恋愛物語を望む声)の多寡という単純な問題ではないです。そのことについてNatural-Color-Paranoia 更科修一郎さま「思春期のオタクをめぐる状況やら何やら」 は指摘してくれている。実は中間層(少年か大きいお友達)が育っていないということ。つまり出版社としてどこの層をターゲットにして本を作っていくかということです。それは会社である以上、現時点だけに目を向けていればいいわけではなくて5年後、10年後をも視野にいれる必要があるという当たり前のことです。そして現在、出版社において勝ち組と負け組の差は明確になりつつある。

その勝ち組である集英社の戦略は、女性層(オタク系の婦女子)をも積極的に取り込むメディアミックス化が鍵とし、よくいわれる「友情・努力・勝利」という明確なコンセプト、「少年ジャンプ」で掴んだ客をそのまま→ヤングジャンプ→ビジネスジャンプと世代別に管理し一生離さないこと、アンケート至上主義で結果如何によっては打ち切りを当然のものとする激烈な競争あります。

社団法人 日本雑誌協会 のデータを以下参照します。

【少年ジャンプ】
【ヤングジャンプ】
【少年サンデー】

何が言いたいのか?とにもかくにも出来うる限り入り口を広げ、取り込んだ客を逃さないこと。それは同じメディアミックスでも深夜や早朝、衛星という劣悪な条件でしか挑戦しない少女漫画部門とは対照的です。例外は矢沢あい先生「NANA 12」 くらいです。(巻末に先生自身の積極的な意思表明がありますね)

では少女漫画に絞るとどうなのでしょう?

【少女コミック】
【花とゆめ】
【りぼん】
【LaLa】
【マーガレット】

どの層に目を向けるか?…それは同じように入り口を広げる必要がある以上若年層をターゲットとするしかありません。ただそれ以上に目につくのが若年層よりちょい上の層がスカスカ、激減するということ。(白泉系列は例外的に中間層がすっぽり抜けたその上の世代に大きなお友達層が存在しています。そしてこれが白泉社の単行本売り上げが少女漫画の中では強い秘密です。同じようにライトノベルでも電撃文庫が購買力のある大きなお友達をメインターゲットの一つとして想定していることが返本率が20%台をキープできる秘密でしょう。)すると現時点のみならず、今後を考えても現在の若年層の嗜好に合わせることが必要と判断するのは一定の合理性があるということです_| ̄|○

若年層がメインであり、かつその層は成長するとすぐ漫画から離れていく(携帯その他へね)ならばどうするか?その若年層が離れないようにできるだけその需要にあわせた(人間描写も画面構成も浅くて分かりやすい頭の悪い)商品を届ける…しかしその結果、漫画好き(いい歳をしても漫画を買い続ける購買力のある層)は育たなくなるという諸刃の剣ですけどね。

ただ…メディアミックスをあまりに無造作に賛歌しているように思われるかもしれませんが、おそらく今度の「ハチクロ」「ガラスの仮面」も成功しないでしょう。だって深夜ですから、本気で新たな層に訴えかけようと思うならば19時台もしくは、土日の9時前後に放送しなければ意味がないです。またたとえその時間に放映できたとしてもテレビ自体の訴求力が落ちているということもあります。いまやゴールデンの連ドラでもおしなべて10%~15%に収まる程度ですから。

少女漫画という文化も一時代の徒花として文学が廃れ不良債権化したように落ちていく運命なのかもしれません。ただね、少しでも少しでも可能性が残っているならば、純愛ブームが戻ってきたように(私は嫌いです)、いつかは人生を生きるうえで糧となる複雑な心理描写を武器とする少女漫画が再び…と願ってやみません。

>『戦略は進化すべきものである。進化のためにはさまざまな変異が意識的に発生され、その中から有効な変異のみが生き残る形で淘汰が行われて、それが保持されるという進化のサイクルが機能していなければならない。』

                          「失敗の本質」

追記 3/24

ライトノベルの購買層関連の記事

ARTIFACT@ハテナ系さま「ライトノベルの読者年齢、書店さんの意見」


Comments
shi-ki様コメントありがとうございます。自分の記事を誰かにきちんと読んでもらえて、それに対しての新たな反応を目に出来るというのは本当に嬉しいことです。

私はターゲット層に絞っての細分化はマーケット戦略として短期的には成功なのかもしれませんが長期的には…と思っています。少女漫画への敷居を下げることは確かですが、結果的に同じものの詰め合わせを届けることとなり、その先に繋がらないのでターゲットを外れると同時に少女漫画自体から卒業となってしまう人が多すぎるのかなーと。売れ筋に比べると商売として報われないようでも、ある程度背伸びした作品を織り交ぜ、触れさせることが読者と共に成長する鍵となるのではと思います。

アンケート…アンケートの項目にプレゼントで何が欲しいかも組み込まれているので確かに色々と考えさせられますね。

>長々と長文すいません・・・。一つ記事書ける位書き込んでしまった・・・

いえいえ、気になさらないでむしろ長文コメント大いに歓迎です。それこそがブログという形態の長所だと思っていますので(改めて「輝夜姫」の感想も催促しときますw)。
commented by 遊鬱
posted at 2005/03/27 21:53
「なるほどー」と思いながらブログ読ませて貰いました。

『揺り籠から墓場までの囲い込み』ってすごく大事な事だとおもいます。読者も漫画家も歳を取るので、対応した流れ?みたいな物がうまく作り出すことが出来ていれば・・・って感じます。

最近の「NANA」のヒットは、掲載されている「Cookie」率いる集英社が離れていた中間層達をうまくつかんだのでは・・・と感じます。もちろん「NANA」読者すべてが雑誌自体を読んでいる訳では無いので一時的な感じもしますが空洞化した中間層への対応の成果が多少でている感じがします(「ぶ~け」を細分化して「クッキー」「コーラス」を創刊した効果が出て来た?)

低年齢化を進めすぎた「りぼん」は「マーガレット」「クッキー」「コーラス」「YOUNGYOU」への移行にこれから多少の問題もありますし、各雑誌の「恋愛至上主義」にも不安材料が多いですが・・・

そうそう、漫画雑誌のアンケートについて一つ思うことが。
アンケートって多分、「プレゼント」目的で出す人も多いのですよね。
男性漫画雑誌の場合、比較的どの年代でも使える物多い気がしますが、女性漫画雑誌の場合コアな年齢に対応した「プレゼント」が多い気がします。化粧品、アクセサリーなど年齢によって変わってきますよね・・・28歳専用化粧品まで出る位ですし。

もしかして、女性漫画のアンケートって危険かも。
って長々と長文すいません・・・。一つ記事書ける位書き込んでしまった・・・
commented by shi-ki
posted at 2005/03/27 15:35
なるほど雑誌単位の話でしたか。考えられるのは大きく2点一つは集英社の男性漫画部門を参考(揺り籠から墓場までの囲い込みw)と、売り上げを一時的に嵩上げする効果を狙った(増刊扱い)のかなと推測してます。ただその実態は性描写、暴力(心身とも)描写の過激さをコントロールしているに過ぎないので表現内容は大差ないというのが私の思うところです。

そして少女漫画に限定するとそもそもターゲットごとに細分化できるような市場が存在していなかったというのが実情だと思います(小学館の各誌、集英社、白泉社の各誌の購入層はほとんどが被っている、要は一番売れている雑誌の購入層がその他の雑誌も買っているか、買っていないかに過ぎないかということ)。
commented by 遊鬱
posted at 2005/03/25 00:02
ちょっと言葉足らずでした>細分化

より正確には「読者の嗜好が細分化していったので、それに対応する形で雑誌もジャンルごとに細分化されていっている」と書くべきでした。
その典型例としては、別女、プチフラワーズ→ベツコミ、フラワーズへの再編が挙げられるかと思います。
commented by 紺屋
posted at 2005/03/24 23:07
紺屋さまコメントありがとうございます。フジの深夜枠は伝統的にアニメを馬鹿にしています(さっさと買収されちまえ←私怨)!「ガラス」もせっかく1年も放映するというリスクをとるのにこの時間帯を選ぶことが理解不能です(この時間帯はオタクしかみないのだから他作品を選べばいい)。「おこじょさん」の二の舞にならないかと今から心配しています。

>ジャンルの細分化も低迷の大きな原因だと思います。

この細分化とは具体的に何を指しておられるのですか?ほとんどが学園恋愛(+αとして性描写・芸能・親との確執で網羅できてしまうような)もののような気がするのですが…。
commented by 遊鬱
posted at 2005/03/24 18:30
空洞化もそうだけど、ジャンルの細分化も低迷の大きな原因だと思います。
そこら辺については思うところがあるので、いつか自分のブログでかければいいんですが、時間が取れるのかどうか…。

『ハチクロ』と『ガラス』は届きさえすれば、確実にヒットするはずなんですけどね。
条件的に開拓できそうにないのが問題ですよね。
『ハチクロ』なんて、ちゃんとした時間にさえやれば、今以上の人気を獲得できるはずなのに。

commented by 紺屋
posted at 2005/03/24 00:46