「三国妖狐物語」は九尾の狐の伝説を長唄化したものです。
上・中・下と三部構成。
上の段は華陽婦人となった九尾の狐のお話。
当時勢力を誇った班足(はんぞく)大王の妻となった華陽婦人。インドを魔界にしようと企んで悪行三昧を働くのですが、悉達(しった)太子によって撃退させられちゃうというお話です。
中の段は、殷の時代。インドから渡った九尾の狐は姐妃(だっき)となって殷の紂王の妃となって悪行三昧を繰り返す。
そして、文王等によって激退される。
下の段は、鳥羽院の時代。九尾の狐は玉藻の前という美女に化けて、その色香によって混乱を引き起こし鳥羽院を悩ます。陰陽師の安倍泰成によって退治され殺生石に封じ込められる。そして「四海泰平 五穀富裕」の神となる。
こんなあらすじの超大作です。
下の段は「那須野」という題名で、単独でよく演奏されます。
いやいや、最近よくこの曲の題名を耳にします。
今度知り合いもこの曲を演奏するみたいだし、お稽古場でもこの曲の題名を耳にしちゃったり。。。狐はイヌ科の動物ですから、戌年にちなんでなんですかね。
さてさて、この長唄の中の段のお話は長唄とは別に私にとっては馴染みのあるお話です。
「封神演義」という中国の大作小説がこの姐妃のお話です。
どちらかというと、長唄での姐妃よりもこっちの方の姐妃の方が馴染みです。
「那須野」は九尾の狐のお話という事は以前から知っていましたけれど、九尾の狐=姐妃。。。玉藻の前=姐妃と知ったのは最近の事です。
姐妃との出会いは、PCゲームの「封神演義」。太公望が姐妃を退治するストーリーのゲームです。これがなかなか面白いゲームで、このゲームの基となった小説「封神演義」に興味を持って、超大作の小説を読みました。
このお話では、姐妃は別にインドから飛んで来ていきなり紂王の妃になったわけではありません。
殷の王の紂王が若かりし頃、女媧という仙女のところへ殷の王となったことを報告に出かけました。けれど、たまたま女媧は留守でした。女媧は絶世の美女で紂王は彼女の石像を見てその美しさに一目惚れしちゃうのです。そして、彼女への愛の詩を残し女媧宮を去っていきます。
けれど、愛の告白も人を選ばなければなりませんね。
女媧はその紂王の行動に対しいたくご立腹。
人には生まれ持った天命というものがあって、紂王はあと28年後に死ぬ運命。そして殷も同時に滅亡する運命を持っていました。けれど、ただその天命を迎えさせるのもしゃくと、彼女は紂王を苦しませその天命を全うさせるように策略。という事で九尾の狐にお前の色香で紂王を堕落させ苦しめろと命じ派遣されたのが「姐妃」なのです。
姐妃は紂王をメロメロにして、もうやりたい放題。残虐で悪行三昧を働いていくのです。
結局、周の軍師で仙人の太公望によって彼女は退治されちゃうというお話。いえいえ、本当はもっと深いお話なんですけれど、簡単に「姐妃」をクローズアップしてこのお話を語るとこんなストーリーです。
そうそう。このお話では九尾の狐はもう二度と復活できないように封じ込められちゃうのですが・・・
長唄バージョンでは取り逃がしちゃうのですね。
それにしても日本は優しいお国です。
姐妃は女媧に紂王苦しめ作戦を達成したら、下端で妖怪にもなれないお前だけれど、妖怪に格上げを約束しました。
まあ、妖怪の世界に生きる九尾の狐ですからそれでも嬉しい事なんでしょうけれど。結局彼女は太公望に封じ込められて、妖怪にもなれずという結末。
彼女は日本に渡り、人々を苦しめた妖狐でしたが、結局退治されて石に封じ込められて神様として祭られるのですよね。
この結末の違い。
日本っていい国だなぁとつくづく思いました。
長唄から変なお話に転換して済みません。