イサムは
わたしにも気さくに話をした。
「おばちゃん、あんなぁ~」
で始まる彼の話を
わたしは家事をしながら
いつも、テキトーに聞いていた。
息子たちの話を聞くのと同じ。
ある日、イサムが言った。
「おばちゃん、あんなぁ~
お父さんとこに行ってんやん。」
うんうん、そうかとあいづちをうつと
「お父さんとお母さんは別れてんけどな。
仲良くできるかもしれへんねん。」
彼は何をわかってほしいんだろう?
小1の語彙で
せいいっぱい伝えていることはなんだろう?
「そうかぁ。仲直りするかもしれへんねんなぁ。」
と言うと
「うん!」
とにこにこして
彼は、ポケモンごっこに戻って行った。
お母さん大好き、お父さん大好き
って言ってるんだなぁ。
そのとき
イサムのお母さん、どうしてるかな
と思ったけれど
そのまま、忘れていた。
2年ほどたった、ある日
イサムママから電話がかかってきた。
「あの・・・イサムがしょっちゅうお世話になっているそうで・・」
毎日入り浸ってるよ、知ってるの?迷惑だと思うよ。
と言った人がいたそうだ。
イサムママが電話をくれたことが嬉しくて
ずっと言いたいと思っていたことが
口をついて出た。
「すっごい優しいお子さんですよね!
どうしたら、そんなふうに育てられるんですか?」
「え・・そんな・・はずかしいです。」
と、彼女は言った。
ああ、よかったな。
誰か助けてくれる人、力になってくれる人が
いたんだろうな。
そして、彼女自身が
とてもとても頑張ったんだろうな。
不審そうにわたしを見た
暗い目を忘れない。
彼女はあのとき
必死で自分を守っていたのだと思う。
その中で
イサムはとても健気だったし
彼女自身も
とても頑張っていたのだと思う。
その後
イサムママは
気軽に声をかけてくれるようになった。
3号をクリスマス会に
招待してくれたりもした。
それぞれが、一所懸命生きている。
イサム、どうしてるかな。
あいかわらず、優しいんだろうな。