元箱が無いので 制作年代ははっきりしませんが 衣装の作りなどから 昭和初期頃のお雛様ではないかと推測される有職雛(ゆうそくひな)が手元にあります。
有職雛は 宮廷文化を継承するお雛様で 宝暦(1751~1764年)・明和(1764~1772年)年間頃 御所の有職(公家や武家の儀式や行事を荷う役職)の家柄である 京都の山科家・高倉家によって作られたお雛様だと言われています。
特徴は 面長な顔に 切れ長な目で優雅さが漂います。
口元には 京紅をさし 手すきで おすべらかし(王朝髪)を結い上げます。
衣装は十二単のような色重ねを重視し 菱や亀甲などの地模様が織り込まれた布地に 花や雲 蝶や波などの優美な模様が描かれます。
手持ちの有職雛も この特徴にぴったりのお雛様です。
台座や 女雛の衣装から推測すると おそらく昭和初期以前くらいの年代があるお雛様ではないかと思います。
残念な事に 衣装の模様や刺繍 お顔はきれいに残っているのですが 持ち物が無くなっていたり 襟元にシミができてしまっています。
男雛です。
男雛が着ているのは 丸襟で唐風のもので 《縫腋袍(ほうえきほう)》と呼ばれる衣装です。
下部分に垂れている 細い前掛けのようなものは 《平緒(ひらお)》と呼ばれる帯で 剣を腰に下げるための役割をしています
衣装には 雲や鳳凰が織り込まれています。
色重ねのため 重ね着をしているのが袖口から解りますね。
後ろの白い大きな帯のようなものは 《下龍の裾(しもがさねのきょ)》と呼ばれるもので 身分が高いほど長くなります。
高級なお人形ほど 手が込んだ刺繍を施しているそうなので この男雛は それなりなんでしょうね。
下龍の裾の中央にある 黒い細帯は 《石帯(せきたい)》と呼ばれる牛革の帯で 装束がはだけないように押さえる役目があります。
これには 石でできた飾り物をつけるので 石帯と呼ばれるようになったそうです
この男雛にはついていませんが(無くなってしまっているのかもしれません) ★印の部分には 行事の際に 《魚袋》という 魚の形をした札を入れる袋をつけるそうです。
その袋の色は 公卿(くぎょう)(左大臣 右大臣 大納言 中納言などの 律令時代の国政を担う最高幹部)は金色 殿上人(てんじょうびと)(天皇が日常生活を行う清涼殿の殿上間に昇ることを許された者の中から 公卿を除いた四位以下の者)は銀色と決められていました
白い襟元のシミが残念だな・・・。
お顔は凛として とてもイケメンですが 烏帽子が無くなっていました。
女雛は 衣装もお顔も とても優美で美しい~~
何と言っても この衣装の美しさ
袖口や襟元には 鮮やかな鳳凰が舞飛んでいます。
女雛も残念な事に襟元にシミ
色重ねをして重ね着をしているのが見える部分は 《五衣(いつつぎぬ)》と呼ばれます。
重ねる部分は 季節や身分 行事によって違ってきますが ほぼ5枚重ねが一般的だったことから 五衣と呼ばれるようになったそうです。
随分とシミが出てしまっていますが 後ろかかるベールのような薄い布は《裳(も)》
元々は 唐から伝わった時には 筒状の長いスカートのような形をしていましたが 歩行の妨げになる事から 後ろ側だけの短いもので 衣装の上を覆うような形になりました。
おすべらかし(大垂髪)も とても大きくきれいに結い上げています。
おすべらかしは 去年の天皇陛下の代替わりの一連の行事で 皇后さまのお姿でたびたび目にしていましたよね。
おすべらかしは 額櫛(ひたいぐし) 釵子(さいし) 3本の簪と 紫色の紐で髪を後ろに流します。
ちなみに 額にある 2つの丸いものは 殿上眉(てんじょうまゆ)と呼ばれるもので 殿上人(清涼殿殿上の間に昇り 天皇の側近として仕える資格がある貴族)の化粧の一つです。
眉を剃り落として 墨で丸い点を描き 《置眉》とも呼ばれます。
目のすぐ上にある眉は 眉を剃り落としたあと 元々の眉を墨で薄くなぞったもので 《引眉》と呼ばれます
後ろに流した髪は 4か所で結びます。
(上記のお雛様についての詳細は ネットを参考にしました)
この有職雛は 男雛の烏帽子の他 付属品の笏や檜扇も欠損していたので 手持ちも部品の中から 時代が同じころの物を燃せましたが 大ぶりなお雛様なので できれば もう少し大きなものがあればよかったな~~
畳敷きの親王台も一つだけ 繧繝模様部分に 擦り切れがありますが これは 下手に直さずこのまま飾ろうと思います。
さて 話が長くなってしまいましたが この有職雛は とても大きくて立派です。
江戸時代 50センチを超える大きなお人形として知られる享保雛に比べれば 半分ほどの大きさですが・・・
こちらの享保雛は 京都にある 博物館さがの人形の家の所蔵品
画像は 手持ちの資料本 緑青 全国のお雛様めぐりからお借りしました。
女雛のおすべらかしの広がり具合を 手のひらと比べると大きさがよくわかるかと思います。
この間ご紹介した 三人官女の大きさと比べていただければ 有職雛が大きいのが一目瞭然
官女さんは 芥子雛や豆雛と言われる 小ぶりサイズ
雛人形は 頭を引き抜くと 首部分に 作者の銘が描かれていることが多いのですが この有職雛には 七番 八番の数字が描かれていました。
これは お人形のサイズを表すもので 数字が小さいほど 大きなお人形になるそうです。
大きな有職雛も 小さな三人官女と一緒に 雛の筥展で展示しますので ご覧くださいね。