外出先から実家に戻った時、77歳の父がテレビを観ていて、「大輔、この番組、面白いぞ」といった。
NHKの「欲望の資本主義」という番組だった。
一緒に番組を観ていると、ドイツのボン大学で新実在論(哲学)を語っているマルクス・ガブリエル教授が出てきた。
「この人、俺、会ったことある」といって、スマホを操作してこの写真を見せると
「ほんまや!」と父が驚いた。
今、テレビの液晶画面の中に現れ、経済について語っている外国人が、私のスマホ画面の中にも現れ、しかも、その横に自分の息子が一緒に写っていたので、この現象に、かなりびっくりしたようだ。
「なんで、この人、知ってんねん?」と聞かれたので、「去年、日本に来て、東京の大学でも講演したので、2回、聞きにいったからや」と答えると、父は、なんで55歳の息子が大学に行って、ドイツの大学教授の話を聞いているのか、事情がさっぱりつかめなかったようで、黙ったまま再び注意をテレビに向け始めた。
番組を観ていて、私が面白いなと思ったのは、AIなどテクノロジーの進化について語ったガブリエル教授のこんな言葉だった。
機械が作られる目的は、経済の効率化や製造プロセスの合理化ですが、その時、お金では買えないような価値や意味が見過ごされてしまいます。
それはいわば私たちの実体験です。
芸術作品を見たり、ワインを片手に家族や友人と楽しい時間を過ごしたり、そういった体験をする時こそ、私たちは現実の世界にいます。
この言葉を聞きながら、私たちは「こうして親子で一緒にくつろぎながらテレビを観ているこの瞬間こそ、お金では買えない現実の世界にいること」を楽しんでいた。
ガブリエルさんは、ともすれば机上の空論になりかねない哲学を、こうした言葉で現実の中に引き戻し、自由を追い求めながら、極一部の資本家だけが富み、貧困に苦しむ人たちを世界規模で増やし続ける「偽りの個人主義」「欲望の資本主義」の暴走に警鐘を鳴らしている。
お知らせ
お金を求めて働き続ける「欠乏サイクル」からの解放
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