近くの雑貨屋でタバコとビール三本、ジュースと菓子を買った。子供が遠慮して小さな菓子袋を手に取ったので、同じ菓子の大袋を買ってあげた。
ネーンが作ってくれたソム・タムをつまみに、ビールを飲む。
「辛くないでしょ、テッチャン。」
「うん。ネーンも飲む?」
「飲むわよ。」
当たり前でしょと言うように、ネーンが微笑みながら隣に座った。
「私たち、結婚したの。」
ついにケイが言ってしまった。するとネーンは了解していたように頷いて、また微笑んだ。
「見て、見て。」
ネーンが携帯電話を取り出して、赤ん坊の写真を見せた。
「ゲームの子と顔が似てるね。」
一旦家に帰っていたメーが、小さな男の子を連れて来た。ものすごく色が白くて、ひょろひょろしている。そう、まるで私のように。
「誰の子。」
焦って聞いた。
「ゲームの子よ。」
とネーン。
まさか!人生には、「まさか」という坂がある。いや、待て。冷静に考えろ。オレの子にしちゃ、ちょっと大きくないか?ゲームには、もう一人子供がいたはずだ。チェンセーンの男の家に預けてあると言って写真を見せた。その男にも捨てられて、養育費を送っていると言っていた。
「この子、お米を全く食べないのよ。」
メーが言った。「テッチャン、あなたの子よ。」と言わないで本当によかった。
私は、ゲームを捨てたわけではない。ゲームが、私に見切りをつけたのだろう。男の子を抱き上げると、メーが嬉しそうに微笑んだ。
ネーンが、小屋の裏で皿を洗っていたメーのところへ行き、何やら耳打ちした。一瞬驚きの表情を見せたメーの口が動いたが、聞き取れない。きっと、私とケイのことだろう。二人が戻って来た。
「テッチャンたら、ここに来るのを怖れてたのよ。新しい彼女ができたから会いに行けないって。よくないって。」
コラッ!余計なことを言うな、ケイ。
「構うもんですか、そんなこと。気にしないで。」
メーが言ったのは、私を気遣ったからだろう。
もう一度ゲームの上の子と雑貨屋に行き、ビール三本とアイスクリームを二つを買って来た。
「ここの土地代は払ってるの?」
ネーンに聞いた。
「月たったのニ百バーツよ。」
代わりにメーが笑って答えた。
「自分たちで全部草を刈ったのよ。」
とネーン。
「テッチャンが来たのよ。話す?」
オー・マイ・ゴッドネス。ネーンがゲームと電話で話している。私はおそらく臆病な犬のような目をして、首を横に振った。
「話すことないってさ。」
ネーンが意地悪そうに言って電話を切った。
なんでもゲームは、バンコックのバーンナーというところにいるらしい。そして、毎月二千七百バーツを送金してくるそうだ。私とは円、いや縁がなかったのかもしれない。今度会う時には、私のことを友達として受け入れてくれればいいのだが。いや、こんなことを言うのは、勝手かもしれない。
夕方店を閉めてから、ネーンの家に行った。ケイとゲームの長男も一緒だ。何度か来たことがあるので、夫のポンの母親は私のことを知っている。
「ポンが仕事の帰りにビールを買って来るから待ってて。」
ネーンが言ったが、いい加減酔っ払った。
ネーンの産んだ赤ん坊が目覚め、ネーンが抱き上げる。ネーンもお母さんになったんだなあと思う。とても幸せそうだ。
ポンの運転するピックアップが着いた。親友で、私同様釣りキチだ。前回の釣り堀勝負では、私の圧勝だった。私の仕掛けとナムラットの雑貨屋で買った一番高い練りエサに対抗できなかった訳だ。
「いいリールを買ったんだよ、テッチャン。」
「いくらだった?」
「五千バーツ。ボートも買っちゃったよ。明日の朝、釣りに行かないか?行きたいだろ、テッチャン?」
ボートは4600฿。モーターも買ったらしい。
「朝の5時じゃ起きられないよ。」
「テッチャン、オレ日本のルアーが欲しいんだよ。」
「いっぱいあるから、あげるよ。今度持って来る。」