「ゲ、ゲ、ゲームだ!」
どうしよう。恐れていたことが現実になっちまった。バンコックにいるんじゃなかったのかよ。あっ!メー(母)とゲームの子供も一緒だ。修羅場だよ、修羅場。どうするフルテツ。逃げるか?逃げちゃうのか?とほほ、手招きしてやがる。クソッ!こうなったら、なるようになれ!
バイクを運転して通りを横断し、路地に入れた。するとすぐに小屋の脇からメーとゲームの子供が出て来た。
「ここに停めなさい。ここ、ここ。」
メーに言われてバイクを停め、ワイ(合掌)をして挨拶した。
「よく来たねえ、テッチャン。ほら、入って入って。」
別に来たくはなかったんですが成り行き上こうなりまして……そんでもって、あまり入りたくないので、できればここで失礼します。おい!後ろから押す奴があるか、ケイ!
「あっ!ネーン。」
「サワッディー・カー、テッチャン。ウフフ、ゲームだと思ったんじゃないの?」
笑顔で迎えたのはゲームの妹のネーン。
「う、うん。子供を産んだんだね。」
前に会った時は妊娠二箇月だった。
「ええ。テッチャン、ソムタム食べる?私の作るソムタム食べてくれる?」
勧められてケイとテーブルに着いた。ケイは沈黙を続けている。
「店を始めたんだね。いくらかかったの?」
「これ全部作るのに一万バーツ以上かかったわ。ガイ・ヤーン(焼き鳥)はもう売り切れたから、明日来れば食べられるわよ。来る、テッチャン?」
「ああ、来るよ。」
ゲームの子供が、私のことをずっと見ているのに気付いた。ケイと一緒だから「ポー(父ちゃん)」と呼ばないのだ。
この男の子は、ゲームが養育費を払って空港の近くにある父親の実家に預かってもらっていた。一度、ゲームと迎えに行ったことがある。私にとてもなついていた。エーンと遊んだこともある。週末をゲームの家で過ごしてから実家に送って行くと、ヤダと言って大声で泣いた。父親は女を作って結婚し、別の子供をもうけたと聞いている。
「タバコが切れた。買って来るよ。」
そう言って立ち上がり、右手を差し出すと、男の子が私の手を握り締めてきた。