「おはようございます」
ノルテのアルバイトも慣れてきて
本当にずっとここでアルバイトで一生を終えても良いかも知れないと思い始めてきた。
「おお、おはよう。朝飯食ってきたか?」
「はい。いただきました」
「そ。」
「マスターの料理、本当に美味しいですね。」
「母親が死んでから飯はオレが作ってたからな。
韓国料理も結構作れるよ。今度作ってやろうか?何が食いたい?」
「ドンヘはチャプチェが好きなんですよ。作ってあげたら喜びますよ」
「んふふ…お前の好物を聞いてるのに、ドンヘの好きなものを言うって」
「あ、そうですよね。オレは、、、キムチチゲが好きです」
母親が得意だった料理
キムチチゲを食べるたびに『美味しい?いっぱい作ったから沢山食べな』言いながら嬉しそうに笑う顔を思い出す。
「ヒョクチェ?」
「はい」
「お前母親を名乗ってドンヘを騙した女が憎いか?」
「、、、女より、オレの母親だと名乗らせたイジュンギが憎いです。オレの母親は…料理上手で、怒るとめちゃくちゃ怖くて…けど、優しくて、気持ちがさっぱりした人…だったんです」
「うん…そうだろうな。お前という人間を見てればわかるよ」
マスター、、、
「あ、キムチチゲ久しぶりに食べたいです」
「、、、分かった。今日は材料がないから今度賄いで作ってやるよ。チャプチェも作るからドンヘに持って帰ってやりな。」
この街で生きてもいいかも知れないって思うのは、このマスターがいてくれるからっていうのもあるのかも知れない。
「あ!そうだ!知ってます?アレ」
ランチの仕込みに忙しそうなマスターに声をかけた。
「ん?アレって?」
「オノミチオってゆー…ゆるキャラ?なのかな?」
「ああ、なんか出来たらしいな尾道のご当地キャラ的なやつだっけ?」
「そう!昨日遭遇したんですよ」
「え!?え?!?えぇぇぇ〜っ!?」
え?そんなにビックリします?
「俺は一回も会ったことないよ。結構ブラブラしてるらしいのに」
「ドンヘは何回か遭遇したって言ってましたよ」
「あいつ持ってんなあ」
「んははっ…」
ゆるキャラに何度か遭遇しただけで『持っている』のかどうかはわからないけれど
ドンヘの笑顔が見れたからミチオくんには感謝だな。
「おーい!ヒョクチェ、こっちビールちょうだい」
常連さんはオレをちゃんと名前で呼んでくれるようになっていた。
オレをこの店のアルバイトとして受け入れてくれていると思うと嬉しくなる。
オレは日常会話くらいの日本語なら聞き取れるようになっていた。
「ヨロコンデー!」
そう返事をしサーバーからビールをジョッキに注ぎ
「オマチドーデース」
「日本語上手くなってきたなあ」
「アザース!」
なんて会話も出来るようになっていた。
「そういや、あんたぁ潜艦アパートに住んどるんか?」
この人は商店街で魚屋を営んでいる人だ。
「ハイ」
「なあ?航、もうちっとええトコに住ましたらんといけんよ。この子もこげえに一生懸命働きよるんから」
「ナンテイイマシタカ?」
広島弁の長台詞は流石に聞き取れない。
ワタルと言ってるし、マスターを見て話してるからマスターに言っているのだろうけれど
「あの部屋が気に入ってるんだよな?」
韓国語で聞いてくるマスター
「あ、はい。いや、気に入っては、、、」
「まあ、全てのことがクリアになって、二人がこの街に住んでもいいって思えたら、ちゃんとしたところを紹介してやるよ」
ああ、この魚屋の店主はオレたちの住むボロアパートの事でマスターに意見を言ってくれたんだと気付いた。
「今のオレたちには住むところがあるだけで、ありがたいんですよ」
マスターやオオトモイッカの人たちや街の人たち
みんなが優しくて
マスターが言ったように全ての事が解決した後、
ドンヘと二人、こんな風にこの街で平和にくらせたら幸せなのかも知れない。
その日もドンヘを迎えに行くと
「今日も散歩だよ」
‘留守番のコウキに言われた
「カシラと?」
「ああ、、、暇を持て余してるんだろうな。何にも無い街だから、、、」
「ドンヘはこの街が好きだって言ってたけどな」
そんな話をしていると いきなり事務所の引き戸が開いて血だらけのカシラが飛び込んできた
「っ!?カッカシラ!!」
二人で駆け寄る
「ド…ン…オヤジ…イジュ…」
それだけ言ってミナミのカシラは気を失ってしまった。
「救急車!コウキ!」
「あ、ああ…なんだよ?これ、守ってた本家の奴らは!?どうしたんだよ?ドンヘさんは?!それに…」
「そうだよ!ドンヘはっ!?ドンヘっ!?」
外に出ようとすると 目の前にいた誰かに押し止められた。
「なんだよ?!」
「こんばんは、オオトモイッカの皆さん」
「っ?!、、、」
コイツは、、、
「ああ、お前はウチの人間だったな。イ.ヒョクチェだったか?」
イ、、、ジュンギ
つづく